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はじめに


 本WEBでは、企業が成長する真の原理について、その探求をしてみたいと思う。それは、学問の領域にこだわらず、「人間」というキーワードに基づいて、探求するものである。この視点に立って、企業と個人は、どのように関わるべきか、企業が成長し、衰退する本当の理由は何か、社員はどうしたら自発的に働くようになるのか、などといった、企業にまつわるあらゆる問題に本質からの考察を試みたいと思っている。  

 本考察が、企業と人との関わり方について、日夜苦心されている方々にとって、一つの指針になることができれば幸いである。  

株式会社アントレプレナーセンター  福島正伸



 


目次・テーマ


第1回 「組織と人間に法則はあるか」

―最強企業の法則―

【1】企業が成長する真の理由は?

【2】企業とは、いったい何なのか?

【3】真の企業の強さとは?

【4】最強企業の3つの法則

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第2回 「人間と仕事」

―生きるために働くのか、感動するために働くのか―

【1】面白い仕事と、面白くない仕事

【2】上司には何の権限もない

【3】目的を持つとは、いかなる困難をも受け入れること

【4】何のために働くのか

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第3回 「企業は成長するほど内部崩壊する」

―企業の成長と人材の成長が反比例する―

【1】企業をむしばむ利益追求

【2】企業は成功するがゆえに崩壊する

【3】安定を目指す企業ほど、安定できない

【4】企業は将来の個人の意識で決まる

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第4回 「企業の目的はビジョンの達成にあり」

―成長するほど社会的に賛美される企業―

【1】夢は人を元気にするー疲れるのは夢がないから

【2】ビジョンの共感者集団としての企業―探検隊型企業

【3】ビジョンの4条件―社会性・具体性・困難性・希少性

【4】ビジョンを持つ人に人が集まるービジョンに向かう姿勢が共感を得る

【5】他社との競争から自己との闘いへー本当の競争相手は昨日の自分

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第5回 「利益よりも優先する企業ポリシー」

―上司はポリシーの実践者―

【1】ポリシーはあらゆることに優先する

【2】ポリシーが浸透しない理由

【3】ポリシーはあらゆることに優先する

【4】顧客はポリシーの共感者―消費者から共感者へ

【5】信用よりも大切なものーイメージから真実へ

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第6回 「企業の成長と社員の幸せ」

―企業を通して社会に貢献する社員―

【1】就職に成功して人生に失敗するー一流企業を崩壊させる一流大学生

【2】「社員の幸せ」が企業を崩壊させるー幸せとは同じ目標に向かって共に苦労すること

【3】尊敬されない上司が企業を崩壊させるー職位は部下から与えられるもの

【4】出世の目的化が企業を崩壊させるー出世のために働くフリをする社員

【5】忠誠心が企業を崩壊させるー求められる社会に対する貢献心

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第7回 「社員が働く2つの動機」

―安楽の欲求と充実の欲求―

【1】働く社員と働かない社員ー待遇で人を集めるか、共感で人を集めるか

【2】安楽を求めるほど安楽が得られないー満たされる事のない安楽の欲求

【3】努力するほど充実した人生になるー最高の充実感は感動させることで得られる

【4】ゲームセンターが成り立つ理由ービジネスはゲームセンターよりも楽しい

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第8回 「企業を成長させる自立型社員」

―自立型姿勢の定義―

【1】自立型姿勢と依存型姿勢ー欲求によって考え方が決まる

【2】自立型姿勢の定義ーどんな時でも全力を尽くす

【3】自立型姿勢の5つの要素ー不可能を可能にする考え方の体系

【4】自立型と依存型の違いー未来に期待するか、未来を創造するか

【5】プラス受信の3原則ーすべてがチャンスになる

【6】自立型姿勢と人間的成長ー変化・成長する姿勢

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第9回 「自立型社員を育成するメンター」

―管理から支援へ メンタリング・マネジメント―

【1】いくら教えても人が育たないー教えるのではなく気づかせる

【2】管理するほど、やる気がなくなるー管理から支援へ

【3】自立型人材を育成するメンターー自らの姿勢で示し、信頼して支援する

【4】管理型マネジメントとメンタリング・マネジメントー恐怖で動かすか、尊敬で動かすか

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第10回 「リスナーによる問題解決」

―相手が勝手にやる気になる―

【1】教えるほど考えなくなる部下ー教えるのではなく引き出す

【2】自分で気づかせるリスニングー自分で解決するからやる気になる

【3】リスナーの条件ー5つの実践ノウハウ

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第11回 「一人の思いが企業を変える」

―組織を変革する一人の生き方「まずは私がやる!」―

【1】企業の中で主体的に生きるーすべては自分が選択したこと

【2】100円で世の中を変えるー厳しい条件の中で知恵を出す

【3】一人の思いが企業を変えるー大企業の変革は一人から始まる

【4】思いの法則ー醸成・発揮・伝播・吸引・実現

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第12回 「相互支援型企業(助け合う組織)」

―他部署のために何ができるか―

【1】みんなが成功するセミナーー他人を成功させると自分が成功する

【2】自分のやったことが自分に返ってくるー他人は鏡

【3】相互に支援する組織ー組織活性化のポイント

【4】役割分担から役割認識へー仕事とはビジョンに近づくこと

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第13回 「最強の企業とは」

―3つの条件―

【1】最強企業への前提ー人間社会の基本原則

【2】企業と個人の理想の関係ー自立型社員による相互支援型組織

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第14回 「自立相互支援型企業の仕組み(1)」

―自立と相互支援を促進する方法―

【1】自立型人材のための仕組みと制度の在り方ー方法は無限にあるが万能なものはない

【A】 自己の社会的生産性と存在価値が常に認識できる方法ー仕事の意義が常に分かる

【B】容易に変化できる仕組みと制度ー常に生産性を高める

【C】 個人の自発性を重視した制度づくりのヒントーすべてを自分で決める

【D】他人や他部署を支援する取り組みー社内のすべての資源を相互活用する

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第15回 「自立相互支援型企業の仕組み(2)」

―自立と相互支援を促進する方法―

【1】意識の共有化ー言葉を共有化して、共感者集団を創る

【2】コンセンサス研修のススメー唯一の目的は社員の意欲を高めること

【3】正しい評価方法とはー他に貢献できる人ほど高い評価を得る

【4】アシスト評価についてー他人の評価を高められる人を高く評価する

【5】プロセス評価(チャレンジ評価)についてー失敗するほど評価が高くなる

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第16回 「TS(トータル・サティスファクション)」

―理想の企業活動―

【1】CSからTSへーすべてに価値・感動を提供する企業へ

【2】すべての人々を幸せにする工務店ー家を建てることで地域に貢献する

【3】TSの2大ポイントー問題解決と価値創造

【4】TSの4つのテーマー社員の家族から未来の人類まで

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おわりに 「夢しか実現しない」

―組織の変革は自分自身の意識変革である―

【1】すべては1人に始まるー自分が変わると世界が変わる

【2】すべては僅かな差であるー僅かな意識の差が大きな数字の差になる

【3】今日一日を精一杯生きるー最高の人生とは充実した1日を送ること

【4】顧客に感動を与える最高の商品ー自分の生き方で感動させる

【5】夢の10か条ー夢しか実現しない

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第1回 「組織と人間に法則はあるか」
―最強企業の法則―


【1】企業が成長する真の理由は?

 まず、以下に本考察から生まれてくる幾つかの結論を挙げてみたい。これらの幾つかは、今までの企業の考え方からすれば非常に違和感のあるものかもしれない。

-------------------------------------
(1) 売り上げを目的にするほど、企業の社会的存在価値は失われていく。
(2) いくら社員教育をしても、仕事の生産性は上がらない。
(3) 出世を目的にした個人の生産性は落ちていく。
(4) 目標管理をすればするほど、目標が達成できなくなる。
(5) いかなる制度、組織も、社員をやる気にさせることはできない。
(6) 社員の幸せを考えると、会社は崩壊する。
(7) 他社との競争が企業を存亡の危機に立たせる。
(8) 安定は、崩壊の始まりである。
(9) 信用を大切にしようとするほど、信用を失う。
(10)過去の成功が将来の失敗を招く。
---------------------------------------

 とても考えられないことばかりのような気もするかもしれないが、現実にこのようなことがあらゆる企業で起きている。なぜ、このようなことが起きてしまうのだろうか。その理由について私は、企業の在り方とそこに関わる人の意識に根本的な原因があると考えている。
以下に、これらの結論が導かれた理由について、本連載の基本的な考え方を踏まえ、簡単にまとめてみたい。


(1) 企業の目的は社会に貢献すること、そして企業の成長が社会に貢献するものでなければならない。そのために、企業は業務をひたすら改善、向上していく必要がある。売上を目的にすると、企業は、いかに楽して売り上げるかという方向性を持つことになり、その結果、そこで働く個人の意識は、売上が上がれば安心し、同じレベルの仕事を繰り返して、グローバルスタンダードから見れば、全く通用しない企業になってしまうことがある。

(2) すべての教育は、自発性を前提に行われるべきもの。自ら学ぶ意志のない人は、どれほどたくさんのことが学べる環境にいたとしても何も学ぶことができない。また、どれだけ多くの知識や経験があったとしても、それを活かしていこうとする意欲がなければ、生産性を上げることはできない。

(3) 自らの社会的生産性を高めることが個人の目的であり、出世はその結果にすぎない。一見、出世は、人の意欲を高めるようであっても、現実にはリスクのあることに消極的になったり、問題に対しても自己責任の姿勢を失ってしまう。改善向上することよりも失敗しないこと、出世に関係あることだけが関心事となり、その結果企業全体の活力もなくなってしまう。さらに出世の目的化は、まじめに真剣に仕事に取り組む人よりも、自分の出世のためなら手段を選ばずに奔走する人をつくり出し、現実には、そのような人ほど出世をして、企業の本当の活力は失われていく。

(4) 目標は、自らの意思で選択し、やると決意して臨むものである。管理は強制につながり、管理されるほど、人と企業の信頼関係は崩れていく。管理されるほど、人はイヤイヤ仕事に取り組むようになってしまい、その結果、目標は達成されなくなる。やる気のない人に、目標は達成できない。個人の自発性をいかに育むかが、目標達成に最も必要なことである。

(5) 制度やシステムは、それを最大限に活かそうという意志を持った人がいることによって成果につながるものである。そもそもやる気のない人にどのような制度、システムを提供したとしても、活用されることはないだろう。そして、社員のやる気は上司、トップが見本となって示すことによってしか、高めることはできないものである。

(6) 社員の幸せとは、社員にとって、安楽な環境をつくることではなく、共にビジョンに向けて努力し、充実感を得ることである。企業はその目指すビジョンに向けて、共感した人々によって構成されるべきであり、その企業に所属する目的が自分の安楽のためだとすれば、企業そのものが崩壊してしまうだろう。

(7) 企業の目的は、他社に勝つことではない。より社会に貢献するために自己変革することである。他社に勝つこと、マーケットシェアを拡大することは結果であり、どれだけ社会に価値・感動を与えられるかが、企業の目的なのである。他社ではなく、顧客に目を向けなければ、さらなる価値・感動を提供しうる新たなベンチャー企業群にマーケットを蹂躙されてしまうだろう。

(8) 企業は、安定を目指すものではなく、より高い社会的価値の創造を目指し、チャレンジし続けるものである。安定は、その結果にすぎない。たとえ安定を得たとしても、その意識が企業の改善向上を消極的にするため、絶え間なく変化する社会の中では、将来的に企業そのものが崩壊してしまうだろう。

(9) 多くの企業が信頼を大切にするあまり、その実態よりも企業イメージを優先している。しかしながら、いくらイメージを大切にしても、そこから信用は生まれることはない。商業広告よりも、その実態によって、顧客・社会は信用するかどうかを決めているのである。信用は、真実からしか生まれない。

(10)絶対的な事業の成功法則はない。いかなるマーケティング、ストラテジーも万能ではない。過去と同じことをやって成長し続ける企業は存在しない。過去にうまくいった体験が、そのうまくいった方法を、将来も繰り返して経済環境の変化に対応できなくなることがある。企業が成長し続けられるかどうかは、その目的とすること、そしてそこに関わる人々の意識によって決まる。売上が上がらなければ目標管理を厳しくすればよい、社員が働かなければ新しい制度を取り入れればよい、といった単純なものではない。企業の業績は、そこに働く人々の活動の結果であり、その活動が自発的な意識に基づいたものでない限り、業績が向上し続けることはないだろう。企業がどのような存在であるかは、そこにどのような意識を持った人々がいるかに尽きると言っても過言ではない。



【2】企業とは、いったい何なのか?

 一時、企業の寿命説がもてはやされ、バブル崩壊後、それが今、現実に起こっている。しかし、なぜ企業には寿命があるのだろうか。その原因はいろいろと考えられているようだが、一言で言えば、企業が成長していくにつれて社会に必要のない企業になっていくからに過ぎない。
 企業は、成長するにつれて、長期的な借り入れができたり、多くの社員を抱えることによって、企業内の価値観に大きな変化が起こり始める。次第に存在そのもの、つまり、永続的に企業が存在することを目的化していくのである。そこでは、社会に貢献するというようなビジョンや、顧客第一主義といったポリシーよりも、存在を維持していくための売上・利益が優先していく。それはまた、「創造・挑戦」から、「安定・維持」へと企業の主題が変化することでもある。終身雇用、年功序列、出世主義などは、企業そのものの存在、安定的成長を前提として生み出されたシステムである。しかし、企業の存続第一主義の下では、社会人ではなく会社人がつくりあげられてしまう。
 社会人とは、社会に価値を提供するために自発的に行動する人のことで、それに対して、会社人とは、言われたこと決められたことは確実にこなすだけの人のことである。
 そして、売上さえ上がれば、利益さえ出せば何をしても構わないといった風土が蔓延し始める。働く人々は、いかに自分が楽をして得をするか、いかに要領よく仕事をこなして高く評価されるか、ということだけが関心事となり、問題を他人のせいにしたり、仕事をする振りをしたり、さらには他人の仕事に協力していくことに消極的になっていく。そして、改善向上していくことよりも、確実に自分ができることだけをひらすら繰り返していこうとする。いつの間にか自発性を失い、ただ言われたことだけをやるようになってしまうのである。そうなると、どれほど組織化され経営資源に満たされた大企業であったとしても、その社会的生産性は、急激に落ちていかざるを得なくなるのである。
 つまり、企業が成長すると、存在そのものが目的化し、そのためにそこで働く人材が意欲を失い、その結果として企業が崩壊していくというわけである。そして、最後には個人も雇用調整の荒波に決める運命をたどることになる。
 さらに、これまでの経営理論は、企業の成長を大前提として考え出されてきている。これまで社会的に賛美されてきた企業は、売上を伸ばし、その規模を拡大してきた企業ばかりである。ここでも成長することが何よりも正しいという発想が根底にある。しかし、この発想からは、社会的に必要のない企業が、利益を出しているというだけで、高い評価をされるといったことが必然的に起きてくる。例えば、営業利益がなくても営業外収益によって企業が成長することが正しい企業活動になったり、官僚接待や、賄賂などといった反社会的行為が起きる温床になりかねない。大企業が金融取引で失敗して、社会的な非難を浴びたり、トップ官僚が逮捕されたりといった事件が相次いでいるのも、企業が利益追求を何よりも優先していることが、その原因の一つにあることは、言うまでもないだろう。
 成長し続けることが何よりも大切、という発想のもとでは、必ず企業は崩壊していかざるをえない。現在の経済社会の流れであるグローバルスタンダードという観点からも、生き残れる企業であるはずはない。またさらに、そのような企業を維持するために多くの社会的財産や労力が使われているとしたら、それこそ大変な社会的損失と言わざるをえないだろう。
 企業のための個人から、個人のための企業、さらには社会のための企業へ、つまり原点に戻る必要があるのではないだろうか。



【3】真の企業の強さとは?

 企業の強さを様々な数値で計ることがよく行われている。売上、利益、成長率等々・・・。しかし、よく考えてみると、これらは企業活動の結果にすぎないのではないだろうか。売上、利益、成長率などの数字は、強い企業が結果として生み出したもので、強い企業そのものではない。いわば、それらは過去の実績であり、未来に向けた現在の企業の本当の強さではない。つまり、過去にどれほど目を見張るような実績のあった大企業であっても、それが将来の成長を約束するものではないのである。
 本当の企業の強さを知るうえで重要なことは、結果ではなく、未来に向けた強さの要因を探ることである。
 では、その要因とは何か。企画計画力、商品開発力、営業力といったものだろうか。または、優れた戦略、戦術を常に生み出し続ける企業だろうか。しかしながら、これらもよくよく考えてみると、結果である。それらを生み出しているものがその以前にある。
 それは、人材、つまり人間である。どのような人がいるかによって、それらは全く違ったものになるはずだ。つまり、人間そのものに強さの秘訣があると考える必要がある。
 では、人間のどこを見ればよいのか。どれだけの知識を有しているか、どれだけ多くの経験をしてきたか、どのような技術を持っているか、どんな人脈があるかなどだろうか。残念ながら、それらはどれだけ持っていたとしても、やはり企業の強さを計ることはできない。そのことはすでに優秀な人材を数多く抱えた企業の多くが、アメリカのみならず、わが国でも崩壊の道を歩んでいることで証明されているだろう。
 重要なことは、その企業にいる個人個人が、それらを最大限に活用しようとする姿勢・考え方を持っているかどうかということなのである。
そのような姿勢・考え方を、私は一言で自立型姿勢と呼んでいる。それは、社会に貢献しうる明確なビジョンに向けて、どのような環境からでも自分が今できることを自発的にやっていくという姿勢である。
 あらゆる問題を自己責任で改善向上のきっかけとしてとらえ、他者に対しても支援を惜しまず、果敢にビジョンに向けてチャレンジする考え方である。



【4】最強企業の3つの法則

 このような自立型姿勢を持った人材によって構成される企業・組織には、大きく3つの特徴があげられる。それらについて、以下にまとめてみたい。

「第一の特徴は、理念共感型企業」
 人は何のために企業に入社し、そして働くのか。それは企業のビジョンを共有したからにほかならない。その達成に向けて自分の持っているものを最大限に発揮するのである。そこでは、他社に勝つとか負けるという概念も必要ないばかりか安定的成長も意味がない。
 最も大切なことは、どれだけ企業が理念に基づき、ビジョンに向けて闘っているか、近づいたかということだけである。もちろん、ここでいうビジョンは社会に価値・感動を与えるものでなければならない。

「第二の特徴は、自己責任型企業」
全社員が自己責任で考える企業は、問題・失敗を糧にして全社員が成長し、それによって企業が結果として成長することができる。他者責任の姿勢では、お互いに責任をなすりつけるばかりで改善や向上を阻むことになるばかりか、企業内に不信感がはびこることになる。問題や失敗をチャンスとして捉え、一つの問題が、改善や向上に努める企業こと成長し続ける企業である。

「第三の特徴は、相互支援型企業」
仕事は、やるべきことをやればいいというものではない。ただ仕事を確実にこなす労働者から、同じ目的に向けて共に努力する協働者へと認識の転換が必要である。社会のため、他の社員のため、お客様のために、自ら今何をすべきかを考え実行していく。そこでは、役割分担ではなく、その都度、自分の役割を自ら発見して行動するという役割認識が必要である。

 これら、3つの特徴の背景には、企業の真の目的が3つある。それら企業の3つの目的とは、第一に、ビジョンの達成、つまり社会に価値・感動を提供するということ。第二は、そこで働く個人の成長。個人の成長とは、精神的なものを含む全人格的成長。第三は、他との共生。他とは地球全体、国家社会、地域、他社、他人などのことである。
 これらの結果として、企業は成長する。そして、これら3つの特徴をすべて満たした企業が最強企業なのである。


第2回 「人間と仕事」
―生きるために働くのか、感動するために働くのか―


【1】面白い仕事と、面白くない仕事

 「人はいったい何のために仕事をするのか。私たちにとって仕事とはどのような意味を持つものなのだろうか。」このことについて考えてみたいと思う。
 以前、私は、新宿に事務所を構えていたことがあるが、そこから100メートルほど離れたところに駐車場があった。そこには、いつでも元気で明るい、60歳を過ぎたばかりの管理人のおじさんが働いていた。毎日のように顔を合わせていたが、いつもおじさんは明るい笑顔で挨拶をしてくれた。以前は、大手企業で働いていたそうだが、定年になって退社し、そして駐車場の管理人の仕事を始めたということだった。
 ある雨の日、駐車場に車を止めたとき、私は傘を忘れたことに気づいた。車の中でどうしたものかと考えていたところへ、スタスタと管理人のおじさんが近づいてきて、
「傘を忘れたんなら、これ持っていきなよ。」
と、自分が差している傘を、私にさしだしてくれた。
「でも、それって、おじさんの傘じゃないの?今日の帰りは遅くなるから、おじさんがいる時間に返せないよ。」
「いいんだよ。私のことはどうでもいいから持っていきなよ。」
「じゃあ、後ですぐに返しに来るから、少しの間だけ貸してください。」
管理人のおじさんは、いつもこんな調子で、自分のことよりも他人のことばかり考えてくれるような人だった。
 その駐車場は、時間貸しもしていたが、場所柄もあってか、いつも満車の状態だった。そんなとき、管理人のおじさんは、駐車しようとして入ろうとする車の運転手に、いかにも申し訳なさそうに謝っている姿をよく見かけた。そして、必ず道路に出て、その車が見えなくなるまで、少し薄くなった白髪の頭を深々と下げている。 
 そんなある日、寂しそうな顔をして、
「福島さん、実は今週いっぱいでこの仕事を辞めることになりました。妻が胸を悪くしたので、空気のきれいなところで、のんびり暮らすことにしたんですよ。いろいろお世話になりました。」と言って、頭を下げた。
「え・・・、それは残念だなぁ。でも、いろいろお世話になったのは、こっちのほうですよ。」私は、何とも言えない寂しさを覚えた。
 今日が最後というその日、私は、ちょっとした感謝の気持ちで、手土産をおじさんに持っていくことにした。駐車場に着くと、私はびっくりするような光景を目にした。管理人室は、駐車場の端っこにあって、やっと二人くらいが入れるくらいのプレハブ。その管理人室は、花束がいっぱいで中がまるで見えない。さらに置ききれなくなった手土産がドアの外に高く積まれてあった。
「おじさん、邪魔になるかもしれないけど、これもここに積んどくよ。」
「いやあ、どうもすみません。何の気遣いもいらないのに、申し訳ありませんね。私はこの仕事をして毎日毎日がとても楽しくて、とっても幸せでしたよ。」
「おじさんは、どんな仕事をしたって、みんなに喜んでもらえる人なんだよ。」
つまらない仕事なんかない。その仕事に関わる人の姿勢が、仕事を面白くしたり、つまらなくしたりしているにすぎない。私はそんなことを、管理人のおじさんから学んだ。
 仕事が面白いとか、仕事がつまらないというのは、その人が面白くなるように仕事に取り組んでいるか、つまらなくなるよう取り組んでいるかで決まるものである。楽しくやろうと思えば、何でも楽しくなってくるし、イヤイヤやれば何でもイヤイヤになってくる。
 私たちは、仕事の価値をそれに関わろうとする姿勢によって作っている。つまらない仕事だとつまらないものとなってしまう。つまらない仕事だと思い込んで取り組んでいると、必然的に仕事の生産性は落ちてくる。つまり、その仕事を通して、社会や他人に価値・感動を与えることができなくなるのである。仕事に関わる前に、私たちは既にその仕事の価値を決めていると言えるのではないだろうか。
 このことは、今どんな仕事に関わっていたとしても同じである。
 一流大学を出たのに、毎日がコピー取りの仕事ばかりだと言って嘆いている若手社員の声を聞くことがある。こんなことをするために大学を出たんじゃない、と。でも、よく考えてみてほしい。コピー取りの仕事って、それほどまでにつまらない仕事なのだろうか。
 私は、あるベンチャー企業の女性スタッフのこんな声を聞いたことがある。その人は、仕事のほとんどが、いわゆる雑務ばかりであった。電話応対に始まり、銀行へ行ったり、コピーをとったり、社会の清掃をしたりと結構忙しい。にも関わらず、彼女はとっても毎日楽しく仕事ができるという。
 「私の仕事はいわば雑用ですよね。みんな嫌がることかもしれません。でも、みんなが嫌がることをするって、とても気分がいいんですよ。自分が他の人の役に立っているって感じるじゃないですか。そのためにも、一つひとつの仕事の意味を考えるようにしています。この仕事をすると誰が喜んでくれるかを考えるんです。もちろん、相手は声に出して喜んでくれるばかりとは限りません。でも、それはカッコ悪いと思っているからじゃないかと思うんです。心の中では、きっと喜んでくれているはずなんですから。」
 今関わっている仕事の面白さは、自分の仕事に取り組む姿勢によって決まるのである。



【2】上司には何の権限もない

 ある会社で、部下のスタッフの一人が、上司に1つの新規事業の提案を持ってきた。その提案は、将来的に是非とも取り組むべき企画であると、すぐその場で上司も直感した。
 「この企画は、いつかやりたいものだね。だけど、今のうちの会社では、これだけの投資はできない。将来もっと資金的に余裕ができてからやろう。」
 「そうですか。。。私もちょっと資金が掛かり過ぎていることが気になっていましたが、もう一度考え直してみます。」
「そうしたほうがいいね。」
 その後しばらくして、部下のスタッフは、また同じ企画を上司の所に持ち込んできた。
「ちょっと、これを見てください!何とか、以前出した計算の10分の1くらいの投資からでもできそうなんですよ。」
部下は、事業のスタートを3段階に分けて、僅かな投資で少しの実績をつくり、そこから得た利益で、次の投資を行うといった計画を考えてきた。
「いや、残念だが、今はこれだけの金額の投資もできない。」
「そうですか。。。」
「今は、一銭も出せない。このことは、わかっておいてくれ。」
「・・・わかりました。」
 それからまたしばらくして、
「実は、営業のついでにこの企画を相談していたところ、これをやるなら、A社が先に前金を渡してくれるということになりました。実行は、三ヶ月後からということで、その前金を投資にまわせば十分に間に合いますよ。」」
「本当に前金で入るのか?」
「はい!」
「よし、それならすぐに始めよう!」
 部下は、上司には何も権限がないと言っている。上司がノーと言ったことを、自分が解決すればいいだけだ、自分の企画が通らないのは、ノーと言った理由を自分が解決していないだけだと言う。そのことを聞いた時、上司は1つだけ反論した。
「しかし、いつOKを出すのかは、上司である私に決定権があるんじゃない?」
「いえ、上司には、その決定権もありません。上司がいつOKを出すのかは、どれだけ早く自分が課題を解決したかで決まりますから。」
 すべては自分で決めている。会社の中で企画が通らないのは、上司が指摘した問題点を解決する努力を自分がしていないからだ。上司がすべてを決めてしまうというのは、錯覚にすぎない。想定しうるすべての問題をあらかじめ解決しておけば、上司が企画を断る理由はなくなるはずだ。上司の頭が固いと、いくら不満を言ったところで、何の解決にもならない。上司に問題点を指摘されたときは、解決すべき問題点を指摘していただいたと思えばいい。どんな問題があったとしても、努力をし続ければ、必ずいつかは、道が開ける。そして、それは企画の立案者である自分自身でしか開くことはできないものである。
 さらに、このように考えると、いかなる他人も自分のことを決める権限は持っていないことになる。つまり、すべては、自分の努力で道を開くことができるということだ。環境に左右されるのではなく、与えられた環境を受け入れ、できるところから道を切り開いていく。自分の思い通りにならないのは、思い通りになるまで努力をしていないだけなのである。



【3】目的を持つとは、いかなる困難をも受け入れること

 私が講演で、「何でも、あなたが今やっていることは、あなたが選択してやっていることなのだから、楽しいはずでしょう?」と言うと、必ずと言っていいほど、反論される。
 「そうは言うけど、サラリーマンは好きでやっているんじゃない、家族を養わなければならないからやっているだけだ。」
 「では、あなたは、家族を養いたいのですよね。」
「そりゃ、家族だからね。当然でしょう。」
「本当ですね?」
「もちろん本当だよ。」
「では、そのためなら、どんな努力だってできるじゃないですか?できないというのなら、本当は家族は養いたくないということになりませんか?」
 また、創業支援の相談事なども持ちかけられてくる。
「私は今、父親の家業を継いでいるのですが、実は他にやりたいことがあるんです。」
こんな質問に対しては、少しだけ厳しく
「やりたいことをやればいいんじゃないですか?」と、言うことにしている。
「しかし、それができないから悩んでいるんですよ。」と、今度は言い返される。
「本当は、それほどやりたくないから、家業を継いでいるのではないですか?だって、あなたは今、それを選択しているのですから。」
「本当は、家業を継ぎたくないんです。しかし、両親のことを思うと・・・。」
「つまり、あなたのやりたいことは、両親のことを大切にしたいということが、一番なのではないですか?だからこそ、家業を継いでいる。本当に両親のことを大切にしたければ、どんな苦労だってできるはずでしょう。そういう意味では、まだ両親のことをも大切にしたいと本気で思っているとは言えない。だから、それ以上に自分がやりたいと思っている他のことは、ほんのちょっとやりたいと思っているというレベルなのではないですか?その程度の気持ちでは、まずうまくいくとは思えませんが・・・。」
 自分の気持ちが宙ぶらりんの中で、何かをしようと思っていても、うまくはいかない。このような意識は、どんなことにも完璧な解答を求める人に多く見られる傾向である。あれでもない、これでもないと、自分がやることを次々に変えては納得できないままに時間ばかりが過ぎてしまうだろう。確かに人生を賭けてできる仕事が見つかったという人は幸せかもしれない。
 オリンピックで金メダルを取る夢を持った選手は、毎日休まず厳しいトレーニングをする決意をしているはずだ。そうではなく、金メダルの夢を持っているというものの、家の中でごろごろしていたのでは、その実現の可能性などあるはずがない。本当に金メダルを取りたいのであれば、自ら進んでトレーニングを始めるだろう。本気になればなるほど、トレーニングはやりたいものになる。なぜなら金メダルを取りたいのだから。
 何かを本心からしたいと望むならば、人はどんな努力でもできるはずである。人はいつの間にか、何かをしたいと望んでいたことを実際に始めると、「しなければならない」というふうに置き換えて、苦しんでしまうことが多い。それは、自分で自分の首を絞めてしまうのと同じではないだろうか。このようになるのは、本来の目的を見失ってしまうからである。確かに、仕事を始めれば目の前にたくさんやるべき作業が待っている。その作業をしているうちに、いつの間に、作業そのものをこなしていくことが目的化してしまうのだ。本来の目的を達成するための作業から、こなしていくことを目的とする作業へ、手段の目的化が意識の中で起きてしまう。 
 夢を抱いて入社した企業であるにも関わらず、そこにいることを目的化してしまい、いつの間にか不満に満ちてしまっている人などは、まさにこの典型的な例である。入社前には社会人になってからのことをいろいろと考え、多少の不安と共に何かドキドキするものを感じていた人は多いだろう。多くの夢に満ち、自分の将来をいかに輝かせていくかなど、多くの人は夢と希望に満ちて入社式を迎えたに違いない。しかし、それも数年で会社や上司への不満に満ちた生活に変化してしまう。与えられた仕事をこなしていくことが目的となり、その先に出世があると思いこんでしまう。評価されることにすべての関心が集まって、始めに抱いていた夢や希望は忘れられてしまうのだ。
 手段の目的化は、人に苦痛を与えることにしかならない。目的を持つということは、いかなる困難でも受け入れることが前提なのである。



【4】何のために働くのか

 それでは、私たちはいったい何のために働いているのだろうか。これほどありきたりの質問はないかもしれないが。
 私がコンサルティングをさせていただいている約100名ほどの会社で、このことを全社員に聞いてみたことがある。アンケートで答えてもらったが、その答えは、人によって大きな差があった。その答えを下に、一人ひとりについて社長に尋ねてみた。

 「社長、Aさんはいつもつまらなさそうに仕事をしていませんか?」
 「そう感じます。ちょっと気になっている人です。」
 「Bさんは、まあまあ頑張って仕事をしているみたいですね。」
 「彼女は、うちの会社でも頑張っているほうです。」
 「Cさんは、すごいでしょう。きっと社長にとって、なくてはならないような人ではないですか?」
 「なぜ、そんなことまで分かるんですか!?」
 「だって、そう書いてありますよ。何のために働くのかについて、Aさんは『自分の生活のため』、Bさんは『自分の能力を発揮するため』、Cさんは『社長を男にするため』って。」

 私たちが働く目的は、大きく2つある。1つは自分の生活を維持するための収入を得るという目的で、もう1つは他人のため、社会のために役立つという目的である。
 前者は、自分さえよければいいという発想となり、他人がどうであるかは関係のない話になる。社会的な問題が発生したとしても他人事であり、大切なのは自分に火の粉が飛んでこないこと。それを防ぐために膨大な労力を注ぐ。自分の会社が多少社会的問題を起しても、それはトップの責任で、自分とは関係のない話。自分は決められたことをきちんとこなして、ちゃんと収入を得られれば文句はない、といった生き方につながる。会社がやっている事業が、社会的意義があるかないかは関係がない。それどころか、仕事はできればやりたくないもので、いかに楽をして要領よくやるか、自分の努力以上に評価されるかといったことが考えるテーマとなってしまうだろう。うまく結果だけを出し、要領よく出世した同期をねたみ、足の引っ張り合いが社内で起き始める。
 こういう会社では、お互いが競争関係になり、支援関係を築くことができなくなる。そうなると、職場間、部門間で情報が隔離し、社会の経営資源をお互いが有効活用できなくなってしまう。企業としてのスケールメリットはなくなり、社員の意欲のなさと同時に、企業の衰退が始まる。
 一方後者では、仕事とは社会に貢献するためのもので、会社とは社会的意義をしっかりと持ったビジョンに共感した人々の集まりになる。そこでは、大変な仕事、難しい仕事ほど自分の力を発揮し、役に立つチャンスと映るだろう。問題は改善、向上の機会となり、お互いが協力してビジョンの達成に向かうことになる。努力すればするだけ他人の役に立つことができるわけだから、努力そのものに価値を見出すことができる。そこで働く個人は、その力を惜しみなく提供するから、企業は黙っていたとしても結果として成長していく。そうなれば、自然と社員の収入も増えていく。
 私たちはこの2つの目的のどちらかで仕事をする。しかし、この2つの目的を同時に満たすには、他人のため、社会のために仕事をするしかない。社会に役立つ仕事を通して、私たちは生きている価値を実感し、仕事を楽しいものにすることができ、結果として生活を維持することができるのである。
 何のために働くのか、それは他人のため、社会のために働くことしかないのである。


第3回 「企業は成長するほど内部崩壊する」
―企業の成長と人材の成長が反比例する―


【1】企業をむしばむ利益追求

 官僚を巻き込んだ企業の不祥事が毎日のようにマスコミをにぎわしている。なぜこうも世の中で不祥事が絶えないのであろうか。
 その根本的な理由は、企業の活動目的は、利益を出すことと思っている人々がいることである。この利益追求第一主義が、企業に、そして社会に大きな災いをもたらしている。
 企業が利益を優先すれば、その利益をもたらしてくれる顧客を優先するようになる。したがって、接待だ、時には賄賂だというように、本来やるべき仕事とはほど遠い行動に走る。確かにそれによって目先の利益を生むことはできるかもしれないが、そのために膨大な時間と労力が注ぎ込まれ、本来やるべき企業としての活動、つまり社会的価値の創造が遅れることになるのである。
 しかしながら、そのことに気がつくのは、売上が落ちた時だ。その時、初めて時代変化や、環境の変化を知ってびっくりするだろう。グローバルスタンダードからかけ離れた実態の中であえいでいる我が国の金融機関などは、まさにそのよい例だ。利益が出ていることで、環境変化に対して関心を持たなくなってしまった結果である。
 また、利益のみの追求は、必然的にバブル経済に向かう。営業利益だろうが、営業外利益だろうが、どちらにしても利益が出れば、経常利益は膨らむ。しかし、ここが落とし穴。営業外利益の増大は、本質的な企業力によるものではない。営業外利益だろうが何だろうが、利益を生むことが経営だ、という経営者もいるが、それは、経営の本質から外れた見方に過ぎない。
 バブル経済時代は、楽に営業外利益を出すことができた。土地でも株でも投資すれば、ほぼ確実に大きな利益を得ることができたのである。そして、みんなが経済の実態とはかけ離れたマネーゲームに走る。しかし、その結果、企業から社会的価値創造の意欲は失われてしまった。わずかな利益のために、リスクを負って新たな事業に取り組んだり、顧客に手間暇掛けたりすることは、賢い経営ではないように感じた経営者が多かった。
 そうなると、現状を改善する意欲は企業の中から消え失せてしまう。楽に利益が出せるのだから、何も改善する必要がないのだ。
 もちろんそこで働く社員も何も考えようとしなくなる。今やっていること、言われたことさえ、ミスのないようにうまくやれば報酬は増えていくからである。
 こうして、企業はその創造的活力を失ってしまう。企業は利益を追求するあまり、その単純な発想によって本質的な活力を失い、知らぬ間に崩壊の道を突き進んでいく。
 最大のリスクとは、目先の利益に走ることなのである。



【2】企業は成功するがゆえに崩壊する

 1181年、平清盛が没し、平家の末路が決定的となった。平家は、栄華を誇ったがゆえに崩壊した。何不自由ない思いのままの生活の中で、彼らは生きる活力を次第に失っていった。人間は満たされるほど変革を嫌い、今の状態が続くことを願うものである。何でもうまくいくことは、人間の心におごりを生む。おごりは、人間をその精神から弱くしてしまう。一方、源頼朝、義経、木曽義仲など、厳しい環境の中で育った源氏の勢いは留まるところを知らなかった。彼らには、源氏再興のビジョンがあった。境遇は最悪であったかもしれないが、そのビジョンは彼らに生きる勇気と行動力を与えるにあまりあるものであった。
 人間社会の歴史の中で、栄枯盛衰はまるで法則のように繰り返されている。現在においても、企業の成長と衰退は、その例外ではない。企業に寿命があるというのは、そこで働く人間の意識の変化がその原因である。
 企業は、成長に伴ってそこで働く人々の心におごりを生むことになる。企業の衰退の原因の1つは、このおごりにある。
 中小企業の経営者向けセミナーで、私はいつもこう言っている。
「企業において、最も変化の難しい時が、うまくいっている時であり、最も変革が易しいのがうまくいっていない時である。」
 売上を目的にしている企業は、売上が上がったときほど改善、変革ができなくなる。今のやり方が正しいと思い込んでしまい、同じ事を繰り返そうとするからだ。仮に、将来的な危機感を持ったとしても、売上が上がっている方法を変革していくには、大変な労力を要する。
 それこそ、「変革してさらに売上が大きくなるという保証はどこにあるのか、もし変革して売上が落ちたとしたら、誰が責任を取るのか。」など、企業の中は大混乱になるだろう。確かに将来の成長が保証された変革などはあるわけはないし、変革は、一時的に数字上の後退になる場合が少なくない。
 しかし、世の中は毎日変化している。株価や通貨レートは毎日変わり、売れる商品のサイクルもどんどん短くなってきている。昨日と同じ今日は無いし、今日と同じ明日もない。企業は変革の波の中で存在している。このことを忘れて私たちは、企業の成長を考えることはできないはずである。
 事業において、おごりは大きな失敗要因である。過去の成功が、自信過剰につながり、「自分の考えが正しい。」、「自分のやり方で必ずうまくいく。」、「自分は誰よりも物事が分かっている。」、とった錯覚を引き起こす。残念なことに、この錯覚を本人が気づくことはなかなかできない。どんなに適切な相手のアドバイスでも、自分に対する中傷に聞こえたりする。もう、こうなるとどうにもならない。相手がこちらのために考えてしてくれたことでも、自分が批判されたような気になってしまう。例え、自分の考えでやって失敗したとしても、何かの間違いくらいにしか感じなくなってしまうだろう。こうして、おごりは改革を遅らせるばかりでなく、判断をも誤らせてしまう。



【3】安定を目指す企業ほど、安定できない

 ある業界トップ企業の社長とお話した時のことである。
 新しいシステムを開発し、既存の分野に参入した。そして、大変な苦労をしながらも成長を続け、そして、とうとう2年前、創業18年目にして、圧倒的な業界のリーディングカンパニーとなった。それまでは、毎日が戦争のようで、社員全員が一喜一憂していたという。知恵と努力で勝ち得た勝利であった。
 ところが、その後企業の活力は失われ、成長もピタリと止まってしまった。社長はこう言った。
 「2年前までは、競合他社があった。にも関わらず、企業はどんどん成長していった。しかし、競合他社がなくなり、思い通りのビジネスができる環境になったというのに、この2年間はほとんど成長していない。新しい企画も社員から上がらなくなってしまった。」
 競争に勝つことが企業を弱体化させてしまった。
 また、店頭公開したベンチャー企業のいくつかが、店頭公開した直後から経営不振に陥るといったことが起きている。それまで、破竹の勢いで伸びてきたはずの成長企業が、1つの目的を達成したと同時に業績が悪化するのである。
 店頭公開を目的にし、そのためにすべてをかけてきた企業ほど、その目的を達成した時に、そこで働く人々は意欲を失ってしまう。1つの目的を達成した時に、その先に次の目標がないと私たちは安心感に満たされ努力を怠ってしまうからである。
 安定を目指して事業を行っている企業が非常に多い。しかし、激変する社会環境の中で、事業に安定などはない、変革し続けた結果、安定していたということがあるだけだ。にも関わらず、わずか数年間の企業の安定成長によって、これからもずっと安定成長していくと思い込んでしまうのである。そして、安定成長という意識がそこで働く人々に安心感を抱かせる。
 安心感は変革に対して、消極的な思考を生む。今のままでうまくいっているのだからという気持ちが、新たなことにチャレンジしていこうとする気持ちを打ち消してしまう。変革やチャレンジには、多くのエネルギーが必要だ。中途半端な気持ちでやったとしても、そう簡単にうまくいくものではない。安心感に満たされた人は、そんな面倒な変革などに関心はなくなり、今の状況を維持していくことしか頭には無くなる。
 「企業を成長させていくためには、改善向上しなければならないということはよく分かります。だけど、自分だけ頑張っても無理でしょう。上司や他の人がみんなでやらなければ・・・。」
 これは、消極的な姿勢から出てくる典型的な発言である。私は、こんなセリフを何度聞いたか分からない。 
 「みんながやるなら私もやる。」という考えを持つ人ばかりが集まったのでは、結果、誰もやらないために企業は衰退してしまう。企業が変革に積極的となり、成長していくためには、「みんなはやらなくても私はやる。」という自発的な考えを持つ必要があるのだ。
 毎日変化する社会で生きる私たちにとって、安心感は百害あって一利もないものなのである。



【4】企業は将来の個人の意識で決まる

 企業に将来性があるかないかは、その企業で働く人々の意識で決まる。売上を目的としている企業は、残念ながら、売上が上がった時に、衰退する運命にある。その時、人々の心は、緊張からおごりと安心感へと変化している。この意識の変化が、企業を衰退へと導く原動力になるのである。変革は強い意志、すなわち、創造的な緊張感によって生まれるものだ。あらゆる変革、成長はこの緊張感無しには考えることはできない。
 では、どうしたら、創造的緊張感を維持していくことができるのだろうか。そのために必要なことは、企業が常に高い目標を持って活動していることである。その目標とはもちろん、社会に価値・感動を提供することだ。社会的価値の追求は、無限のチャレンジである。ここまでやればいい、というレベルがあるわけではない。顧客は、一度感動したものでも、二度目には、もう新たな感動を求めてくる。企業活動とは価値・感動の創造という果てしない目標に向けて走り続けることであり、だからこそ、企業内に創造的緊張感を維持していくことができる。その結果として、売上が上がり、企業が成長するのである。
 企業は売上を上げる、成長することを目標とするのではなく、社会的価値・感動の創造を目的としなければならない。企業とは、どこまで成長しても、未完成なものである。そういう企業でこそ、個人が緊張感を失うことなく成長し続けることができ、その結果として、企業も成長するのである。
 企業が成長することを目的とすると、企業の成長と相反するように、個人は成長を止めてしまう。企業の活動目的を社会的価値・感動の創造にすれば、個人は常に緊張感の中でチャレンジし続け、結果として、企業は成長し続けることができるようになるのである。


第4回 「企業の目的はビジョンの達成にあり」
―成長するほど社会的に賛美される企業―


【1】夢は人を元気にするー疲れるのは夢がないから

 ある新年会の基調講演にお呼びいただいたことがある。年明けすぐで多くの会社がまだ正月休みの最中という日だった。そこには大手企業に勤める方々、中高年の男性ばかりが100名くらい参加されていた。しかし、私はその会場からなんとなく意欲を感じることができなかった。なにもこんな日にやらなくやっていいじゃないか、といった感じがしてならなかったのである。
 そこで私は講演の始めにこんな話から切り出すことにした。もちろんその場で思いついた話であるが。
 「今日は何となく、皆さんから意欲を感じません。年明け早々からこれでは、この先一年がとてもつらいものになってしまうかもしれませんよ。でも、なぜ皆さんが疲れているかを私は知っています。ちょっと意外かもしれませんが、その理由は、皆さんが奥さんを愛していないからです!」
 みんなの目がきょとんとした。突然何を言い出すのだろうといった感じである。しかし、会場全員の視線がこちらの方を向いたことだけは事実だった。作戦は的中した。私はここぞとばかり話を続けた。
 「皆さん、私がお話したいのは、どんな状況に置かれても目標のある人は疲れないということです。奥さんを愛している、だからこそどうしても奥さんを幸せにする、といった目標があるとすれば毎日が充実するはずです。どんな苦しみだって耐え抜くことができるじゃないですか。目標を持つというのは、その達成のためなら、いかなる困難をも受け入れることを言うのですから。」
 私は自信ありげにこう話した。ところが、会場では相変わらずみんなの目はきょとんとしたままだった。やむを得ず、私は話を本題に移した。
 私たちは夢を持つことによって、自分自身に意欲を沸き立たせることができる。反対に夢がないとただ何となく日々を過ごしてしまう。夢があると今日一日のやることが見えてくる。どんなに忙しくとも、その忙しさの意味が分かっているから納得してやれる。忙しければ忙しいほど夢に近づいているという感覚があるということだ。だからこそ疲れない。
 仕事で疲れるというのはどうしてなのだろう。それは目の前の仕事を終わらすことを目的にしてしまうからである。目の前の仕事を終了することに没頭してしまうと、その仕事を一体何のためにしているのかが分からなくなってしまう。そしてまったく無意識で黙々と仕事をこなしていくだけの日々が続くと、人生がむなしいものと感じ始めるようになり、意欲もなくなってしまう。そうなればどんなに頑強な身体を持った人であったとしても、いとも簡単に疲れてしまうのである。
 人間とロボットの最大の違いは、エネルギー保存の法則が人間には当てはまらないということである。ロボットは、その運動量に伴って必要なだけのエネルギーを確実に消費し続ける。消費効率の違いはあるにせよ、エネルギーを消費せずに動くことなどはありえない。
 しかし人間はそうではない。人間は、働けば働くほど元気になることもできる。反対に、毎日何もせずに家にいると何をするにも面倒に感じてしまうこともある。
私の知人の多くの起業家は、一年中ほとんど休みも取らずに仕事をしているにもかかわらず、いつ会っても元気だ。一方、年間100日以上もの休日を用意されているにもかかわらず、いつも疲れている社会人もいる。また休日が長いほど、その後仕事に完全復帰するのに時間がかかるようだ。正月やお盆の長期休暇の後などは「休みボケで、今日はまだ調子が出ない」とか、「ペースがまだ仕事のペースになっていない」といった言葉が社内を飛び交うことがある。疲れたり疲れなかったりするのは、休みがあるかどうかによって決まるものではない。
 元気に毎日を過ごしている人々に共通することは、夢を持っていることである。たとえ経営者であっても、夢のない経営者はやはり疲れている。夢を持つ経営者は肉体的に疲れることはあっても、精神的に疲れることはない。ビジョンに向けて努力することで毎日を充実感の中で過ごすことができる。
 精神的に疲れるのは夢がないからなのである。



【2】ビジョンの共感者集団としての企業
   ―探検隊型企業

 私は理想の組織・チームは、誰も達成したことのない目標を目指す探検隊だと思っている。探検隊は一つの目標の達成のためにみんなが命を賭けて参加してきた目標達成志向の強い集団である。
 探検隊の中では、それぞれのメンバーの役割は明確に決まっている。全体を統括する隊長を筆頭に、誰一人として必要のない人はいないし、それぞれがチームの中で重要な役割を担っている。そして、いざ何か問題が起これば、みんなが持てる知恵と能力を発揮して、助け合って解決していく。
 もちろんそうしなければ、目標が達成できなくなるばかりかみんなが死んでしまう可能性があるからである。
 探検隊の結束力が強いのは同じ目標を共有しているからである。これはあらゆる集団の基本原則でもある。野球チームでもサッカーチームでも同じ目標を共有しているからこそ強いチームができるのだ。それぞれの選手が個人の利益のために勝手な行動をとったのでは、チームとしての行動をとることができなくなる。個人の利益はチームとしての成果によって大きな影響を受けるもので、目標に向けて闘い続けるチームに貢献できなければ、その人の報酬は減らされても仕方がない。
 企業もまったくこれと同じでビジョンを共有した集団でなければならない。一方、個人個人が違う目標を持って集まっているとすれば、力を結集することができなくなる。企業の規模がいくら大きくても、ビジョンの共有化ができていなければ組織・チームとしては最大の成果を上げることができない。だからこそ、個人も自分が共感できるビジョンを持った企業で働くべきである。もし違うビジョンを持っているならば、自分の目標と同様のビジョンを持った会社へ転職するか、休日休暇を利用してそのビジョンの達成を図るしかない。
 企業とは変化するビジネス社会の中で、新たな価値・感動を捜し続ける探検隊なのだから。



【3】ビジョンの4条件
   ―社会性・具体性・困難性・希少性

 では、企業におけるビジョンとは、どのようなものをいうのであろうか。ここでは、企業のビジョンの条件について考えてみたい。
 企業のビジョンは何でもいいというわけではない。ビジョンが意味のあるビジョンであるためには、以下の4つの条件を満たす必要がある。

▶第一 社会性
 ビジョンは社会に貢献するものでなければならない。企業のビジョンとは社会の中における活動目的であり、その達成が社会にとって賛美される必要がある。そのためには、社会的な価値を生み出し、人々に感動を与えるものであることが求められる。ビジョンは誰からも共感されるものでなければならないのである。

▶第二 具体性
 ビジョンは具体的で明確なものでなければならない。具体性のない抽象的なビジョンほど達成できないものである。具体性のないビジョンでは、そこに関わる人が何をどうしてよいのか分からなくなるからだ。何をどうすることなのかを、はっきりと誰にでも分かるようにするためにビジョンは具体的にイメージできるものにしておかなければならない。企業トップの頭の中だけにあるビジョンは現実化しない。

▶第三 困難性
 ビジョンは簡単に達成できるものであってはならない。簡単に達成できるものであるならば、誰も本気になって達成しようとは思わないからだ。大きな困難を伴うものであるからこそ、その達成のためにみんなが本気になって力を合わせていくのである。

▶第四 希少性
 企業のビジョンはその企業独自のものでなければならない。一般論ではない、その企業ならではのオリジナリティが求められる。企業独自のものであるからこそ、そこに共通の価値観を持つ人々が集まるのである。



【4】ビジョンを持つ人に人が集まる
   ービジョンに向かう姿勢が共感を得る

 ビジョンが4つの条件を満たしたとはいえ、そこに人が勝手に集まるわけではない。ビジョンを持った企業に、その共感者が集うためには、さらに考慮しなければならないことがある。そのことについて考えてみたい。
 ある起業家セミナーでのこと。セミナー終了後に、そこに参加されていた経営者の一人が話しかけてきた。
「福島さん、いくらビジョンが必要だと言ったって、そう簡単に社員に浸透させることはできませんよ。私の経験からして、ここ何年も会社のビジョンを社員に訴え続けているんですが、社員はいまだにまったく聞く耳なんか持たないんですから。」
「それは困りましたね。」
「だから福島さんも、実際にそんなことを社員に浸透させることなど無理だってことを、分かっておいた方がいいんじゃないですかね。」
「ありがとうございます。ところで、何でビジョンが社員に浸透しないとお考えですか。」
「そりゃ、社員にとってはどうでもいいことだからじゃないんですか。そんなこと言って、もっと働かせようとしているだけだと受け取っているのかもしれませんな。ははは。」
「私はそう思いません。本当は、あなたが本気でそのビジョンを達成したいと思っていないからです。」
 よく夢が人を集めるという。しかし本当は夢に立ち向かう人の姿が周りの人に共感を与え、集めているのである。
 どれほど社会的に意義のある、共感性のあるビジョンを語ったところで、それを語っている人が本気でなければ人の心を動かすことはできない。語る人の姿勢を人は見ているからだ。言っていることとやっていることに大きなギャップのある人の話に共感する人などはいない。私たちは、本気の人にだけ心を動かされる。
 ビジョンを持つということは、いかなる困難をも受け入れる覚悟をしたことにほかならない。その覚悟ができれば、周りの人を動かす強力な影響力を持つことができるようになり、自分にどんどん吸い寄せられてくる。まさに「気が移る」とはこのことをいうのだろう。この人ならば、どんなことがあっても必ずやり遂げていくだろうと感じた時、初めて相手も本気になる。同じ夢に向けてどんな困難でも一緒に乗り越えていきたくなるのである。そうなれば、人を通して必要な経営資源がどんどん集まり、どんなに大きな夢でも実現が可能になる。不可能と思っていたことが一つひとつ可能になっていく。企業全体がやる気のある人々によって満たされているのであるから。



【5】他社との競争から自己との闘いへ
   ー本当の競争相手は昨日の自分

 「漁夫の利」という有名な話がある。この話と同じようなことが、私たちのビジネス社会でも起きている。業界の中で目先の敵とマーケットシェア争いをしている間に、まったく違う発想で参入してきた他業界企業やベンチャー企業によって、マーケットを占有されてしまうことがある。目の前の他社に勝つという目的は、企業本来の目的ではない。たとえ、その目的を達成することができたとしても、企業そのものが強くなったわけではない。
 企業本来の目的とは、社会に貢献するビジョンの達成であり、その達成のために日々改善向上の努力をし続けることである。強い企業とは新たな価値・感動を生み出し続けることができる企業にほかならない。相手に勝つかどうかはその結果にすぎず、負けるということは、新たな価値を社会に提供することができなかっただけのことである。
 企業にとって本当の競争相手とは昨日の企業自身である。昨日と同じことをやるのではなく、ビジョンに向けて昨日できなかったことを今日できるようにすることが本当の意味での勝つということだ。昨日よりも今日、今日よりも明日、ビジョンに一歩でも近づくことが本来の企業活動なのである。
 この事を忘れて、目先のマーケットシェア争いや、売上向上にばかり気を取られていると、まったく想像もしなかったようなベンチャー企業等にマーケットそのものを奪われてしまうだろう。
 事業における成功とは、社会に価値・感動を提供し続けられる企業になることにほかならないのである。


第5回 「利益よりも優先する企業ポリシー」
―上司はポリシーの実践者―


【1】ポリシーはあらゆることに優先する

 ポリシーとは企業活動の行動基準である。ポリシーがないと企業内の価値観はバラバラとなり、組織としての統一的行動はできなくなる。企業は同じポリシーのもとで行動する集団でなければ、どれほど整備された形としての組織であったとしても最大限にその機能を発揮することができない。
 ポリシーは企業内におけるあらゆることに優先しなければならないのである。


(1) ポリシーは経営者よりも優先する

 ある中堅企業の役員の方からこんな話を聞いた。
「うちの社長はワンマンなのはいいんですが、一つ困ったことがあります。」
「どんなことですか。」
「それはいつも気分で物事を判断することなんですよ。」
「それは困りましたね。」
「以前とまったく正反対の判断でも平気でするようでは、社員の意識を一つにするなんてことはとてもできません。できる社員がどんどん辞めていってしまいます。残るのは社長の顔色を伺いながら、要領よくやっていこうという者ばかりになっていくような気がするんです。」
「そうなるでしょうね。なんたって、社長の今の気持ちがポリシーなんですから。」
社長が社長たる理由はポリシーを最も実践しているからということに尽きる。他の誰よりもポリシーをよく理解し、そしてその実践に努めているから社長なのである。
仮にそうではなく、社長の今の気持ちがポリシーであるとするならば、社員は社長の顔色を伺いながら仕事をするだけになるだろう。そのあげく自分で判断することができなくなり、自発的な行動をしなくなってしまうに違いない。
ポリシーとは社員一人ひとりが自分で考えて行動するために必要な行動基準なのである。


(2) ポリシーは常識よりも優先する

 業界の常識が社会の非常識になっていることがよくある。その業界の中で当たり前と思われていることでも、顧客の側から見たり、社会の流れの中から見ると、いくらでも改善の余地が見つかる。つまり、ポリシーを持つということは、業界の常識に左右されないで物事を判断すると言うことである。
 ポリシーが次世代の新事業を生み出す基準となるのである。


(3) ポリシーは利益よりも優先する

 企業の利益第一主義が企業の存在価値そのものを否定してしまうことは以前にも述べた通りである。確かに企業は利益がなければ成り立たないかもしれない。しかし、だからといって利益が出れば何でもやるというのでは、社会にとって意味のない、いや社会に弊害をもたらすことにもなりかねない。
 たとえどんなに利益が出る仕事があったとしても、ポリシーに合わなければ、その仕事は断るべきである。利益なくして企業の存続がないのではなく、ポリシーなくして企業の存在価値はないのである。



【2】ポリシーが浸透しない理由

 顧客満足で世界的に高い評価を得ているディズニーランドでは、約4万5千人もの社員・スタッフが同じポリシーのもとで一糸乱れぬ行動をしている。
 しかし一方で、ポリシーがあってもなかなか浸透しないと言う経営者はとても多い。そこで、なぜポリシーがなかなか浸透しないのかを考えてみたい。
 その第一の理由は、社員の周りに見本となる人物がいないことである。すなわち上司が見本になっていないのだ。経営陣とはポリシーの最たる実践者であり、不屈の精神でポリシーの浸透に全力で臨む先導者でなければならない。
 第二に、ポリシーとその意義が繰り返し伝えられていないことである。人間の記憶は30分で50%忘れるようにできているという。ポリシーがあってもよく覚えていないというのでは、ポリシーがないのと同じことなのである。
 第三に、ポリシーそのものが曖昧で自分の行動に活かすにはどうしたらよいか分からない、さらにそれをきちんとOJTの中で指導できていないことである。
 第四に、ポリシーの実践をどのように評価するかが決まっていない、あるいはポリシーの実践者が正しく評価されていないことある。
 そして第五に、最も基本的なことだが、社員をポリシーの共感者として採用したわけでもなく、社員もポリシーに共感して働いているわけではないことである。後からポリシーを浸透させるためには、共感できない社員が退社することを覚悟しなければならないだろう。
 要するに、ポリシーが浸透しないのは、ポリシーを本気で浸透させようとしていないからなのである。



【3】ポリシーはあらゆることに優先する

 日常のあらゆる行動の根拠であるポリシーは、今自分がやっているどんな些細な仕事にも活かされていなければならない。そのためには誰にとっても理解、応用できるものにしていくことが大切だ。
 ポリシーが真にその価値を発揮するためには、以下の4つの条件を満たしている必要がある。

(1)第一条件 社会貢献性

 顧客、さらには社会に対して価値・感動を提供することがポリシーの基本である。自社の利益のみを追求することはポリシーにはならない。利益とは、ポリシーを実践した結果として得られるものであり、それはどの程度ポリシーを実践したかのバロメーターなのである。

(2)第二条件 絶対性

 ポリシーとは企業内のあらゆることに優先したものでなければならない。たとえ大きな利益になることでもポリシーに反する仕事は断るべきであり、社長であったとしてもポリシーに反する判断・行為は許されない。

(3)第三条件 明確性

 誰でも具体的に理解できるものでなければならない。単に言葉として理解できるものではなく、実践的に応用できるものにしておく。そのためにも、ポリシーを付帯説明によって具体化しておくことが必要だ。

(4)第四条件 普遍性(日常性)

 企業活用のどんな些細な業務にも反映されるものでなければならない。ポリシーとは徹底的に細部にこだわることである。そのためには、見本となってポリシーを実践する指導者を育成し、会社に普及するシステムを構築しなければならない。

 ここで一つ注意しなければならないことは、ルールや規則は、数が多いほど守られないのが世の常。だからこそ、ポリシーはできる限り必要最小限のものにし、そして、分かりやすく特徴的な表現にまとめることが大切だ。そして、最も大切なことは、ポリシーを持つことで安心するのではなく、それを守り、実行することに専念すべきである。



【4】顧客はポリシーの共感者
   ―消費者から共感者へ

 次に、ポリシーに基づいて行動することと、顧客の要望に応えることの関係について考えてみたい。
 イギリスに始まり全世界に800店舗以上もの展開をして環境商品を販売するボディ・ショップは、創業者のアニタ・ロディック社長の環境保全に対するポリシーに共感した人々が顧客になっている。
 さらに、トヨタが世界に先駆けて開発し注目を集めた電気自動車プリウスは、そのデザイン性や機能性よりも、地球環境に優しいことが最大の商品価値になっている。
 顧客が求める価値が大きく変わってきている。言わば、顧客は企業のポリシーに共感し、その活動にお金を払って参加しているのである。
 これからの時代、顧客は利益さえ出れば環境汚染も平気でするような企業の商品は購入しなくなる。企業がどのようなポリシーで経営されているかを見て、商品・サービスを選択するに違いない。
 それは、顧客の意識の変化によって、社会の在り方も生きるための消費型社会から、生きることの価値を高めることができる貢献参加型社会へと変化してきていることに他ならない。
 顧客とは、企業ポリシーの共感者集団なのである。



【5】信用よりも大切なもの
   ーイメージから真実へ

 企業活動の目的は、どれだけポリシーに則った活動ができたかということであり、数字上の業績は、企業がどれだけそれらを実践したかの結果として出てくるものに過ぎない。
 企業がポリシーに基づいて活動するためには、その実態をできる限り公開する必要がある。情報は、公開するほど企業と社員、企業と顧客の信頼関係を高めることができるようになるからだ。
 さらに情報公開によって、社員は自分のやるべきことを見つけ出し、自発的な行動をとることができるようになる。即ち、情報は公開するほど、社員の士気は高まり、結果として業績向上につながる。また、顧客は企業を信頼し、安心してその企業活動に参加できるようになる。社会的信用はイメージで得られるものではなく、その実態によってしか創ることはできない。
 そのためにも情報公開に際しては、その背景にある判断・行動の基準、つまり、ポリシーに基づいてあらゆる判断がなされ、その結果として数字になったことを伝えるべきである。
 それでは、以下に情報公開のポイントについてまとめてみよう。
第一に、結果よりもその結果に至るまでの過程を公開すること。
第二に、数字よりも根拠となる考え方を公開すること。
第三に、過去よりもこれからどうするのかという未来を公開すること。
第四に、誰でも知りたい時に知ることができるシステムを創る事。最近はITによる社内インフラが整いつつあるので、情報公開のシステムを創り、それを活用することが効率的であろう。
そして、これらの情報公開は、すべて一度にできなくとも、ステップアップで考えていくことが大切なことである。


第6回 「企業の成長と社員の幸せ」
―企業を通して社会に貢献する社員―


【1】就職に成功して人生に失敗する
   ー一流企業を崩壊させる一流大学生

 これまでの考察を踏まえた上で、企業と個人の関わり方について考えてみたい。

 最近は毎年春になると、大手企業の新入社員向けの講演を依頼される。ちょっと厳しい内容の講演をしているのだが、なぜかその内容がとても評判が良いので驚いている。その出だしの内容を紹介したい。
 「皆さん、入社おめでとうございます。しかし私は皆さんのことを考えるととても胸が痛みます。なぜなら、皆さんは今とてつもなく大きなハンディキャップを負わされてしまったからです。こんな一流企業に入社してしまったことは皆さんにとって、とても厳しい環境になったに違いありません。今まで以上に努力をする覚悟がなければ、皆さんの将来はないでしょう。
 私は今、就職に失敗した若者たちともよく接する機会があります。彼らはみんな真剣に自分の人生を考え、将来に向けて努力をしています。彼らの緊張感は私にも手に取るように分かります。手に職をつけるために専門学校で今度は本気で勉強をしようという人がいたり、将来自分で会社を設立するために、あえて小さなベンチャー企業でアルバイトとして働き始めた人もいたりします。就職に失敗した彼らは、ずーっと緊張感を持って毎日を生きていくに違いありません。そして、必ずや彼らは、好きなことを見つけ出し、そこで自分の可能性を発揮することでしょう。
 しかし、皆さんは違います。もうどこかに彼らとは違った安心感を持っているはずです。安心感はとても心地よいものです。しかし、今の安心感は、将来の失敗の種でしかありません。常に自分自身を向上させていかなければ、世の中で必要のない人になってしまうでしょう。本当にどんなに苦労をしても成し遂げてみたいという目標を持たなければ、皆さんは一日を一年を何となく過ごしてしまうかもしれないのです。
 企業は日々変化する環境の中で、社会的な価値を生み出し続けなければ存在し得ないものです。そのためには、常に現状を打破し、創造していくことが不可欠です。それは、緊張感のない人たちにはできません。皆さんの行動が企業の将来を決め、その結果が皆さんに降りかかってくるだけのことなのですから。」
 一流大学を出て、一流企業に就職することは、人生に失敗することと同じかもしれない。就職は、人生の終着駅ではない。それどころか、むしろ始まりである。学生時代という準備期間が終わり、やっと社会で活躍するスタートの時が就職である。そこで安心するというのは、本末転倒な話となる。一流企業であったとしても、10年後、20年後、30年後の将来は分からない。そして、企業の将来を創っていくのが、そこで働く人々に他ならないのだ。
 企業はそこに集まる人々の意識の集合体である。一人ひとりの意識に緊張感が失せた時、企業の内容から崩壊が始まっていると言えるだろう。企業の将来もまた、今そこに集まっている人々の意識が創っているのであるから。
 現在は、過去の結果であり、未来は現在の結果である。



【2】「社員の幸せ」が企業を崩壊させる
    ー幸せとは同じ目標に向かって共に苦労すること

 企業のトップが企業活動の目的の一つに「社員の幸せ」を謳うことがある。この「社員の幸せ」とは、一体どのようなことを言うのだろうか。それがもし、生活保障に基づく安定した生活に基本を置いたものだとするならば、「社員の幸せ」は達成できないものになるだろう。
 世界最高水準の給与、福利厚生や教育制度などの待遇を達成した日本企業。そこで働く私たちは、既に100年前の王侯貴族以上の生活をしている。だが、不満はなくなるどころか日増しに増大してストレスとなり、企業の足を引っ張るものとさえなっている。
 意欲は減退し革新的風土は無くなり、いつの間にか企業の生産性は落ちていく。企業は社員のために膨大な固定費と労力をつぎ込みながら、なぜ社員の不満を消すことができないのか。
 その原因は「社員の幸せ」を人間の持つ本能的欲望を満たすことと考えたことにある。人間の幸せは、大きく二つに分けて考えることができる。一つは、社員の生活を保障して安楽に生きることができる環境を提供することである。しかしこれはいくら提供したとしても、果てしない本能的欲望によって、社員はさらなる高待遇を要求してくるばかりとなり、かえって社員の不満が増大することになる。
 そして、もう一つは、共に同じ目標を達成するために、共に努力して充実した日々を送るようにすることである。それは、社会や他人に役立つ価値・感動を提供するために、企業という手段を通して、みんなで努力することだ。目標を共有化している会社の社員は疲れないし、不満も言わない。会社とは、何かを期待するものではなく、自らの努力で創り上げていくものであるからだ。
 自分の利益のために働くのではなく、他人のために働く。社会に貢献できるビジョンに向けて集まった仲間が、お互いに能力を発揮し共に苦労すること、それこそが本当の「社員の幸せ」である。



【3】尊敬されない上司が企業を崩壊させる
   ー職位は部下から与えられるもの

 あるベンチャー企業で新しく役員になった方と話をしていた時のこと。その方とは以前から面識があり、とても意欲的に仕事に取り組んでいたことを私はよく覚えている。
 「もう役員ですか!」
 「おかげさまで、でも私はこう思っているんです。役員というポジションは会社から与えられたものですよね。社員全員が認めてくれたわけではありません。何しろ何百人もいる社員の中には、私がどのような人であるかを知らないという人がまだまだたくさんいます。私も、一人ひとりが何を考え、何に悩んでいるかも知らないことが多いんです。社員全員が私を役員として選んでくれたわけではありません。立場は役員かもしれませんが、みんなが本当に役員として認めてくれるかどうかはこれからの問題です。肩書だけでは、何の価値もありませんから、私はまだ本当の役員になったとは思っていません。福島さんが言われるように、みんなの見本となることが役員の仕事だと思っています。すべてはこれからのことです。アルバイトの学生からも役員として認めてもらえるように、そして本当の役員になれるようにがんばりたいと思います。」
 職位は、会社から与えられたものであって、社員から与えられたものではない。ただ一般には、職位は会社が与えるものと思われている。しかし現実には、職位の高い人が必ずしも、すべての部下から尊敬され、見本として注目されているとは限らない。居酒屋などで上司の悪口を言う社員が見受けられるのは、命令には従うものの本当に尊敬しているわけではないことを如実に物語っている。
 職位が高いほど、その人の人間性が厳しく問われる。より高い能力が求められ、より難しい困難を乗り越えていくことができるからこそ職位が高いのだから。上司は他人に命令する権限があるのではなく、他人の見本になる責任がある。社員全員から認められた時、初めて本当の上司になれる。むしろそれまでは、試用期間として考える必要があるのではないか。
 会社から認められても部下から認められないのであれば、むしろ自分から会社から与えられた職位を降りるべきである。そうでなければ企業は本来の目的が達成できなくなるばかりか、崩壊の道を辿る事になるだろう。
 部下から与えられた職位こそが真の職位である。



【4】出世の目的化が企業を崩壊させる
   ー出世のために働くフリをする社員

 「そんなことをやっていると、将来の出世に響くぞ。」
 「業績が悪い時こそ、出世のチャンスだ!」
 こんな言葉が、社員をやる気にさせると当然のことのように思われている。確かに人間の欲望に訴えたこのような表現でやる気になる社員もいる。しかし、残念ながらこのような言葉が飛び交う会社では必ず次のようなことが起こっているはずである。

・誰に話を聞いても、みんなが頑張っているというのに、なかなか成果につながらない。つまり、社員が忙しく働いているにも関わらず、企業の生産性が上がらない。
・社員の意識が社内の人間関係、人事のことばかりで顧客や社会に目が向かない。
・良い報告ばかりが上がってくるが、いざ蓋を開けてみると、あちこちにトラブルの種が見つかる。
・何か問題が起きると、みんな他人や他部署のせいにする。
・情報の共有化を謳っても、情報が共有化できない。他人や会社に情報を求めるばかりで自分から情報を提供しようとしない。
・新規事業など新しいことにチャレンジする社員が出てこないばかりか、みんなが同じこと、できることばかりをやろうとする。
・会議で何か提案を求めてもみんな黙っているだけである。
・まじめに仕事をする社員より、根回しばかりする社員が出世し、それをまたみんなが知っているために企業の中にまじめに働く社員がいなくなる。

 このように出世を目的化すると、社員の意識は自分にとって都合の良いこと、確実にできることを優先するようになる。たとえ問題に気付いたとしても、それが重大なものであるほど、他人に責任を押し付けるようになるだろう。出世にとって意味のあることばかりを優先し、社会にとって意味のあることが後回しにされる。その結果として、自分が所属する企業の存在価値を失わせて、最終的には出世をしても企業そのものが無くなるという矛盾に陥ることになる。
 自分の利益よりも社会の利益を優先するのが社会人であり、社会の利益よりも自分の利益、つまり出世を優先するのが会社人である。会社人の増加は、組織としての結束力を弱め、企業内の活力を根こそぎ奪うだろう。一人ひとりが社会で存在する価値があるからこそ、その集合体として企業が存在することができるのである。
 「将来の出世」は「将来の失業」とイコールなのである。



【5】忠誠心が企業を崩壊させる
   ー求められる社会に対する貢献心

 これまで多くの企業が社員に対して忠誠心を求めてきた。その理由は、企業の成長を他の個人の価値観よりも優先させるためであった。そしてその忠誠心の対価として生活保障を与えてきたのである。確かに同じものをつくれば企業が成長する時代はそれでもうまくいった。しかし、時代は大きく変化した。今日のように社員一人ひとりが自発的に考え、行動しなければならない時代では、このような企業と個人の関係は、全く意味を成さない。
 企業が給与を支払って、社員を雇うのではなく、同じビジョンに共感して集まった人々で企業を創り上げているのである。雇った社員は、できる限り楽をして仕事をしようとするが、目的を共有化して集まった社員は、いかにたくさんの仕事をするかを考える。このことは言い換えれば、仕事を与えられるものと考えるか、仕事は創り出すものと考えるかの違いでもある。
 これからの企業と個人の関係では、個人が企業を通して社会の中で自己実現していくという考え方が必要である。そのために個人は社会的生産性を上げなければならないし、一方で企業は個人の生活を保障するのではなく、個人の生産性を高めるための支援をする必要がある。個人はあくまで自発的に自己の能力を高めていかなければならない。
 個人は企業をとして社会との関係の中で生きているのである。社会の中でどのような役割を担い、どんな新たな社会を創生するのか、夢を持って生きることで個人は社会的存在価値を持つことができる。企業は社会と個人をつなぐ便宜上の媒体でしかない。大切なことは企業に対する忠誠心ではなく、社会に対する貢献心なのである。
 そのために企業は社員を支援する対象と考えなければならない。つまり、企業はそのビジョンの達成に向けて社員のためにどんな支援ができるのかを考えるならば、企業内の力は結集して企業はそのビジョンの達成にどんどん近づくことができるようになるだろう。
 ビジョンとは、企業が達成するものではなく、個人が力を合わせて達成するものだからである。

第7回 「社員が働く2つの動機」
―安楽の欲求と充実の欲求―


【1】働く社員と働かない社員
   ー待遇で人を集めるか、共感で人を集めるか

 社員が企業で働く理由は大きく2つある。それは安楽を求めて待遇条件を期待して働くのか、それとも充実を求めてビジョンに共感して働くのかということだ。
 バブル華やかなりし頃、人材募集に苦慮する大手企業は、様々な方法で若者の気を引こうとした。そんな中で初めて週休三日制を打ち出し、多くの学生の採用に成功した大手のスーパーがあった。積極的に海外にも進出していたため、どうしても人材を確保しなければならなかったのである。その人材募集戦略の目玉が週休三日制であった。就職しても働くのは週四日だけで、後の三日は自分の時間として自由に使えるというのが謳い文句だ。要するに、楽ができることを訴えて人を集めたのである。予想通りにこの戦略は的中し、多くの楽を求める若者が集まってきた。それにも関わらず、バブルが崩壊してまもなく、その企業は倒産してしまった。
 企業が社員を募集する時には、他社にはない様々なメリットを打ち出そうとする。ところが、その打ち出す内容によって、どんな学生が集まるかは全く変わってしまう。
 その打ち出す内容と集まる人材については、以下のような関係になる。
 打ち出す内容が企業規模、マーケットシェア、売上高、収益性、伝統、安定、保証、待遇条件、各種制度、企業イメージ、快適な職場、楽な労働といった場合には、そこに集まる人々は企業に依存する人々であり、楽を求めて就職する。つまり、企業に生活維持と休暇の保証を求める代わりに、言われたことだけをこなす人々が集まる。このような人々はできれば仕事はやりたくないと考えている。
 一方、打ち出す内容が企業理念、ビジョン、人間的成長、やりがい、チャレンジ、意欲、情熱などである場合は、そこに集まる人々は共感者であり、働くために企業に就職する。つまり、自分の人生を充実したものにするために、常にチャレンジ精神を持って仕事に取組みたいという人が集まる。
 もちろん、どちらの方法によっても人を集めることができる。しかし、安心感を訴えて人を集めるのか、ビジョンを訴えて人を集めるのかによって集まる人々の意識は全く違ったものになる。それは楽を求めて入社するのか、充実した日々を送るために入社するのかの違いである。



【2】安楽を求めるほど安楽が得られない
   ー満たされる事のない安楽の欲求

 私たちは、安楽を求める欲求と充実を求める欲求の両立しえない、相反する2つの基本的欲求を同時に持っている。
 安楽の欲求とは、人間が生命体として本能的に持っている欲求である。物欲、支配欲、私利私欲などは、この欲求の延長にある。
 安楽の欲求は、極めて強い欲求である。それにまるで重力のように私たちを引き付けて止まず、生きている限り取り去ることはできない。しかし、生きる上ではなくてはならないこの欲求も、社会生活の中では、大きな問題を引き起こす。
 安楽を求めるほど、私たちは他人のことよりも自分のことを優先するようになり、自分にとって利益にならないことはやらないようになってしまう。さらに目先の利益に流され、長期的な展望の中で行動することをしなくなる。
 安楽の欲求に基づいて働くことは、他人や企業に依存し、楽して得を取ることばかり考え、仕事上では生産性を上げることよりも報酬を得ることが行動目的になる。
 例えば、企業活動の中でも、以下のように考えるようになる。

・面倒なことは避けたい
・自分に責任が回ってくることを恐れる
・新しいこと、やったことのないことにチャレンジするのは面倒
・休日休暇が待ち遠しい
・生活保障や休日休暇、快適な職場環境などを会社に期待する
・会社や上司に迎合する
・楽な仕事をしたい
・高い評価を得たい
・自分の思い通りに部下を動かしたい
・自分の利益にならないことはやりたくない

 これらの考え方によって、行動すると以下のようになる。

・他部署や部下、顧客に責任を転嫁する
・トラブルの処理が遅れる
・指示がなければ行動しない
・いつでも働くフリ、忙しいフリをする
・能力が向上しない
・仕事の改善、向上が遅れる
・不平、不満ばかりが口に出る
・部下や顧客から尊敬されない
・企業の生産性が低下する

 こうして周りからの信用を失い、結果として自分自身も楽ができないということになる。
 
 人間社会の基本構造は、他人の役に立つことによって結果として報酬が得られるようになっており、安楽の欲求に基づいた社会性のない自己中心的行動では、報酬を得ることはできない。何とも皮肉な話かもしれないが、楽を求めるほど楽になれないのが人間社会なのだ。
 企業の活力が失われるというのは、社員の意識がこの安楽の欲求に流されてしまうことを言う。



【3】努力するほど充実した人生になる
   ー最高の充実感は感動させることで得られる

 充実の欲求とは、一日一日を充実した生きがいのあるものにしたいという欲求で、自己実現欲、自己成長欲、価値創造欲、社会調和欲といった人生を人間らしく有意義なものにしたいという人間特有の欲求である。どれだけ裕福で何不自由のない生活をしていたとしても、どこか心が満たされないのは、この充実の欲求が満たされないからである。
 しかしこの充実の欲求は、生命体を維持するための安楽の欲求に比較して、極めて弱い欲求である。そのために私たちは、意識してこの欲求を満たそうとしなければ、充実した日々を送ることはできない。
 しかもこの充実感のある日々を送るためには、言わば苦労することが条件になる。明確な目標に向けて、自発的に毎日精一杯の努力をしなければならない。その目標は簡単にできるものではなく、大きな困難があるほど充実感は強くなる。さらに協力し合える仲間がいて、その目標の達成を周りの人々が喜んでくれることが必要である。
 最高の充実感を感動と言う。そして最大の感動は、自分が努力をしたことで他人が感動した時に得られるものである。
 また目標の達成は充実した日々の終焉でもある。さらにまた大きな目標を持たなければ、すぐに私たちは安楽の欲求に流され、どこか虚しい日々を送ることになってしまう。この状態をバーンアウトと言う。つまり、充実感とは努力する過程から得られるものなのである。人生を充実感のある有意義なものにするためには、常に先に目標を置いて努力し続けなければならない。
 この充実の欲求に基づくと、企業活動の中では、以下のような考え方になる。

・ビジョンの達成のためなら面倒なことでもやりたい
・責任のある仕事がしたい
・新たなことにチャレンジしていきたい
・働くこと自体に生きがいを感じたい
・会社の未来は自分の努力次第で変わると思う
・自分の評価は努力の結果に過ぎない
・難しい仕事ほどやりがいを感じる
・部下を信頼したい
・社会に価値、感動を提供したい

 こうした考えによって行動すると、以下のようになる。

・自分が責任を取る
・トラブルの処理が早い
・能力が向上する
・指示がなくとも自分で考えて行動する
・何事にも全力で取り組む
・仕事をどんどん改善向上する
・不平不満がなく、もしあれば自分で解決すべく努力をする
・部下や顧客から尊敬される
・会社の未来を創造する

 こうして企業を成長させるだけでなく、自分自身も充実した日々を送ることができるようになる。
 充実の欲求を満たすためには、楽を求めず、あえて困難に立ち向かい、精一杯の努力をしなければならない。しかし、それによって自分に対する信用は高まると同時に、その成果も最大となる。このように充実した一日と安楽な一日は、両立し得ないものである。
 日々変化する環境の中で生きている私たちにとって、安楽を求めて改善向上を怠ることは、そのまま衰退していくことを意味する。私たちは、常に他人や社会に貢献することによってしか、生存し得ない存在なのである。



【4】ゲームセンターが成り立つ理由
   ービジネスはゲームセンターよりも楽しい

 話が全く飛ぶようだが、ここでゲームセンターはなぜ成り立つのかを考えてみたい。
 ゲームセンターは、言わばお金を払って様々なシミュレーション体験をすることができる場である。ゲームの世界では、誰でもパイロットやプロドライバーになることもできれば、屈指の格闘家になることもできる。そこでは、誰もが勇猛果敢なチャレンジャーである。次々と降りかかってくる困難や課題を一つひとつクリアしていくことを楽しみ、そのためにお金を払っている。
 それでは、このことを違った視点から考えてみよう。もし、仮にお金を払うことによって、私たちが何らかの利益を得るのが当然ならば、お金を払ってゲームをする以上、ボタンを押し続けてさえいれば、ゲームの点数はどんどん勝手に高くなっていくべきである。闘わずしても勝つことができるべきであろうし、思い通りの結果を簡単に手に入れることができなければ、利益を得たことにならないのではないだろうか。
 しかし、そんなゲーム機がもしあったとしたら、誰もやらないだろう。ゲームセンターは、うまくいかないことを楽しむために行く所なのである。そして、ゲームセンターで得られる楽しみとは、安楽感ではなく、充実感である。わざわざ努力をするためにお金を払っているのだ。
 とすれば、ゲームセンターよりもはるかに楽しい所がある。それが現実のビジネス社会だ。それは、シミュレーションではなく、現実というリアリティの中でチャレンジすることができるわけで、問題や課題も大きく、遥かに楽しいはずである。しかも、それによって報酬まで得ることができるのだから、こんなに素晴らしい世界は他には無いだろう。
 もう社会人は、一度やったら止められない。


第8回 「企業を成長させる自立型社員」
―自立型姿勢の定義―


【1】自立型姿勢と依存型姿勢
   ー欲求によって考え方が決まる

 私たちは、人間として生きている以上、安楽の欲求と充実の欲求の相反する2つの欲求を持ち、どちらの欲求に基づくかによって、全く正反対の考え方と行動をする。
 安楽に生きようとすると、自分が安楽であることを他に依存するようになる。どの会社に入ったら生活を保障してくれるのか、誰と付き合ったら自分にとってメリットがあるかなど、自分が安楽であることを他に期待するのである。そもそも自分が努力をして掴み取ることは安楽なことではないからである。
 一方、充実した日々を送ろうとすれば、他に期待するのではなく、自発的に努力するようになる。努力無き所に充実感は無いからである。
 それぞれのこのような欲求の性質から、安楽の欲求に基づいた考え方を依存型姿勢と呼び、充実の欲求に基づいた考え方を自立型姿勢と呼ぶ。
 自立型姿勢を中心にこれら2つの姿勢の違いについて、体系的に解説してみたい。



【2】自立型姿勢の定義
   ーどんな時でも全力を尽くす

 自立型姿勢とは、一言で言えば「いかなる環境、条件の中でも自らの能力と可能性を最大限に発揮して、道を切り開いていく姿勢」である。そしてこれは広義的な定義である。
 ここでのポイントは2つある。一つは自分が今置かれている環境・条件には一切関係ないということ。つまり、どのような経済環境の中にいるか、どのような会社にいるか、さらには役職、経験、知識、人脈、収入、学歴、年齢、性別、家柄などには一切関係が無いということだ。
 そしてもう一つは、今そこでできることから自発的に全力で取り組むということである。今できることがどれほど僅かなこと、小さなことであっても、あきらめずに精一杯努力することだ。
 分かりやすく言えば、「どんな時でも全力を尽くす」と言うのが自立型姿勢である。
 自立型姿勢は、周りの環境や自分がどのような立場に置かれているかには影響を受けない姿勢である。自分がどれだけ努力するかによって、すべての結果が決まると考えるからである。それは不可能を可能にする姿勢と言うこともできるだろう。
 一方、依存型姿勢は、環境や他人に依存し、確実で楽にできることだけに取り組む姿勢である。こうすれば必ずうまくいくという手法ばかりを探し、それが見つかるまでは行動しようとしない。自分が思い通りのことができないのは、会社や他人のせいと考え、いつも不満に満ち溢れている。
 世の中には、こうすれば必ずうまくいくという万能で確実な手法はない。物事と他人は、思い通りにならない。だからこそ、私たちにできることは、自立型の姿勢で取り組むこと、つまり、今できることから全力で取り組むことしかない。誰でも、どのような状況からでも道を切り開くことができる可能性を持っているのだ。そして、思い通りにならないこと、なかなかうまくいかないことを楽しむことができた時、最大の成果を得ることができるのである。



【3】自立型姿勢の5つの要素
   ー不可能を可能にする考え方の体系

 自立型姿勢は、自己依存、自己管理、自己責任、自己評価、他者支援という5つの要素によって構成されている。
 自己依存とは、他人に期待せず、自分自身に期待することである。ここで言う期待とは、思い通りにしようとすることだ。しかし、他人に期待しても思い通りにならず、結果は裏切られて不満となって自分に返ってくる。その不満が蓄積されるとストレスになる。
 自己依存とは、他人や会社が何をしてくれるのかではなく、自分から他人や会社に何ができるのかを考え、自分から始めることである。生活の安定も、どこの会社に入ったら得ることができるのかと考えるのではなく、自分の努力で掴み取ろうとする姿勢である。
 自己管理とは、自らの可能性を最大限に発揮することである。私たちは、無意識に安楽の欲求に基づいて考え、行動してしまう。意識をして自立型の考えを持つようにしなければ、依存型の考えに流されてしまうのだ。常に自分の持つ可能性を最大限に発揮するためには、常に目標を確認し、自分自身がやる気になるように努力しなければならない。
 どのような状況であれ、その中で自分を最大限に発揮するためには、何のために、なぜ、自分が今目の前にあることに取り組もうとしているのかを何度も確認する必要がある。成功者は、この確認作業を一日に100回以上、つまり、5分に1回は確認している。
 自己責任とは、問題の責任は自分自身にあると考えることである。問題を改善・向上の機会と捉え、自らの責任で解決していく姿勢である。
 自己責任は、成長のためには不可欠の考え方である。他人の責任にしたものは改善・向上することが難しく時間が掛かるのに対して、自分の責任として考えることによってのみ、より早く確実に成長していくことが可能となるからである。
 自己評価とは、自分が納得いくまでとことんやることである。他人に評価されることを目的にするのではなく、評価を結果として考え、自分自身は一流・本物を目指していく考え方だ。そして、ビジネス社会における一流・本物とは、顧客や社会に価値と感動を提供できるようになることを言う。
 自分がさぼっているのを一番知っているのは自分自身である。人が見ていようが見ていまいが、全力で努力することが大切だ。言わば、人が見ていないところでこそ、努力をする姿勢が自己評価である。そして、努力をしても他人の評価が低いのは、努力が足らないだけなのである。
 他者支援とは、他人は信頼し、支援する対象でしかないと考えることである。顧客は価値を提供する対象でしかなく、部下は支援する対象でしかない。もちろん、どちらも信頼することが前提である。信頼とは、相手がどのような意識状況にあっても、そのすべてを受け入れることであり、最高の支援とは励ますことである。
 自立型の姿勢は、他人に価値と感動を与えることを目的とした考え方であり、私たちは自分が努力したことで他人を感動させた時に、最高の充実感、つまり感動を得ることができる。他人を感動させることによって、自分自身が感動する。これが人間のためのビジネス社会である。
 これら5つの要素は、それぞれ独立したものではなく、それぞれがお互いに連動し合って、一つの自立型姿勢を構成しているのである。
 自立型姿勢とは正反対に、依存型姿勢は、他者依存(他に期待する)、他者管理(与えられたことだけをやる)、他者責任(責任を他に押し付ける)、他者評価(評価されることを目的とする)、自己利益(自分の利益を優先する)の5つの要素によって構成される。



【4】自立型と依存型の違い
   ー未来に期待するか、未来を創造するか

 以下、自立型姿勢と依存型姿勢について、その違いをいくつかの視点から考察してみよう。
 自立型姿勢では、どのような状況に置かれたとしても、自由と可能性を感じることができる。制約のない人生はない。しかし、どんなに厳しい制約の中でも、今、そこでできることをあきらめずに精一杯やろうとするのが、自立型姿勢である。そして、このような考え方からは、不満が起きない。
 一方、依存型姿勢には、いつも拘束感、限界感がある。期待していることが実現しないのは、他人に責任があり、自分ではどうにもならない環境にいるのだと考えるためである。このような意識になると、仕事に対しても次第に投げやりとなって、ただ一日一日を消化していくだけの人生を送ってしまう。
 また、自立型姿勢では、物事がうまくいくかどうかは、どれだけ全力で物事に取り組んだかによって決まると考える。うまくいかないのは、うまくいくまでやっていないからであり、うまくいくまであきらめない。だからこそ、夢を持つことができる。やる前から実現することが、確実に分かっているものは、夢ではないからだ。そして、うまくいかないことがあるからこそ、自分自身が成長し、充実感のある日々を送ることができると考える。なかなかうまくいかない仕事、言うことを聞かない部下ほど、自分を成長させてくれるのである。
 これに対して依存型姿勢は、努力しないでうまくいくことばかりを考えて名案を探し続ける。しかし、こうすれば必ずうまくいくという名案が無いために、結局はうまくいかない理由を挙げてやろうとしない。このような依存型姿勢にとっては、夢を持つこと自体が無意味なことに感じてしまう。そして、昨日と同じことばかりを繰り返し、成長・向上することができなくなってしまう。残念ながら、現代のように変化の著しい環境の中では、このような姿勢で生き抜いていくことはできない。
 人間関係においても、自立型の姿勢がなければ信頼関係を創り上げることができない。依存型姿勢では、他人を自分の思い通りにコントロールしようとするために、他人との関係では、信頼関係を創ることができない。また何か問題があれば、他人の責任にしようとすることも信頼関係を損なう原因となる。特に顧客との関係において依存型姿勢では、信頼されず売上につながることもなくなってしまう。そもそも信頼とは、相手のすべてを受け入れることに始まるものであり、相手がどうあれ自分から相手を受け入れていかなければ生まれ得ないものだからだ。信頼関係は、自分がまず相手を信頼することからしか始まらないものなのである。
 自立型姿勢と依存型姿勢は、どちらを選択するのかによって、全く正反対の考え方を取り、それが行動となって、成果も全く違ったものになってしまう。私たちが現在、どのような立場、人間関係にあるかは、これまでどのような姿勢で物事に取り組んできたかの結果である。同じように、これから私たちがどのような人生を送ることができるのかは、今からどちらの姿勢を選択して生きていくのかによって決まるものである。そのためには、意識的に自立型の姿勢を取るように心掛けなければならない。
 過去がどうであれ、未来は今日創られているのである。



【5】プラス受信の3原則
   ーすべてがチャンスになる

 プラス受信とは、自立型姿勢の入口となるものだ。それは、物事を客観的、好意的、機会的に受け止めることを言う。この反対の受け止め方をマイナス受信と言い、それは依存型姿勢の入口となる。マイナス受信とは、感情的(自己中心的)、反感的、危機的に物事を受け止めることである。
 プラス受信とは、言わばどのような事態に遭遇したとしても、その出来事をどのように受け止めたら感謝することができるのかを考えることである。私たちにとって、都合が悪いと感じることは、都合が悪いように考えたからに過ぎない。問題が起きたことが問題ではなく、その問題をどのように受け止めたかが問題なのだ。
 客観的とは、その場の感情に流されず、冷静・客観的に物事を受け止めてみることである。私たちは、安楽の欲求によって、都合の悪いことに出会うと、安易に感情に流されてしまう傾向がある。その時に、感情に流されずにもう一度その出来事を客観的に見直してみると、自分自身に本当の原因があったことを発見することができるはずである。自分自身に原因があると考えることができれば、改善することも可能である。
 好意的とは、相手の言ったこと、やったことを好意を持って受け止めてみることである。厳しい上司は、好意的に受け止めてみれば、自分の成長のためにわざと厳しくして下さっていると考えることもできる。上司がどのような意図で何を言ったかが問題ではなく、自分がどのように受け止めたかが問題なのだ。
 機会的とは、問題や障害をチャンスとして受け止めてみることである。自分が不便と感じたことは、ビジネスチャンスとなり、会社の業績が悪い時ほど、改革のチャンスになる。自分に降りかかってきた問題は、それを自分が解決することができれば、同じようなことで困っている他人の役に立つことができるようにもなる。つまり、自分に降りかかる問題は、自分が世界に役立つために降りかかると考えることだってできるのだ。
 あらゆる出来事は、ピンチにもなれば、チャンスにもなる。それは、受け止め方の違いであって、どんな出来事が起きたかが問題ではない。



【6】自立型姿勢と人間的成長
   ー変化・成長する姿勢

 物事にどう取り組むのかという姿勢は、出会いと出来事によって常に変化し続けている。そして、より自立型姿勢のウエイトを高めていくことを人間的成長と言う。
 幼児期の私たちは、安楽の欲求だけに基づいて、自己の生命体の維持のために行動するだけだ。しかし、次第に周りとの関係を意識し、社会の中でどのように生きていくかを考えて行動するようになる。人間にとって成長とは、単なる肉体的成長を意味するのではなく、精神的成長、つまりどんな時でも自立型姿勢で臨めるようになることを言うのである。
 しかし、残念ながら肉体的成長に反比例するように、依存型姿勢のウエイトが高まっていくことがある。学生時代は、自立型姿勢のウエイトが高かったにも関わらず、企業に就職して周りから依存型姿勢を強要され、次第にそれが常識なんだと思い込んでしまうことがある。そして、このような人間的退行現象が、企業の生産性の低下の引き金となっているのである。


第9回 「自立型社員を育成するメンター」
 ―管理から支援へ メンタリング・マネジメント―


【1】いくら教えても人が育たない
   ー教えるのではなく気づかせる

 ある時、学校の先生向けの専門誌の取材を受けた。取材テーマは「先生は子供たちに対してどのように教育すべきか」ということだった。教育の現場では、先生の言うことを聞かない子供たちや不良化する子供たちが後を絶たないばかりか、どうしていいのか分からなくなって精神的に行き詰まり、登校拒否する先生までいると言う。学校に来ない先生の自宅に校長先生が迎えに行くということまで起きているらしい。
 そこで私は、以下のような話をした。
 「そもそも教育しようという考えを変えない限り、この問題を解決することはできないと思います。子供たちを教育する前に、先生が子供たちからどう思われているのかが問題です。仮に、子供たちから『あんな先生みたいにはなりたくない』と思われていたらどうなるでしょう。先生の言うことを子供たちは喜んで聞くでしょうか。それどころか『先生の言うことを守ったら、先生みたいになっちゃう』と言って、きっと言われたことと反対のことをするに違いありません。」
 「では、そういう時はどうしたらいいんですか?」
 「そうなってしまったら、そうなった時の対処法があります。学校へ来るな!約束は守るな!と言えばいいでしょう。みんな先生みたいになりたくないと、反対の行動を取るからです。」
 最後の一言は、もちろんジョークである。しかし、企業内においても同じようなことが言えるのではないだろうかと私は思っている。
 いくら教えても人が育たない。分かっているはずなのに行動しない。教えよう、やらせようとすればするほど、なぜかこのような結果になる。それでも無理やり強制してやらせようとすれば、相手は嘘をついたり、ごまかしたり、さらにはノイローゼになってしまうこともある。そして、自分もノイローゼになる。
 教育とは、押し付けるものではなく、気付かせるものである。人が成長しないのは、成長したくないからだ。人がやる気にならない本当の原因は、相手にあるのではなく、気付かせてやる気にさせることができない上司のリーダーシップの欠如にある。
 個人が成長するかどうかは、すべて個人の意識にかかっている。教え込もうとして、教えることができるのは、知識でしかない。しかし、知識と言えども個人が自発的に学ぼうという意識がなければ、時間は何倍もかかってしまうだろう。しかし、個人が自発的に成長しようとすれば、どんどん自分で知識は身に付けていくものであり、もちろんその修得に掛かる時間も短くなるはずだ。
 教育とは、いかに気づかせてやる気にさせるかが最も大切なことである。



【2】管理するほど、やる気がなくなる
   ー管理から支援へ

 これまで一般的に企業は成長するのに伴って、管理型の組織となっていくのが通例であった。では、なぜ企業は社員を管理するようになるのだろうか。
 企業が売上や利益を目的にするほど、経営者は、社員に対して利益を上げることを期待する。しかし、言われなければやらなかったり、働くフリをする社員が後を絶たない。そこで、目標設定をさせて行動を細かく管理するようになっていく。
 ところが、いくら管理をしても社員は必ず抜け道を見つけ出して、ごまかすようになる。完璧に人を管理することはできない。頭の良い人間であっても、管理をごまかすために頭を使えば、せっかく導入した管理手法やツールであっても、時間と共に陳腐化せざるを得ない。それに対して会社側も、また新たな管理方法を導入して対抗しようとする。こうして管理する側と管理される側の尽きることのないイタチごっこが始まる。
 本来、人は強制的に管理するほど、やる気を無くしてしまうものである。なぜなら強制的な管理は、信頼関係を放棄することに他ならないからだ。
 如何にして人をやる気にさせるか、そして社員が自発的に自己管理していくか、このことが企業の存在を左右させる最も大切な課題なのである。
 この課題を解決するためには、強制的な他者管理から自発的な自己管理へと、管理の在り方を変えることである。そして、そのためには根本的な発想の転換が必要だ。
 つまり、部下への動機付けは、上司が見本となって行動することによって、自らの姿で示すことである。仕事を楽しんでいない上司の下で、部下は仕事を楽しむことはできないし、部下を信頼していない上司に対しては部下も信頼しない。部下が自分の言うことを聞かないのは、自分が部下の言うことを聞いてこなかったからであり、部下が嫌々仕事に取り組んでいるのは、自分が嫌々仕事に取り組んでいるからである。
 他人は、自分の鏡である。夢に向けてチャレンジする上司の姿が、部下にやる気を起こさせるのだ。部下にやる気を求める前に、尊敬されるような見本としての行動ができていないこと、つまり、自分自身にやる気がなかったことを反省する必要がある。教えるのではなく、自分の生きる姿で見せるのが、真の教育なのである。
 そして、このようなリーダーを「メンター」と言う。



【3】自立型人材を育成するメンター
   ー自らの姿勢で示し、信頼して支援する

 メンター(Mentor)とは「相手の持つ可能性を最大限に発揮させる支援ができる人」のことである。自発的に能力を最大限に発揮する自立型姿勢の人材を育成することができるのがメンターだ。そして、最高のメンターとは、そこにいるだけで、みんながやる気になるような人のことである。
 メンターの人材育成に対する基本的な姿勢は「自ら見本となって行動し、相手を信頼して支援する」ことである。
 以下、このことについて詳しく説明していよう。

▶1.見本となる

 見本となるということは、まず自分自身が自立型姿勢で前向き積極的に物事に取り組むことである。
 メンターを単に精神的支援者と訳することがあるが、それはメンターの本質ではない。メンターは、まず自分の姿勢で示さなければならない。つまり、自らの姿勢によって相手に動機付けをするのである。
 子供に勉強をさせたかったら、自分がまず大いに仕事を楽しむことである。毎日仕事を終えて、家に帰る度に「ああ、今日も一日、仕事が楽しかったー!また明日も早く会社に行きたいなぁ。子供の頃たくさん勉強しておいて本当に良かった。」と言えば良い。
 同じように部下に対しても、仕事は積極的に楽しんでやるものだ、と言う前に自分自身が積極的に楽しんでやることである。他人に勇気を与える最も良い方法は、自分がまず勇気を見せることだ。最高の教育・人材育成とは、自分の行動・生きる姿で示すことである。
 メンターは、自立型姿勢を行動によって示すことで、尊敬される人のことである。言わばメンターとは、相手から与えられる権威だ。その意味で「自称メンター」は、偽物ということになる。

▶2.信頼する
 
信頼とは、相手のすべてを受け入れることである。そのためには、相手に問題があるのではなく、すべては自分に問題があると考える必要がある。考え方を変えることによって、相手のすべてを受け入れることができるようになるからだ。例えば、仕事はできて当たり前だと思えば、毎日が部下に対しての不満となり、部下に対して怒るだけになる。しかし、仕事はできなくて当たり前と思えば、毎日が部下に対して褒めるだけになる。
 また、信頼とは、期待と対峙する考え方でもある。期待が相手を思い通りにしようとするのに対して、信頼とは相手にすべてを任せることである。期待と信頼の大きな違いは、信頼が相手から裏切られることさえも前提としている点である。
 よく「信頼関係を創るためには、一緒に飲みに行って、じっくりと話し合って、コミュニケーションを取れば良い。」と、言う人がいる。ところが、飲みに行く回数が多い人々ほど、お互いに信頼し合っているかというと、実際にはそうでもないことが多い。その理由は、コミュニケーションを図ると言いながら、実は、上司が部下に自分の考えを押し付けているだけということが、少なくないからである。
 コミュニケーションを取ることによって、信頼関係は生まれない。信頼関係は、相手のすべてを受け入れる、つまり、相手はどうであれ、こちらから信頼することによってしか生まれないものである。

▶3.支援する

 支援の目的は、相手をやる気にさせることであり、いわゆる管理とは対峙する考え方である。相手を管理、コントロールしようというのではなく、相手のために今できることをやるのが支援である。
 例えば、企業の中では、上司は支援する対象であり、部下も支援する対象でしかないと考える。さらには、他部署であっても、支援する対象ということである。そして、お互いがお互いに支援し合うことによって、結果としてそれぞれが自己の目標を達成できるようになる。組織の活性化とは、お互いに支援し合うことによって達成されるのである。
 部下が自分を支援してこないことを嘆くより、その前に自分が部下を支援してこなかったことを反省しなければならない。
 また、支援において大切なことは、何を支援するのかという内容よりも、支援しようという気持ちを持つことである。なぜならば、何を支援したかということよりも、どんな思いで支援したのかということが、相手に伝わってしまうからだ。何も手伝うことができないから、何も手伝わないということが、一番の問題である。
 そして、相手に対して、私たちができる最高の支援とは「励ます」ことである。この「励ます」ことは、どのような状況でもできるはずである。



【4】管理型マネジメントとメンタリング・マネジメント
   ー恐怖で動かすか、尊敬で動かすか

 強制的に社員の行動を管理しようとする管理型マネジメントに対して、社員の自発性を重視したマネジメントをメンタリング・マネジメントと言う。「北風と太陽」の童話に例えれば北風のように強制してやらせようとするのが管理であり、太陽のように相手の自発性を促すのがメンタリングである。管理型マネジメントの目的は、相手をこちらの思い通りに動かすことであるのに対して、メンタリング・マネジメントの目的は、相手が自発的に努力することにある。
 管理型マネジメントの基本は、権力の下に「アメとムチ」を使って、相手をコントロールすることである。指示通りにやれば、金銭や地位などの報酬、つまり安楽を与える。しかし、指示通りに行動できなければ、評価を下げたり、配属を替えたりすることによって、個人の安楽を奪い去る。人々は、恐れおののきながらも、仕方なく自分の安楽のために従ってくる。これは、一言で言えば「恐怖」によって人を動かすことである。短期的効果だけを見れば、このような「恐怖」によって人を動かすことは、極めて有効なマネジメントに見える。
 しかし、このようなマネジメントの長期的な結果は決まっている。管理型マネジメントでは、相手の行動を強制することができても、意識を管理することはできない。もともと意識はどうであれ、行動を管理することが目的だからだ。そして、強制的な管理は、社員の自発性を奪うことになり、管理されるほど束縛感、限界感を持つようになる。そして、これらを持つと、「どうせがんばったとしても、うまくいかないさ。」、「自分のような立場では何もできないよ。」と、自発的行動を放棄してしまう。こうして、次第にみんな疲れ果ててしまい、生産性はどんどん低下していかざるを得なくなる。それは、管理型マネジメントが、社員の意識を無視して、行動だけを強要した結果である。
 一方、メンタリング・マネジメントは、自らが見本となって行動し、相手を信頼して支援することによって、いかなる困難に対しても果敢に挑んでいくように導くことである。それは言わば「共感と尊敬」によって、相手の自発性を促すマネジメントである。
 メンタリング・マネジメントによって、相手は自由と無限の可能性を信じることができる。つまり、「うまくいかないのは、うまくいくまでやっていないだけだ。」、「今できることからやっていこう。」という意識で、物事に取り組むことができるようになる。自分自身に自信を持ち、前向きに問題にチャレンジしていこうという気持ちを持たせることができるのである。
 また、メンタリングにおける最高の報酬とは、感謝と感動である。共に喜び合うことが、相手にとって至福の報酬となる。もちろん、ビジネスの世界では、結果として金銭と地位もついてくるだろうが、それらは結果に過ぎない。
 社員一人ひとりが、自発的に行動するように導くメンタリング・マネジメントは、企業の長期的な発展においては不可欠な経営概念である。


第10回 「リスナーによる問題解決」
 ―相手が勝手にやる気になる―


【1】教えるほど考えなくなる部下
   ー教えるのではなく引き出す

 以下は、社内でのある日の上司と部下の会話である。

部下:「こういう時はどうすればいいのですか?」
上司:「こうしなさい」
部下:「では、こういう時はどうすればいいのですか?」
上司:「その時は、こうしなさい」
部下:「さらにこういう時は?」
上司:「・・・・・いいかげんに自分で考えなさい!」
その後、いつまでたっても事が進まない。
上司:「どうしたんだ、まだやっていないのか」
部下:「ええ、どうしたらよいのか分かりませんし、急ぐこともないと思いましたので」
上司:「おい、何を考えているんだ。それではお客様に迷惑がかかるじゃないか!すぐにやりなさい」
部下:「・・・・・・何をですか?」

 学校教育で正解のある問題をどう解くかを教えられ、企業に就職してからも上司から仕 事の進め方を教え込まれる。自分で考え行動しようとしても、上司の考えと食い違う所があれば無理やり説得されてしまう。反論したくても、自分の評価が下がることを恐れて、仕方なくあきらめる。こうしていつの間にか自分で考えることをしなくなってしまう。時に考えることがあったとしても正解が見つからず、できない理由を見つけて結局は何も行動しない。
 また、上司の指示通りにやってうまくいかなかった場合には、部下は上司に責任があると考えるようになる。自分の判断で行動しない人は、自分の行動の責任を取ろうとはしないものである。いやそれ以上に責任を取る必要が無いとさえ考えるだろう。
 上司が日常部下とどのように接しているかによって、部下の意識と行動は決まるもので ある。
 人材育成とは、自分で考え自らの責任で行動できる人材を育成することにあるはずである。教え込むのではなく、自分で考えるように導くことが本当の人材育成だ。
「教えるのではなく引き出す」
 これが人材育成の基本原則であり、この原則に則って、部下との接し方を見直す必要がある。
 そして自分で考える能力を引き出し、自らの意思で行動させるのがリスニングという指 導技術であり、その役割を担うのがリスナーである。
今回は、このリスナーについて考えてみたい。



【2】自分で気づかせるリスニング
   ー自分で解決するからやる気になる

 以前よりアメリカでは、リスナーの存在が注目されている。リスナーとは文字通り、相手の話を聞く人という意味である。では、なぜこのようなリスナーが注目されているのだろうか。
 このリスナーになることによるメリットは、まず話を聞くだけで相手の問題は解決に向かうことにある。

課長:「部下がどうしても仕事を一生懸命にやろうとしなくて困っています」
部長:「そうか、それは困った問題だね。でも、どうして一生懸命にやろうとしないんだろう?」
課長:「きっと、彼にとって仕事は一生懸命にやりたくないものなんですよ」
部長:「じゃあ、仕事がやりたくなるにはどうしたらいいんだろう?」
課長:「仕事を通しての夢が必要なんじゃないかと思いました」
部長:「じゃあ、そのために君はどうしたらいいんだろう?」
課長:「彼と夢を・・・・・・そうか!分かりましたよ。先ほどの話はなかったことにしてください」

 現実にはこんなに簡単には会話は進まないかもしれないが、リスナーの役割はどんなも のかをイメージすることはできると思う。
 自分がリスナーになっていれば、相手は自分に対して問題を伝えようとする。そして、 相手がこちらに問題を分かりやすく伝えるためには、何が問題であるのかを整理しなければ ならない。まずここで問題が整理される。そして話しているうちに、どうしたらその問題が解決できるのか、または自分以外に原因があると感じていたことが、実は自分自身に本 当の原因があるということに気づくことができる。
問題と感じていることは、整理されればされるほど、また自分自身に本当の原因がある と考えるほど解決に近づくものである。
 人が最もやる気になるのは、自分で気づいたこと、自分で決めたことに取り組むときである。
 たとえ上司の判断が正しいものであったとしても、それを押しつけられたら、部下は反発したりやる気をなくしたりする。上司の指示通りに行動したかどうかではなく、自発的に自分の意思で行動したかどうかが問題だ。大切なことは正解を押しつけるのではなく、自分で決めさせて取り組むようにすることである。
 自分で決めたことだからこそ、自発的な行動につながり、大きな試練さえも乗り越えていくことができる。
 言わばリスナーは、相手の話を聞くことによって、気付かせる役割なのである。



【3】リスナーの条件
   ー5つの実践ノウハウ

 リスナーにおいて最も大切なことは、技術を身に付けることよりも、相手を信頼する姿勢を持つことである。その上で初めて技術が生きる。
 テクニックだけで人を導くことはできない。それは効果を高めることができるだけである。信頼関係がない関係の中では、いかなるテクニックもまったく効果を発揮することはできない。
 リスナーであるためには単に話を聞くといった行為以上に、幾つかの重要なポイントがある。以下、リスナーの実践ノウハウについて解説してみたい。

【1】相手を信頼すること
それは相手のすべてを受け入れることである。相手がどのような人間であるかは問題ではない。ミスのない完璧な人間などはいないし、自分の思い通りになる人間もいない。相手が信頼できるかどうかが問題ではなく、まずは自分自身が相手を信頼するかどうかが問題である。自分が相手から信頼されなければ、相手は本音を話すことはない。相手を信頼すること は、リスナーであるための前提条件である。

【2】相手と同じ立場で話を聞くこと
自分と相手が意識的な対等関係になければ、相手は素直に何でも話すことはしない。立場はどうであれ、本来人間と人間の関係で考えれば常に対等関係であるはずだ。このことを忘れると、たとえ親子の関係であったとしても、子供は親の言うことを聞かなくなるものである。
 物事が分かっているからリスナーなのではなく、自分も一緒になって同じ立場で考えようとするからリスナーなのである。

【3】真剣に相手と向き合うこと
相手の話を集中して聞くこと。相手が話をしたくなるためには自分がどれだけ相手と真 剣に向き合うかが大切なことである。こちらに聞く気がないと相手が感じれば話す意欲を 失ってしまう。真剣に話を聞く耳を持つことが、こちらに対する安心感・信頼感となり、思っていることすべてを伝えようという気持ちになる。
 自分がどれだけ真剣に話を聞くかどうかということと、相手がどれだけ真剣に話すかど うかは、比例する。

【4】疑問符を投げかけること
疑問符を投げかけて相手の話を促す。相手が自分自身の思い込みに気づくには、無意識に当たり前と思い込んでいることを、あえて考察し直す機会を与えることが必要である。聞かれたことに応えるために、相手はこの再考察をしなければならなくなる。「なぜ」「どうして」「具体的に」と聞いていく。それによって話の中で矛盾があれば自分で気づくことができるようになる。問題は整理させるほど解決策が見つかるもの。相手の話を聞くことによって、相手の頭の中を整理させることができれば、自ずと解決策は見えてくる。

【5】最終的意思決定は相手に任せること
判断を押しつけてはならない。判断は相手にさせることである。それが正しい判断とは ほど遠いものと感じたことであっても、最終的には相手の意思を尊重して委ねることである。相手がイヤイヤやるのは自分で決めたことではないからである。やりたくてやるように するためには、最終的に相手に決めさせることが不可欠である。

【6】待つこと
これが最も難しい。私たちはどうしてもすぐに成果の出ることばかりを優先したくなる。 そして、そのために相手に行動を強制する。しかし、それは必ずしも良い成果になるばかりとは言えず、相手のためになるとは限らない。社員に対して、何事も強制ばかりする企業は、急成長するが故に崩壊する。短期的成果よりも人間的成長を優先しなければ、人も企業も長期的成長はありえない。企業の成長と人材の成長は相関関係にあり、人材の成長なくして、企業の永続的成長はないからである。相手の人生の中で成長を考えて待つことである。


 いつでも自分の話を聞いてくれるリスナーがいることで、私たちは、常に自信を持って行動することができるようになる。すべては自分で判断して、自分で行動すべきことが分かっていたとしても、時として私たちは、不安や迷いの中で行動が消極的になることがある。そんな時ほど、リスナーがいる人といない人とでは、行動に大きな差が出ることは否めない。
 優れた上司・リーダーになるためには、部下にとって、良きリスナーであることが極めて重要な要件である。いやそれ以上に悩める上司に対し、部下として良きリスナーになることが求められている時代でもある。


第11回 「一人の思いが企業を変える」
 ―組織を変革する一人の生き方「まずは私がやる!」―


【1】企業の中で主体的に生きる
   ーすべては自分が選択したこと

 先日ある行政機関の委員として、その調査の一環で地方に出張することがあった。その調査を受託している団体の方々も同行しての一泊二日の出張である。その団体の多くは、あちこちの自治体や企業からの出向者によって構成されている言わば混成部隊である。一人ひとりが違った経歴を持ち、考え方にも大きな違いがあったりして、話していると色々なことを教えていただけるのでとても面白い。出張中は、移動時間が一日のうちで大きなウエイトを占める。この時間は、情報交換の時間である。出張の楽しみは、この移動時間にもあると思う。そんな中でこんな話があった。

 「福島さんは、いつも元気ですね。毎日が楽しくてしょうがないんじゃないですか」
 「ええ、特に最近は一日を全力で生きようっていうことを自分の目標にしているんです。人生の時間は有限ですから、一時間一分をどれだけ大切なものとしていくかって、そんな ことをいつも気にして考えながら過ごすようにしています。実際には、なかなかできませんけどね」
 「でも私たちは、会社の命令で出向してきているんで、福島さんとは違う立場ですから、 なかなかそうは考えられませんよ。起業家の方は自由かもしれませんけれど」
 「えっ!!今回の出張も、あなたの意思で来てるんじゃないんですか」
 「もちろん違いますよ。会社の命令があったから来たんです」
 「でもイヤなら断ればよかったんじゃないですか」
 「そんなことできませんよ。私たちは業務命令には逆らえないんですから」

 会社の業務命令には逆らえない、という人がいる。果たして本当にそうだろうか。業務命令は、個人の行動を強制することができるのだろうか。
 現代社会においては、そんなことはありえない。大昔、奴隷と言われた人々には、行動の選択権はなかったかもしれない。しかし、今日ではこのようなことはありえないし、あってはならないことである。
 業務命令は会社からの提案であり、それを受け入れるかどうかは個人の自由意思で決ま る。もちろん受け入れなければ、会社にいられなくなることもあるかもしれない。しかし 退社することも個人の自由だ。すべての選択は自分が決めているのである。
 このようにすべては自分が選択したことであり、また自分は誰からも拘束されることは ないと感じることを自己自由観と言う。一方で、自分の行動は他人から制約を受けている、 自分のできることは限られた範囲で、自分は他人の指示によって動かされていると感じる ことを拘束限界観という。
 1つの同じ出来事をどちらの感覚で受け止めるかで、その後のやる気・行動に大きな差 が出る。自己自由観を持っていれば、すべての自分の行為は、自分が選択したことであり、 主体性を持って行うことができる。しかし拘束限界観に満たされてしまうと、すべての行 為はイヤイヤやることになり、主体性を失った状態のまま行動しなければならなくなる。 それぞれの行為がもたらす成果がどのようになるかは明らかである。
 私たちは、自分の置かれた状況をどのように認識するかによって、自分の行動の成果を大きく変えてしまうばかりでなく、毎日の生きている時間を有効なものにするか無意味なものにするかさえ決めてしまっている。生きがいのある充実した日々を送るのか、張り合いがなく何となく疲れる日々を送るのかは、環境の違いではなく、認識の違いによって生じてくるのである。



【2】100円で世の中を変える
   ー厳しい条件の中で知恵を出す

 以前、私は大学生らと「100円の会」という勉強会を開いていたことがある。その会のコンセプトは「100円でできないことは、100億円あってもできない」という何とも大胆なものだ。分かりやすくいえば“風が吹けば桶屋が儲かる”のような発想の訓練をする会である。わずか100円で夢を実現するためには、徹底的に頭を使い、参加者が協力し合って、無限の知恵を出し合わなければならない。
 例えば、ある時は、「今日のテーマは老人福祉の問題です。高齢化社会に向けてどんなことができるかを、百円玉を1つ持っているところから考えてみよう。さあ、まず100円で何をしますか?」
 また、ある時は、「今日は地球環境問題がテーマです。さて皆さんは、今100円しか持っていません。どうやって100円から地球環境問題を解決しますか。」
といった無理難題に対して、みんなで知恵を出し合って考える。結果として、現実にはほとんど全面解決できたことはない。
 しかし、ここで大切なことは、解決策を見出すことではない。解決策が見出せなくともかまわない。この会の目的は、物事に取り組み、解決策を見出すために必要な姿勢を身に付けることなのである。
 世の中を変えるのは人間である。一人の人間のできることは限られているかもしれない が、知恵を出すことは無限にできる。あれが無い、これが無いと言っていたのでは、何もできない。今できる小さなことから積み上げて、少しずつでも最終的な目標の達成に近づくことが大切だ。そのためには、無限に知恵を出し続けるしかない。勉強会とは知識を身に付けるものではなく、知恵を出す訓練をする場である。
 事業は資金があるからできるものでもなく、知識があるからできるものでもない。知恵を出すからできるものなのである。始めは、まったくできそうもないものでも、知恵を出し続ければ、いつかは“風が吹けば桶屋が儲かる”のように、どうすれば良いかが次第に見えてくる。そのためには、できるかできないかではなく、あきらめずに考え、知恵を出し続ける努力をすることだ。もちろんそれは簡単にはうまくいかないだろう。糸口が見つかるまでには、1カ月、1年、場合によっては10年以上かかるかもしれない。それでも考え続けることでしか、不可能を可能にすることはできない。
 知恵は、考えた時間と比例して出てくるものであり、多く知恵を出すほど、より目的に近づくことができる。あきらめずに考えた人だけが、不可能を可能にすることができるのである。



【3】一人の思いが企業を変える
   ー大企業の変革は一人から始まる

 おもちゃ業界において、戦前戦後を通して最大のヒットという歴史的記録を打ち立てたバンダイの「たまごっち」は、合併も仕方がないという社内の雰囲気を一瞬にして吹き飛ばし、活気あふれる社風へと転換させてしまった。「たまごっち」の大ヒットによって、「何も合併しなくたって、自分たちだけでも十分にやっていけるんじゃないか!」と、みんなが思ったとき、次々と新商品のアイデアが提案され、翌年商品化されたものだけでも、約4000件にも上った。そしてその中から、ハイパー・ヨーヨーなどのヒット商品も生まれた。
 「たまごっち」は元々、たった1人の課長が、わずかな資金を元に始めたプロジェクトではあった。しかし、その課長の思いに共感した社内社外の多くの人々が、厳しい環境の中で協力し合い、知恵を出し合って、まるで奇跡とも言えるような大成功を達成したのである。「たまごっち」の大成功を偶然と言う人がいるかもしれないが、努力無き所に奇跡は起きない。
 会社の規模がどれほど大きくとも、それを変えることはできる。それは、自分が今、目の前にあることに対して、どのような姿勢で取り組もうとしているかで決まるものである。会社に何かを要求するよりも、自分が企業を変革する口火を切れば良いのである。自分の姿勢が職場を変革し、その実績が企業を変革する。
 さらに、あらゆる商品・サービスは、そこに関わった人々の「思い」に比例したものになる。他人に感動を与えるためには、強い「思い」が不可欠だ。
自分が「うちの会社じゃダメだ」と言った時にダメになり、「なんとかしよう!」と言った時に何とかなる可能性がある。企業がどうなるかは、実は自分が決めているのである。その意味では、企業の将来を自分一人が担っていると言っても過言ではないだろう。企業の変革のみならず、歴史を変革してきたのは、たった1人の人間の「思い」に始まったことばかりなのである。



【4】思いの法則
   ー醸成・発揮・伝播・吸引・実現

 1人の人間の力は小さいものである。しかし、1人の人間ができることは無限大である。 では、なぜたった1人の人間が歴史を変えるようなことまでできるのであろうか。
 それは、その1人の人間がどのような能力があるかではなく、どのような「思い」を持つかによって、できることの内容と大きさが変わってくるからである。この「思い」が実現するまでには、5つのステップがある。

■第1ステップ 「醸成」
 まず、自ら「思い」を強めていく努力をしなければならない。私たちは、何かをしようと思った時、既に何らかの「思い」を持ったことになる。そのほとんどは、始めはわずかな「思い」かもしれない。それらは、放っておけば消えてなくなってしまうような「思い」だろう。だからこそ「思い」は、意識的に強くしていかなければならない。1日に何度もその思いを確認したり、人にその思いを話したり、忘れないように、その思いを紙に書いて、よく目にする所に張り出したりすることによって「思い」を強めていくのだ。この時点においては、「思い」の実現のために必要な資源があるかないかは関係ない。それらは後から集まるものだからだ。

■第2ステップ 「発揮」
 「思い」の強さに応じて知恵を出し、行動する。私たちは、本気になるほど頭を使い、そして行動するようになる。弱い「思い」では、安楽の欲求に負けてしまうために行動することはできない。しかし、強い「思い」を持つほど、行動のプライオリティ(優先順位)が変わり、積極的な行動をするようになる。さらに、強い「思い」は、見るもの聞くものをその「思い」の実現のために活かそうとする。

■第3ステップ 「伝播」
 「思い」を持って行動するようになると、その「思い」が他人にも伝播する。つまり、他人が自分と同じ「思い」を持つのである。それによって、自分1人だけの行動ではできないことが可能になっていく。こうして、多くの人が同じ行動をすることによって、無限の可能性が出てくる。「思い」を持って行動しているのに、他人が行動してくれないというのは、自分の「思い」が弱いことが原因である。そもそも強い「思い」を持っていないから他人に期待してしまうのだ。自分の「思い」の強さに応じて、他人が能力を発揮するのである。

■第4ステップ 「吸引」
 他人も行動した結果、「思い」の実現のため に必要な情報、人脈、資金、アイデアなどの資源が集まるようになる。共感した人々が「思い」の達成のために行動するからである。必要資源が集まるスピードは加速していき、「思い」が実現する可能性は急速に高まる。企業とは1つの「思い」に共感した人々の集団でなければならない。

■第5ステップ 「実現」
 こうして最後に「思い」は実現する。強い「思い」のある所に、必要な資源が集まり続け、いつの日か「思い」は実現することになる。そして「思い」が強いほどそれは早くなる。


 そして、最も強い「思い」を決意という。決意には、次のような10の特徴がある。

1. 決意とは、夢・目標を実現するまでやるとあらかじめ決めることである
2.決意は、どのような立場・環境からでもできる
3.決意は、毎日確認するものである
4.決意は、すべてを受け入れることから始まる
5.決意は、問題を欲し、中傷をアドバイスに変える
6.決意は、習慣を嫌い、常識を超える
7.決意は、迷いと不満を消し去る
8.決意は、強い自発性をもたらす
9.決意は、他人を同じ行動に駆り立てる
10.決意をした人は、行動に無理がなくなり、自然体である

 私は、これまでに運よく、決意した人々にお会いする機会が度々あった。学生時代から政財界に人脈を作り、24歳で社団法人を設立した女性、官庁で次々と企画を立案・実行していく30代の官僚、何万人もいる大企業の中で何の迷いもなく変革を押し進める50代の管理職、そして17歳で障がいを持ちながらも全国にビジネスを展開する若者など。
 彼らの顔の表情には、影や曇りがまったく無い。自分の行動が、当たり前のようで何の気負いも感じられない。皆自分らしく、自然体である。

 現在の自分は、過去の自分の「思い」の結果である。そして、また未来の自分は今どのような「思い」を持っているかによって決まる。すべては自分次第なのだ。
企業の中で最も大切なのが「人」であると言われる。しかし、その人に「思い」が無ければ、「人」がいることにはならない。何万人の社員がいようが、企業にとって必要なのは、経済環境の変化に対して、新たなる企業を創り上げていく「思い」を持った「人」である。


第12回 「相互支援型企業(助け合う組織)」
 ―他部署のために何ができるか―


【1】みんなが成功するセミナー
   ー他人を成功させると自分が成功する

 以前、私が関わっていた当時、東京商工会議所が起業家セミナーを開催しており、毎年先着順で約300人の起業家志望者に参加していただき、とても活気のある雰囲気に包まれていた。そこでは、講師を務めている私のほうがいつも元気をもらっているような空間だった。
 コースは初級コースと上級コースの2つに分かれている。初級コースは講義中心で開催し、その終了後に上級コースへの参加希望者は、事業計画書を提出する。そしてその中から選抜された30人が、上級コースへ進むという形式である。
 上級コースでは、選抜されたこともあって参加者の事業計画は、かなりレベルの高い内容となっている。そこですべての参加者の事業を成功させるために、参加される場合には1つの条件を付けている。その条件とは、「自分の事業が成功することを考えてはならない」というものである。つまり、「他の参加者の事業を成功させる」ために参加していただくの だ。なぜならば、この条件こそが参加者すべての事業の成功確率を高めるからである。
 この形式は、ことのほか評判が良く、6回行われる上級コースも、毎回ほとんど欠席者は出ない。その理由は、参加しないと自分のために集まってくださる他の参加者に対して失礼になるからだ。つまり、欠席することによって、一番損をするのは自分自身なのである。
 「○○さん、先日〇〇さんの事業の話をしたところ、ぜひ提携したいと言っている社長がいるので紹介したいのですが、いつがいいですか?」
 「○○さん、インターネットで調べたところ、 結構○○さんの事業に関係のある情報が見つかりましたので、コピーをとって持ってきました」
 「○○さん、人手が欲しいと言っていましたけど、実は私の知人の息子さんが転職を希望しているんで会ってみませんか?」
 「○○さん、あるアイデアを思い付いたんですが、きっと○○さんの事業を成功させる きっかけになると思うので聞いていただきたいです」
 参加者は他の参加者のために何ができるかを考えて、できることをやる。事業に必要な 情報提供や、アイデアの提案、人脈紹介などでお互いに協力し合うのである。そうすることによって、結果として自分一人の経営資源をはるかに越えた30人の経営資源を集めることができるようになる。毎回開催時間の30分以上も前から参加者が集まり、お互いに情報交換をしている。開催される前に本当の起業家講座が開催されているといった状況だ。
 他人の経営資源を自分に集めることによって成功確率を飛躍的に高めることが可能になる。そしてそのためには、まず自分が他人の事業を成功させるために何ができるのかを考え、提供することである。情報交換とは、まずは自分から相手に情報を提供することによって始まるものだ。
 私は、経済団体や異業種交流会などで是非ともこの形式を取り入れてすべての参加者が成功する場にしていただきたいと思っている。講師がいなくともみんなが参加したくなる相互支援のセミナーが、理想的なセミナーの在り方であると思う。



【2】自分のやったことが自分に返ってくる
   ー他人は鏡

 「福島さん、うちの会社は新しいことを提案しても実現できるような風土がない会社なんですよ。まず上司がなかなか分かってくれないし、何とか分かってくれたとしても、今度は実行するときに誰も助けてくれないんですから」
 「それは困りましたね」
 「まあ、困っているというよりも、もうあきらめましたね」
 「ところで先日、まったく反対のことを上司が言っていましたよ。あなたが手伝ってくれないって」

 いろいろなところで次のような疑問をよく耳にする。

1.なぜ、部下は言うことを聞かないのか?
2.なぜ、自分がやろうとすることを周りが助けてくれないのか?
3.なぜ、うちの会社の職場は暗いのか?
4.なぜ、こんなにも自分だけ評価が低いのか?

 人間社会には1つの法則がある。それは「自分がやったことが自分に返ってくる」という法則である。他人が自分に対して何をしてくれるのかは、自分が他人に何をしてきたかの裏返しということだ。「他人は鏡」なのである。さて、この法則に基づいて先の疑問を解明してみると、それらの答えは以下のようになる。

1.部下が言うことを聞かないのは、自分が部下の言うことを聞いていないから。
2.周りが助けてくれないのは、周りがやろうとすることを自分が助けてこなかったから。
3.職場が暗いのは自分が暗いから。
4.自分の評価が低いのは、自分が価値を提供できていないから、または他人の評価を高める支援をしてこなかったから。

 また、ビジネス社会は経済システムがどのように変化したとしても、相互に関わり合い を持つ人の集団であることに変わりはない。それは企業と個人の関係でも、社会と企業の 関係でもまったく変わらない。この法則は人間社会である以上、あらゆる場面に当てはめることができるのである。
 顧客のために尽くすから、顧客から感謝されるのであり、社会に価値を提供するから、売上となって返ってくるのである。人間の法則が、ビジネスの基本原則なのである。



【3】相互に支援する組織
   ー組織活性化のポイント

 企業がその資源を最大限に活用して最も高い生産性を上げる、つまり組織を最大限に活 性化させるためには、次のような意識を社員全員で持つことである。
 「他人のため、他部署のために何ができるのか」
 もちろん自分の仕事は、自分の責任として全うしなければならない。しかし、それだけでは、組織は活性化しない。その状態は、まだ組織ではなくバラバラな状態である。組織の活性化のためには、自分のできることが他にあるかどうかを自分で探し出す姿勢が必要なのである。
 例えば、それは自分が営業部に所属していたとしても、経理部が決算で忙しければ手伝うことである。しかし、そういうと必ずこんな返事が返ってくる。「手伝いたくても、経理のことは何も分からなければ、手伝うことなんて無理じゃないですか」
 これは正しく言えば、無理なのではなく、「手伝いたくない」ということである。本当に 手伝いたければ、何ができるかを考えるはずであるし、それでも分からなければ相手にこう聞けばよい。
 「何かお手伝いできることはありませんか?」
 できることは、どんなにわずかなことでもかまわない。仮に、何も手伝うことがなくても、私たちは他人にできる最高の支援がある。それは「励ます」ことである。励ますことは自分がどのような状況に置かれていようが、いつでもできる最も価値のある支援なのである。大切なことは支援しようという気持ちを持つことだ。他部署の仕事は自分には関係ないとか、役職にこだわって他部署の仕事はやりたくないとかいう意識が組織活性化の唯一の障害なのである。
 組織とは個人の意識や行動を制約するものではない。組織とは企業を構成する1つの仕 組み、システムに過ぎない。それを機能させることができるかどうかは、そこで働く人々の意識の問題である。そして組織の意義とは、それぞれの持つ資源を活用することによって、最大限に社会的生産性を高めることである。つまり、他部署に対して、どれだけの支援をしているのかが、組織を活性化させる本当のポイントなのである。



【4】役割分担から役割認識へ
   ー仕事とはビジョンに近づくこと

 サッカーは、1チーム11人で戦うスポーツである。ところが試合中、チームの1人の選手が反則で退場となった場合、10人の選手のままで戦わなければならない時がある。 そんな時、タイムリミットが近づくと、ゴールキーパーが、ゴールを離れて他の選手と一緒になって相手に攻め入る場面を目にしたことがある人も多いだろう。これを不思議に思う人は、ゴールキーパーの役割をゴールを守ることだと考えているからである。ゴールキ ーパーの最も大切な役割は、ゴールを守ることではなく、チームを勝利に導くことである。仕事をしたかどうかの基準は、今日やるべきことをやったかどうかで判断するものではない。やるべきことを早く終わらせて帰ろうというのは、アルバイト的意識である。
 そうではなく、今日1日で会社全体がどれだけポリシーに基づいてビジョンに近づくことができたのかを問うのが、仕事をしたかどうかの判断基準である。
 とすれば、自分の仕事が終わったら、今日の仕事が終わったわけではない。会社全体として自分がやるべきことがあるかどうかを探し出さなければならない。それは組織が大きくなるほどできなくなるという人もいるが、それよりもやる気持ちがあるかないかという個人の意識の問題である。
 それはまず、自分がどこの部署にいようが、今できることを考えることである。商品開発部に対して、もっと売れる商品の提案ができないか、営業部に対して1つでも売れるように手伝えないか、宣伝部に対して会社の知名度を高める協力はできないか、社長に対して励ましの手紙を書いてはどうかなど、考えれば考えただけ、できることはいくらでも出てくるはずである。
 このように企業のビジョンの達成のために、自分が今ここで何をすべきかを考え、自発 的に行動することを役割認識という。これに対して、役割分担とは、当面の役割を分担しただけのことである。役割分担によって認識までが分担されてしまったとき、すでに組織は機能しなくなっている。
 組織の中で最も大切なことは、みんなで力を合わせてビジョンを達成しようという共創の意識、つまり役割認識の意識を持つことである。


第13回 「自立型社員を育成するメンター」
 ―管理から支援へ メンタリング・マネジメント―


【1】最強企業への前提ー人間社会の基本原則

 最高の状態で活性化している企業を最強企業と言う。人間の集団としての組織は、人間 社会の基本原則に基づいて考えなければその活性化はありえない。
 それではここで、今までの考察を下に、人間社会の基本原則について、以下にまとめてみる。

【1】世の中は絶えず変化するものである
 売れ続ける商品・サービスはない。それは、経済環境や顧客ニーズなどの外部環境が常に 変化しているからである。つまり、同じ仕事を繰り返すことは、既に衰退していることを示す。企業は変化する環境の中で自ら変化していかなければならない存在である。

【2】変化の予測は誰もできない
 明日の株価を予測することができないよう に、これからの未来がどのようになるかを確 実に予測することはできない。それよりも大切なことは、どのような未来を創造するか、である。また、事業を営む以上、常に不測の事態に見舞われる。どんな事態になろうともあきらめずに知恵を出し続けながら、前進していくしかない。

【3】物事を成功させる万能・絶対な手法はない
 こうすれば必ず事業がうまくいくといった万能・絶対なマーケティングやストラテジー などの手法はない。今日はうまくいった方法でも、明日もうまくいくとは限らない。ただし、何をやるにつけても100万通りの方法があり、それらは状況に合わせて使い分けて いくものである。そして失敗したことを糧にすれば、次のチャレンジの成功確率は常に過去最大となる。

【4】自立の姿勢が道を切り開く
 手法を効果のあるものにするためには、自立型の姿勢で取り組まなければならない。自 立型の姿勢とは「いかなる環境・条件の中においても、自らの能力と可能性を最大限に発揮して、道を切り開いていこうとする姿勢」である。自立とは自己依存、自己管理、自己責任、 自己評価、他者支援の5つの要素によって構成される考え方の体系であり、依存と対峙するものである。

【5】物事は考え方次第で正反対になる
 あらゆる出来事は受け止め方によってチャンスにもなれば、ピンチにもなる。問題が起 きたことが問題ではなく、問題をどう受け止めたのかが問題なのである。世の中で起きたことをプラス受信(客観的、好意的、機会的)することによって、自立型の姿勢で物事に取り組むことができるようになる。

【6】夢・目標がないと安楽の欲求に流される
 私たちは夢・目標がなければ、いつも目先の安楽を求め、環境に流されてしまう。困難や問題に出会うと逃げたり、拒否したりする。それらを乗り越えていくためには、夢・目標を持つことが不可欠である。そして夢を持つとは、いかなる困難をも乗り越えていくと 決意することだ。夢に向けて今できることからあきらめずに行動していくことが、自己実 現である。

【7】企業はビジョンの共感者集団
 企業の目的は利益を出すことではなく、社会に価値・感動を提供するというビジョンの 達成である。そして、そのビジョンに共感した人々の集団が企業である。だからこそ、そこで働く人々が自己の能力と可能性を最大限に発揮し続けることができるのである。

【8】評価は他人が決める
 売上や利益はどれだけの価値・感動を社会に提供してきたかの結果である。利益が出な いというのは価値・感動を提供していないからである。顧客の評価は、常に正しいと考えなければならない。同じように企業の中においても、自分の評価が低いのは自分の努力が足りないだけである。

【9】他人は自分と同じ「思い」になる
 あらゆる商品・サービスは自分の「思い」が形になったものである。できたものを見れば、その人の「思い」が分かってしまう。また、強い「思い」は他人の心に共鳴し、他人を自分と同じ行動に駆り立て、自分1人では、到底できないようなことも実現可能にする。

【10】自らが見本となつて行動する
 人が最も影響を受けるのは他人である。自分の行動によって他人を自発的に行動させる こともできる。権力に基づいたアメとムチによる強制では、言った通りに行動させることはできても、自発的に行動させることはできない。尊敬、共感、信頼によってしか他人の自発的行動を促すことはできない。

【11】支援し合うことによつて組織は活性化する
 組織とは社員全員で力を合わせて企業のビジョンを達成するための集団である。そして 組織の活性化とは組織の参加者1人ひとりが 自立型の姿勢で物事に取り組むことである。しかし、時には自立型の姿勢で考え行動できないこともある。すべての人々が常に自立型の姿勢を維持していくためには、困っている人や仕事が追い付かない部署があれば、自分からすぐにでも応援することである。他人のために、今何をすべきかを考え行動する役割認識が必要である。


 企業とは人間の集団以外の何ものでもない。その人間1人ひとりがどのような意識で集団を構成しているのかが問題なのである。
 以上のようなことを前提に考えていくと、 次第に理想の企業の在り方が見えてくる。



【2】企業と個人の理想の関係ー自立型社員による相互支援型組織

 自立型社員による相互支援型組織とは、これまでの考察を踏まえると、以下の3つのポ イントにまとめることができる。これらは最強企業の条件である。
 
■第1条件 理念共感型企業
 第1に、企業は共感集団であること。企業のビジョンに共感し、ポリシーに基づいて行動する集団であること。

■第2条件 自己責任型企業
 第2に、個人は自立型行動をとること。個々人が物事を前向きに受け止め、自己責任で自発的に改善・向上する姿勢を持つこと。

■第3条件 相互支援型企業
 第3に、お互いに支援し合うこと。他人や他部署を支援することができる組織であること。

 以下、これらについて詳しく述べてみたい。

・第1条件 理念共感型企業
 企業は社会に貢献するビジョンの達成のために絶対不変のポリシーに基づいて活動する存在である。そのビジョンに向けて、社長以下すべての社員が共に全力で努力する。実は、そのこと自体が社員にとっての「幸せ」なのである。目標に向けて全力で努力している状態を自己実現という。すなわち、社員にとっての最高の幸せがビジョンへの長い道のりを共に歩むことにある。
 そのためには、社員は企業のビジョンの共感者でなければならないし、また上司ほどビ ジョンの達成を本気で考え、その達成のために努力していなければならない。上司にビジョンがない限り、ビジョンは浸透しない。安楽の欲求を満たすために企業に入社してくる社員がいるとすれば、彼らは本気で能力を発揮しようとはしないだろう。また、企業も安楽ばかりを求める社員のために生産性は低下して崩壊することになる。
 入社動機として、どこの企業に将来性があって安定しているかと考えることは全く無意味である。どこの企業のビジョンに共感したのかが大切なのである。
売上や利益は企業がどれだけビジョンに近づき、社会に価値・感動を提供できたかの結 果に過ぎない。利益が出ないのは、社会に価値・感動を提供できていないからである。さらに売上や利益を目的にすると企業は、社会的な行動をとるようになる。ビジョンとポリシーはそれらに優先するものでなければならない。企業の存続も目的ではなく結果なのである。


・第2条件 自己責任型企業
 どれほどビジョンとポリシーが明確になっていようとも、企業の内外では、次々と問題が起こる。どれほど準備をしていたとしてもクレームが起こったり、売れていた商品が突然売れなくなったりする。けれども、それらをどのように乗り越えていくかが本当の問題なのである。それらをチャンスとして捉え、自らを改善・向上することによって乗り越えていくのが自立型行動である。
 いかなる問題も考え方次第でチャンスにもなれば、ピンチにもなる。そこにはチャンス として捉えたか、ピンチとして捉えたかという意識の違いがあるに過ぎない。問題が起きたことが問題なのではなく、問題をどう捉えたのかが問題なのだ。しかし私たちは、問題が起きたときに意図的にチャンスとして捉えられるように努力しなければ、ピンチとして捉えてしまう傾向がある。ピンチをチャンスとして捉えることができれば、喜んでその問題に取り組むことができるのだ。
 そうなれば、その原因は自分自身にあったと考えることもできる。会社や上司、部下、顧客などに原因があるのではなく、自分自身ができることなのに、物事に対処してこなかったことに本当の原因があると考えることができる。そして、自分がどうすれば良かったのか、これからどうすべきなのかも分かってくる。次々とアイデアが湧き出てきて、考えるだけで楽しくなる。そうなると、自然と自分から行動したくなる。そして、行動するほどあらゆる問題は解決に向かい、今まで以上に社会に大きな価値・感動を提供することができるようになる。さらに、その結果として企業は大きな利益を得ることができる。また個人にとっても自立型行動は、その人の努力を必要とする結果として、大きな充実感と報酬を得ることができる。
 自立型行動は、社会にとっても、企業にとっても、個人にとっても良いことばかりなのだ。いかなる問題が起きようとも、すべての社員が自己責任で考え、一人ひとりが自分を変革して解決を図る企業が最も強い企業である。誰もやりたがらないことをやる社員が多いほど企業は強く、誰でもできることしかやらない社員が多いほど企業は弱くなる。


・第3条件 相互支援型企業
組織とは、そこに集まった人々が相互に刺激し合い、協力し合って相乗効果を発揮するためのものである。相互支援型の組織では、企業の中の情報やノウハウなど、経営資源が共有化される。個人で見ると、その個人にとって必要な情報、ノウハウ、ネットワークなどが、周りの人々から提供されて、1人の力だけではどうにもならないような目標であっても達成することができるようになる。
個人と個人、部署と部署、上司と部下、本社と関連会社、これらはすべて相互に支援する対象でしかない。支援とは、相手に何かを求めるのではなく、自分が相手のために何ができるかを考えることである。
 個人と個人の関係で言えば、お互いが他人を支援する。そうなると、結果として周りの人々の支援の中で、自分1人では到底できなかったようなことが実現可能になる。また、組織の中で孤独を感じるというようなことも無くなり、精神的な安定を得ることもできる。
 部下は上司を支援し、上司は部下を支援する。それによって、相互の信頼関係ができると同時に不満やストレスもなくなり、職場は活気あるものになる。職場に活気がないのは相互に支援していないからである。
 さらに、他部署の支援は組織活性化の要である。他部署のために何ができるかを考え、どれほど些細な事でもできることを支援する。それによって、問題を抱えた部署であって も、社内の資源を最大限活用して問題を乗り越えていくことができるようになる。問題の 解決を一個人や一職場、一部署の範囲で解決しようとするほど、問題の解決は難しくなるのである。
 最も大切なことは、他人や他部署を支援しようという気持ちを持つことである。そして最大の支援は「励ます」ことだ。
 相互支援型組織の中では、出世は目的ではなく結果である。相互支援型組織の中では個 人の目的は、他人の出世のために、自己との闘いをすることである。



 自立型社員による相互支援型組織とは、企業のビジョンを達成するために、一人ひとり が、ポリシーに基づいて自発的に努力し、お互いに助け合う組織である。それは仕組みと制度の組織ではなく、言わば「意識の組織」である。この意識の組織ができてこそ、仕組と制度としての組織を最大限に機能させることができるのだ。


第14回 「自立相互支援型企業の仕組み(1)」
 ―自立と相互支援を促進する方法―


【1】自立型人材のための仕組みと制度の在り方ー方法は無限にあるが万能なものはない

 自立型人材がその能力と可能性を発揮しやすい仕組みや制度とは、個々人の自発性と相互支援の意識を重視し、その上での効率を考えた方法である。つまり、自分の仕事と社会との繋がり、ビジョン達成に向けて、自分の仕事の意義がいつでもはっきりと分かるようなやり方である。
 何のためにコピーをとるのか、何のために丁寧な言葉遣いをするのか、何のために電話 をするのか、何のために商品を開発するのか、何のために売上を上げるのか、これらすべてと企業のビジョン達成との関係をはっきりと認識できるような仕組みと制度を創る必要がある。
 このような自立型人材がその能力と可能性をより発揮できるような方法は無限にあり、考えればいくらでも効果的なやり方を発案することができるだろう。ただし、それらとて万能なものはない。発揮しやすくなるだけで、発揮することを保証できるものは無いのである。
 このことを前提に、以下に自立と相互支援を促進する方法について具体的に考察してみよう。



【A】 自己の社会的生産性と存在価値が常に認識できる方法ー仕事の意義が常に分かる

 まず第1に取り上げたいのは、自己の社会的生産性と存在価値を認識できるような仕組みと制度である。つまり、自分が今やっている仕事の先にビジョンの達成があることが認識できるようにすることである。
 私たちは無意識でいると、目先の仕事を終わらせることだけを目的化して、本来の目的、 仕事の意義を忘れてしまう傾向がある。
 このことを防ぐための基本は、職場で常に仕事の意義をお互いに確認し合うことだ。
 「きれいにコピーを取ってくれたおかげで、お客様から見やすいと喜んでいただけたよ、ありがとう」
 「この仕事が終わると、また1歩夢に近づくね」
 このように、常にお互いが何のために働いているのかを言葉として相手に伝えることで、 自分自身も再確認することができる。また、毎日会社に届く顧客からの感謝の手紙や電話などを、すべて社内メールに掲載して、全社員が確認できるようにしておいてもいい。自分たちの仕事が社会にどのように関わって いるのかを感じ取ることができるからだ。
 さらに、業務日報ではなく、他人の仕事で感動したことを毎日提出する「感動日報」という方法がある。これを全社員が相互に行うことによって、自分の存在価値を他人から教えてもらうことができる。
 「田村さんが私のミスで起きた問題を自分の責任として、解決しようとしてくださっていることにとても感銘を受けました」
 「鈴木さんが昨日お客様のために夜遅くまで、1人で頑張っている姿を見かけて感動しました」
 「田中さんが朝元気に挨拶してくださったので、自分も元気に頑張らなくちゃ!と思いました」
 これらのように、お互いの存在価値を確認し合うのが「感動日報」である。いずれにせよ「自分がいないと困る人がいる」「自分がいることによって人に喜んでもらうことができる」という感覚を常に社員全員で共有することである。
 さらにまた、個人の名前が表に出るようなアイデアも面白い。個人の表彰制度なども、そのための1つの方法であるが、もう1歩踏み込んで、新しい技術や商品には、その開発者の氏名をつけることで、個人の業績・存在価値を明らかにする。
 商品そのものではないにしても、社内の開発モードとして、「鈴木式問題解決法」や「田中発想第28号」などといったものであっても良いだろう。もちろん、開発者が自分でその名称を考えることができるようにしておく。自分たちのやっている仕事の意義をそのまま名称にすることも、自分の存在価値を認識する1つの方法である。例えば、総務管理部を「社員支援部」や「創夢部」、営業部を「顧客価値提供部」、開発部を「未来感動創造部」、工事部を「働く姿で感動させる部」などと名称を変えるのである。
 これらは自分の存在価値を確認し、個人が組織の歯車の中に組み込まれているという錯 覚を防ぐために有効な方法である。



【B】容易に変化できる仕組みと制度ー常に生産性を高める

 環境変化に対応した素早い意思決定を可能にするために組織をプロジェクト型、自立分散型に転換する方法がある。このような組織のフラット化は、出世を目的にさせないようにすることも大きな目的の1つである。出世しようにも部課長などの役職をなくしてしまえばどうしようもないからだ。そうではなく、個人個人の生産性が問われるシステムなのである。
 しかし、このような仕組み化で注意しなければならないことは、何のために働くのかということをしっかりと共有化しておくことである。このビジョンの共有化ができていない場合には、組織をフラット化することによって、出世などのこれまでの目的をなくした社員は、そこにいる存在意味(アイデンティティ)を見失ってしまう。組織のフラット化は意識の共有化ができていなければ、全くの逆効果になることがある。
 また、すべての部署やプロジェクトに期限を付けるという方法もある。配属に期限を付けるのではなく、仕事に期限を付けるのである。いつまでにやるのか、どこまでやるのかを予め決めておくのだ。なぜならば、同じことを繰り返すことで、仕事をした気にならないようにするためである。仕事とは、新たな価値、感動を社会に提供し続けることなのだから。
 さらに、社内と社外の境界線を無くすことによって、急速に変化する環境に対応できるようにすることもできる。すべての部署の存在価値を半年ごとに見直して、その部署の生産性が低ければ仕事を外注する。例えば、企画部の仕事のレベルと社外の企画会社の仕事のレベルを比較して、社外のレベルの方が高ければ、社内の企画関係はすべて外注する。その場合は、毎年社外コンペで外注先を決める。それは、今外注している所よりもレベルの高い外注先が現れる可能性があるからである。
 このような部署や仕事の外注化は、企業間の新しい共存関係をつくる。ベンチャー企業が、発案した商品を大企業が商品化して販売したり、自社の生産性の低い部門や社内で対応できない仕事を、同業他社に外注したりという新しい関係ができるだろう。新しくできた航空会社が、飛行機の機体の整備を、既存の大手航空会社に外注しているのも同じような考え方である。
 生産性という観点で見れば、社内と社外の区別はほとんど意味がない。例え社員であったとしても、業界の中でトップレベルの技術、ノウハウが無ければ、仕事を託する価値はないと言わざるを得ない。なぜならその場合、仕事は外注化した方が生産性が高くなるか らである。どこの会社に所属しているかよりも、どのレベルの社会的生産性があるのかが 問題なのである。



【C】個人の自発性を重視した制度づくりのヒントーすべてを自分で決める

 自分で役割を見出すことができるような仕組みと制度である。つまり、不満があれば自分で解決できるような環境を創ることである。まず、配属に関しては会社がほとんど一方 的に社員の配属を決めているのが現状である。そこで、社員が自分の意思と努力で自分の配属を決めることができるようにする。
 具体的な例としては、仕事は原則として希望制で決める。そのために、毎年または四半期毎に「配属選抜試験」を行う。多くの企業で役職者になるための試験はあるのだから、配属のための試験があってもおかしくはないはずだ。また、その試験は各部署で働いている人々に対しても適時行うべきである。なぜなら、今働いている人々も常に自分の能力を高めていく必要があるからだ。
 例えば、経営企画部へ配属を希望する場合は、経営企画に関する社内試験に合格することを条件にする。もちろんこの試験には、既に経営企画部で働いている人々も同時に同じ条件で受けなければならない。その上位合格者が、次期の経営企画部に配属されるという制度である。もし、第1希望に落ちた場合には、第2、第3希望の職場に挑戦する。もちろん、本人があきらめない限り、毎年何度でも第1希望の職場に挑戦できるものとする。
 さらに、すべてを自分で決めるという方法もある。これは、企業を個人事業主の集合体として考えた制度である。すべてのことを個人の責任で進めていくのだ。
 もし、営業部を希望するならば、自分で営業部を設置して、自らが責任者となり部員を募る。部員が集まらなければ、もちろん1人でやらなければならない。また他の人が始めた営業部に所属してもよい。このように自由に部署ができるので複数の営業部ができた場合は、第1営業部、第2営業部といったように2つの営業部が共存することになる。部員の報酬は、あらかじめ売上に対する歩合で設定しておく。全く売上が上がらなければ、報酬があるどころか、会社に対して事務所使用料などの社内的負債を負うことになる。また、経理部や総務部などの間接部門を設置する場合は、社内の他部署を顧客と見なして仕事を 受注して売上とする。もちろんその価値がなければ、仕事は受注できないことになる。
 これらの自発性を重視する制度は、強制するものではなく、社員一人ひとりとの合意形成を下に、成果を問うものではなく、自社に合うルールを策定し、より良いやり方を見つけ出すためのヒントとして欲しい。


【D】他人や他部署を支援する取り組みー社内のすべての資源を相互活用する

 他人や他部署を支援するためには、まず情報が共有化されていることが前提条件になる。 情報が共有化されていなければ、誰に何を支援して良いのか分からなくなるからだ。そうなると、同じフロアにある他部署ですら、何も支援することができなくなり、相互に「隣は何をする人ぞ」という関係ができてしまう。そして情報の共有化とは、情報が提供されるのを待つのではなく、まずは自分から相手に対して情報を提供することである。
 また、経営幹部が社員に対して、隠し事が無いほど、つまり欠点や問題点を知らせるほど、経営陣と社員との信頼関係は強くなる。信頼関係を壊さないためにと言って、情報を隠すことは全くの逆効果である。ここでは経営陣が自らの自己利益を追求する姿勢が唯一 の障害となる。
 そのために、役員会議を社員に公開するのも1つの方法である。毎回選ばれたメンバー が役員会を傍聴できたり、意見を述べたりできるようにする。または、社内メールやイントラでそのすべての内容を公開してもいいだろう。
 そして次に、各部門で起きている問題点を、毎週社内情報紙を作成して回覧する。これは、できれば毎日のほうがいい。その中では、問題を抱えて成果を上げられない人や、部内の状況をできる限り詳しく掲載する。それに対して、みんなでどうしたら良いか、どんな支援ができるかを翌週の情報誌に掲載し、メールやスマホなどを利用して直接情報提供する。
 また、社内イントラを活用して「困っていること」「支援できること」を、お互いに情報交換することもできる。例えば、売上減少に困っている営業部に対して、その他の部署に所属するすべての人がアイデアを提供したり、見込み顧客を営業部に紹介したりする。何もできることがなければ、励ましのメッセージを送る。部下との人間関係に悩んでいる人がいれば、それこそみんなで励ます。
 さらに、個人の得意なこと「得意技ボード(仮称)」を、項目別に検索できるようなシステムを情報システム部門とタッグを組んで設置する。具体的には、自分ができることを趣味や経験などを問わず自由に登録しておく。そうすることによって、ドイツから初めてのお客様が来るといった状況の時、ドイツ語が話せる人を「得意技ボード」を使って検索し、社内から選出して見つけ出すことができるようになる。
 これらと同じことを関連会社や下請け会社、さらには社外の人脈の中でも利用することができれば、無限の経営資源を活用して、事業を進めることができるようになるだろう。 面白いことに相互支援関係は、支援された人が、今度は支援する側に立ち、自然発生的に広まっていくものである。相互支援の輪は、始めは一人が誰かを支援するところから、瞬く間に会社内に広まっていくだろう。


第15回 「自立相互支援型企業の仕組み(2)」
 ―自立と相互支援を促進する方法―


【1】意識の共有化ー言葉を共有化して、共感者集団を創る

 意識の共有化とは、ビジョンの達成のために自立の姿勢を共有することである。そのためにはまず、言葉を共有化することが必要となる。
 同じ言葉であったとしても、そもそもその意味は、人によって多少なりとも違っている ものである。そのために同じ行動を取るはずのものが、人によって全く違う行動を取ってしまうこともある。
 こんな珍事が起きることがある。
 ある上司が、研修で自己責任が大切だと聞いて、その通りだと思い、自分の職場に帰ってから、「みんな自己責任で考えるようにしなさい!」と言った。
 この上司は、部下に自己責任を強制することが、他者責任であることに気付かず、全く正反対の行動を取ってしまったのである。自己責任で考えるならば、「何か問題が起こっても、それはすべて私の責任だ」と言うべきだったのだ。
 また、「お客様のためになることを考えよう!」というスローガンを掲げたところ、クレームを言ってきたお客様に対して、ある営業マンは「それはあなたの使い方が悪いからです。もっと説明書をよく読んでから使うようにしないと、何を買っても壊してしまいますよ!」と、たしなめてしまった。
 その営業マンに言わせれば、お客様が自分で問題を解決できるようにさせなければ、本当にお客様自身のためにならないのではないか、ということだった。このように、“お客様のためになること”が、人によって様々に解釈されてしまうのである。
 1つの言葉であっても、その意味については、人によって多少違った理解をしているの が普通である。ところが、全く違った理解をしていると、1人ひとりがばらばらの行動を取ったり、コミュニケーションにとても多くの時間と労力が掛かったりすることもある。 よく議論をしていて、2人の人間が同じ内容のことを、違う表現で主張し合っていることがあるのも、こうした言葉の意味の違いが原因になっている。
 このような問題を解決するためには、予め言葉の意味を1つひとつ正確に共有化しておかなければならない。具体的な事例を掲げて分かりやすく説明したり、共有化すべき言葉の意味を、図や絵などを使って誰にでも分かるように解説したマニュアルを作成すること も1つの方法である。「ここまでやらなくても分かっているのでは?」というくらい詳細に1つひとつの言葉を解説、マニュアル化してちょうど良いくらいになるだろう。そしてOJTの中では、1つひとつの行動を言葉の意味に基づいて、日々指導することが必要である。
 言葉の共有化の問題は、多国籍の人材が多い海外の企業では、大きなテーマとして、その解決のための努力がなされてきたが、単一民族である我が国においては、言葉は共有化されているはずだという前提で事が進んでしまうために、これまではあまり重視されてこなかった。しかし、企業の中で共に活動するためには、もう一度、仕事の現場で使われる言葉の意味を明確化して共有化する必要がある。
 なお、「新経営用語辞典(アントレHPにて一部紹介、小冊子販売中)」で、経営上使われる言葉の意味について、私なりに解説しているので、参考にしていただければ幸いである。


【2】コンセンサス研修のススメー唯一の目的は社員の意欲を高めること

 コンセンサス研修とは、分かりやすく言えば、やる気にさせる、つまり意欲を高めるための研修である。それはビジョンの共有化とポリシーの確認、自分自身の自立型姿勢を確認することを目的とした研修である。
 個人の能力を高めるスキルアップ研修は、できる限り個人の自由意思に任せて、企業はそのための環境的支援をするだけにした方が良い。つまり、自発性をすべての前提として 自由選択式の様々な講座や通信教育を用意し、大学などで学びたい人には、金銭的、時間的な支援をすることである。
 企業の研修の目的として、最も重要なことは、個人の自発性を喚起することである。人は、意欲が高くなるほど、自発的に勉強するものであり、反対に自発性の伴わない教育はどれほど強制的にやったとしても、まったく効果は無いからだ。
 コンセンサス研修の第1ポイントは、ビジョンとポリシーを再確認することである。自分たちが目指すもの、“何のために働くのか”を、1人ひとりの心に届けるのである。実際に社内で起きた出来事や事例を、ケース・スタディとして、ビジョンとポリシーに基づいて考え行動することを学ぶのである。具体的な状況の中で、何をどうすることがビジョンに近づくことなのか、ポリシーに基づいた行動なのかを繰り返し共有する。このように自分の中にしっかりとした行動基準をつくることで、私たちは自発的に行動することができるようにもなる。そして、第2のポイントは、自分が「まだまだ」であることに気付くことである。
 私たちは意識をしていないと、すぐに安楽の欲求に流されて、「分かったつもり、やっているつもり」になってしまう。これは、なかなか自分1人で気付くことができない。だからこそ「つもり」なのである。このように安楽に流される意識を、入社動機から常に初心を忘れずに振り返るためにコンセンサス研修が必要なのである。すべての研修についても言えることであるが、コンセンサス研修を進めるに当たっても、OJTと連携させることが必要である。OJTでは、1つひとつの発言と行動について、上司がメンターとして的確なアドバイスをする。もちろん上司が自立型姿勢を発揮し、見本となって行動していることが大前提である。そして、最大の研修の場は、もちろん職場である。職場の上司が、部下を信頼し、見本となって行動することが、最高の指導と育成になる。人は他人の言葉よりも、行動によって最も多くのことに気付くことができるからだ。
 教育とは、教えるものではなく、見せるものである。


【3】正しい評価方法とはー他に貢献できる人ほど高い評価を得る

 そもそも人間社会における評価とは、常に他人がするものである。企業の年間売上は、顧客が決めるものであるし、個人の報酬も、会社や周りの人々が決めるものである。企業はどれだけの価値・感動を社会に提供できるかによって、結果として売上が決まり、個人もどれだけの社会的生産性を発揮するのかによって、結果として報酬が決まるだけである。
 人間社会の中では、どれだけ自分で自分を高く評価したとしても意味はない。それは、ただの自己満足に過ぎないからだ。そうではなく、社会や他人が、どう評価するのかが本当に意味のある正しい評価である。
 ここでは特に個人の報酬に対する評価について考えてみよう。報酬は、自分で決めることはできないものである。できることは、どのような目標を持ち、どのような報酬制度の中で、どれだけの社会的生産性を発揮するのかということである。
 自分は全力で努力するだけであり、その結果は、決められた評価制度に基づいて評価される。評価基準は、時給で計算するのか、年間契約で決めるのか、売上に応じて決めるのか、上司に一任するのか等、無限にあり、状況に応じて制度設計を決めておけば良い。
 最近言われ始めた「自分で自分の報酬を決める」制度というのも、会社や上司が決める制度ではなく、売上に対して決まる、つまり、顧客や社会が決める制度の中で、自分の目標を決めるという意味である。言わば、歩合制の報酬制度である。それは、「自分で決める」とは言うものの、あくまで結果であり、前もって確約・確定することはできない。年収500万円を自分で決めたとしても、それに対応するだけの売上を上げることができなければ、500万円を得ることはできないのである。
 また、企業の中で最も問題になるのが、決められた評価基準に同意しないまま働くことである。よく企業の中で自分の評価が実際よりも低いと言う人を見かけるが、後になって評価が低いことに不満を言っても始まらない。だからこそ評価基準については、予め同意したものでなければならない。それがどのような基準であれ、同意したものが最も正しい基準ということになる。そして、同意した以上、自分への評価に対して不満を言うのは、全くの本末転倒である。
 仮に、上司が評価する基準の下では、上司の評価は間違っていたとしても正しいと考えなければならない。もし、評価について問題があると考えるならば、既存の評価基準を守った上で、評価基準を変える提案をすることがベストである。
 そもそも他人の評価が正しいかどうかという議論は意味がない。なぜならば、評価が間違っているという人がいるのは、自分の評価が低い人が不満を言っているに過ぎないからだ。お金をかけて睡眠時間も削って創った商品が売れないのは、買わない顧客が間違っている、と言っているのと同じことである。それでは、買わない顧客に無理やり商品を売りつけようとしているのと変わらない。そうではなく、自分の努力が足りないことが顧客の評価が低い本当の真因だと考えることもできるのだ。



【4】アシスト評価についてー他人の評価を高められる人を高く評価する

 自立と相互支援型組織を創る上で、前向きに検討しておきたいのがアシスト評価である。アシスト評価とは、どれだけ他人の生産性を高める支援をしたかを評価するものである。
 サッカーでは、ゴールを決めた選手以上に、その選手にパスを繋いだ選手の評価がとて も高い。このように、特にチームプレーのスポーツ世界では、得点の機会を創った選手の評価はとても高いものになっている。
 しかし、ビジネス社会では、個人の評価は結果だけが基準となっていることが多いために、自分1人が結果を出すために行動する傾向が強く、他人が結果を出すための支援が十分にできているとは言えない。これでは、サッカーに例えれば、自分がボールを持ったら誰にもパスしようとせずに、そのまま1人でゴールに走り込もうとしているのと同じである。これでは、チームプレーは全くできない。
 これと同じように、間接的であったとしても、価値・感動の提供に貢献した人々の評価を高くしよう、というのがアシスト評価である。直接的に結果を出すことができなくても、他人が結果を出すために支援ができる、サポートができる人々は、企業にとって非常に重要な人々だ。
 例として、管理者である上司に対する評価は、まさにこのアシスト評価であるべきだ。部下の実績を自分の実績とするような上司が現れるのは、支援することを評価するアシス ト評価のようなシステムが無いためである。このようなことを防ぐためにも、部下の評価 を高められる上司ほど評価が高くなるようにすることが必要だ。
 さらに、他部署の支援をしたりすることを高く評価することも必要である。ビジネスとは、自分の仕事を終わらせることが目的ではなく、ビジョンにどれだけ近づくことができるかが目的であるからだ。そのためには、他人や他部署の業績が自分の評価として返ってくるようにすれば良い。
 アシスト評価は、仕事の生産性に直接関わることばかりではなく、精神的な支援も評価することが大切である。励まされてやる気になった結果、成果が出たというような時も、励ました人がきちんと評価されるシステムにする。そのためには、前述で紹介した「感動日報」や「得意技ボード」などを用いて連携させると良いだろう。
 このような他人を出世させられる人の評価が最も高くなるようなシステムが、自立と相互支援型組織には必要である。



【5】プロセス評価(チャレンジ評価)についてー失敗するほど評価が高くなる

 さらにまた、失敗するほど評価が高くなるプロセス評価(チャレンジ評価)は、社員スタッフのモチベーションを高く維持できる1つの有効な仕組みと制度である。どんなに失敗をしたとしても、あきらめずにチャレンジするほど成功したときの評価が高くなるようにするのである。普段からどれだけのチャレンジをしているかが重要で、1回で成功することよりも、トライ&エラー&トライ&・・・、つまり、失敗しながらもチャレンジし、人として成長をしながら成功する方が、評価が高くなっていくという評価方法である。失敗するほど、やる気になってしまうのだ。
 そもそも人はなぜチャレンジしなくなるのだろうか。それは、チャレンジして1度でも失敗すれば、その後は2度と再起できなくなり、人生そのものが終わってしまう仕組みや評価制度の中にいると思い込んでいるからである。こうなると、やれば確実に成功することでなければやろうとしなくなってしまう。このような組織風土が形成されている中では、今までと同じことばかりを繰り返し、新たなチャレンジをしなくなってしまうのだ。
 評価方法については、1人ひとりの行動プロセスを、周りの人々が見て評価するのが基本である。ただ、評価をする際にどんな難易度のチャレンジを、どこまでやったのかが分からなければ評価することは難しい。そこで、チャレンジの対象となる仕事内容に難易度をつけておいて、その難易度に応じた点数を付け、失敗する度にその点数が高くなっていくようにする、という方法もある。いずれにせよ評価方法は、関わる人々全員の合意で決めることである。
 このような制度運用では、わざと失敗する人が出るのではないかという心配は無用である。つまり、1つひとつのチャレンジを成功させたほうが、トータルでの評価は圧倒的に高くなるわけで、わざと失敗する人のメリットは無いからである。
 1つの失敗が、そのまま人生の失敗になるような組織風土で人材は育たない。失敗がチャンスになるような育成風土が必要である。失敗をチャンスにするための評価システムがプロセス評価である。


第16回 「TS(トータル・サティスファクション)」
 ―理想の企業活動―


【1】CSからTSへーすべてに価値・感動を提供する企業へ

 企業活動が、社員とその家族、顧客、及びその周囲の人々、さらに地域社会、日本、地球など、すべてに対して価値・感動を与えるものでなければならないという考え方を、TS(トータル・サティスファクション)という。企業が成長することによって、何らかの不利益を被る人が、現在のみならず将来的にもあってはならないという考え方である。
 CS(カスタマーズ・サティスファクション/顧客満足)が、目の前にいる顧客に感動を与えることを目的としているのに対して、TSはすべての人々を将来にわたって幸せにすることを目的にした考え方である。CSによって、顧客に価値を提供することができても、それによって不利益を被る人がいたり、地球環境に悪影響を与えてしまうことがある。一部の大口顧客を優遇するために、それ以外の小口の顧客に不利益を与えたり、生活を便利にするモノをつくるために、工場から環境に有害な物質をたれ流したりする。これらのように、いくらCSだからと言っても、一部の顧客満足のために、その周りの人々や社会に迷惑をかけることがあるというのは好ましいことではない。
 これらのような問題をトータルに解決するための考え方がTSである。TSは、事業の存在価値をあらゆる視点から検討して、すべての領域、すべての対象者にとって最善の事業を目指そうとするものである。



【2】すべての人々を幸せにする工務店ー家を建てることで地域に貢献する

 工務店の仕事は、特定の顧客のために、その周りの住民に騒音で迷惑を掛けることがよくある。それでもこれまでは、家を建てるんだから多少の迷惑は仕方がない、とほとんど対処されてこなかった。しかし、TSによって、これからの工務店は家を建てることによって、近隣の人々まで価値・感動を提供することも可能になる。
 これまでの仕事の進め方では、家を建てるためには、その建築期間中は近隣の住民に様々な迷惑をかけざるを得なかった。例えば、工事の関係者が車で来て建築現場の近隣に違法駐車をする。これは地元の人にとっては迷惑である。つまり、駐車違反という迷惑をかけるから迷惑になるのである。そこで、近くに駐車場を契約して、工事期間中はそこに駐車して、現場監督が送り迎えをすれば問題を解消することができる。
 また、様々な工事関係者が入れ替わり、町にやってくる。見ず知らずの人たちが町にあふれているのは、何となく不安である。しかし、それもその人たちのことを知らないから不安になるのであって、情報を開示して教えてしまえば不安は無くなるだろう。例えば、工事現場の前に看板を立てて、プロフィール写真を付けて、その日に町にやってくる人を紹介すれば良い。
 さらに家が建つということは、近所の人々にとっては、家づくりの勉強をする良い機会になる。例えば、休日などを利用して、近隣の方々向けに無料の勉強会を開催する。つまり、家の土台ができたときに、近所に次のようなチラシを配る。
 「地震に強い土台の無料勉強会―ご自宅の耐震について学ぼう!」
 また、家の枠組みができた時には、次のようなチラシを配る。
 「誰でも簡単に分かる手抜き工事の見抜き方勉強会―手抜き工事を無くそう!」
 さらにまた、工事現場では廃材が出てくるため、それらを活用して次のような企画もできる。
 「お父さんと子供のためのガーデニンググッズ作成1日教室―プロの大工がプロの技を教えます!」
このように、1軒の家が建つことによって、近所の家族の絆やコミュニケーションのきっかけに繋げることもできるのである。
 そして、こんな企画までできるかもしれない。
 「あなたも家づくりに参加しませんか」
 これは、参加者が殺到するようであれば、有料で開催して、その利益はまた地元のために還元することも良いだろう。そして、最後には、家づくりを通して、地元の人が子供たちと一緒にコミュニティ活動として建築することも有り得る。東南アジアのある地域では、その村の中心に造る寺院を、その村の人々が全員で協力して創るという。家づくりは仲間づくりとなり、その地域の最も楽しいお祭りになっても良いのではないだろうか。



【3】TSの2大ポイントー問題解決と価値創造

 TSのポイントは大きく2つある。
 まず、第1のポイントは、起こり得る問題をすべて解消することである。問題が全く起こらない事業であることがベストであるが、実際のビジネスで問題やクレームがないビジ ネスなどはない。問題が起こることが問題なのではなく、問題に対してどのような姿勢で 臨むのかが本当の問題なのである。
 また、問題は大きく2つに分けて考えることができる。1つは、予め想定される問題である。これは考えれば考えるほどたくさん見つかるだろう。もう1つは、不測の事態である。つまり、予め想定できなかった問題である。どんなに万全を期しても、必ずと言っていいほど予測し得なかった問題が起こるものである。
 どちらの問題に対しても全力を尽くして解決することである。解決できるかできないか ではなく、解決するまで取り組み続ける姿勢を持たなければならない。無限の知恵を出し 続ければ、解決できない問題はない。TSに「不可能」とか「あきらめる」という概念はなく、その実現のためには、すべての問題を乗り越えていくことができると考える必要がある。
 そして第2のポイントは、より高い価値・大きな感動を提供することである。
今日売れている商品が明日も売れるとは限らないし、今成長している企業が来年も成長するとは限らない。今日の価値は明日の価値とは限らず、そして明日の価値は今日創るものである。
 ここで言う価値とは、間接的、精神的な価値をも含めて幅広く考えていくことが大切である。家を建てることを地域のコミュニティ活動に繋げたり、価値の在り方を多面的、複合的に考えていくことで、今までにない新たな価値を無限に生み出していくことができるようになるだろう。まさに一石二鳥、三鳥となるような知恵を出していくことである。
 価値の追求においても、ここまでやれば十分というレベルは無い。顧客や社会は常により高い価値、大きな感動を求めてくるものである。つまり、TSとは、自ら考え行動し続けるという姿勢なのである。



【4】TSの4つのテーマー社員の家族から未来の人類まで

 では、TSの対象について以下にまとめてみよう。TSの対象は基本的に他のものすべてであるが、それらは以下の4つに分けて考えることができる。

●第1 社員およびその家族
●第2 顧客および準顧客(顧客の周りの人々)
●第3 地域社会(企業活動の基盤たる)
●第4 日本、世界、地球、人類

 TSは、社員・スタッフおよびその家族が第1の対象者である。この第1の対象者が「幸せ」でなければ、第2、第3、第4の対象者に価値・感動を提供することはできないと考える。もちろん、ここで言う社員・スタッフの「幸せ」とは、安楽に生きることではなく、充実した日々を送ることである。
 企業が社会に貢献する明確なビジョンとポリシーを持ち、社員・スタッフ1人ひとりは企業のビジョンの共感者として、その達成に向けて働くことで、日々充実感を味わうことができるようになる。そして、自分が努力をしたことで他人を感動させ、感謝されることで、自分自身が最も大きな感動を得ることができる。誰にも迷惑を掛けることがなく、すべての人々から感謝されることは、仕事に対するモチベーションを極限にまで高めるだろう。それは、1人ひとりが自立型の姿勢で物事に取り組むことであり、相互支援型の組織である。
 さらに、企業が社会に貢献するほど、その存在価値は高くなり、社員・スタッフだけではなく、その家族までもその企業で働いていることを誇りに思うことができるようになる。
 第2の対象者は顧客および準顧客である。顧客に対するTSとは、顧客を感動させ続ける ことである。そして感動させ続けるためには、常に顧客の想像を超えた商品・サービスを提供することが必要となり、常に改善向上していくことが求められる。
 そして、ここで特に大切なことは準顧客、つまり顧客の周りの人々に対するTSである。
 目の前にいる顧客以上に、その顧客の周りの人々にも価値と感動を提供することである。
 例えば、アパート建築を事業とする工務店では、これまで顧客は土地を有効活用したいと思っている土地所有者と思われてきた。だからこそ工務店は、土地所有者が喜ぶような 建築物の提案をした。しかし、本当に所有者が喜ぶのは、アパートであればいつでも入居者がいっぱい、つまり入居率が100%になることである。であれば、本当に喜んでいただくべきはアパートの入居者であり、アパートの入居者が喜べば、入居率は限りなく100%に近づいて、土地所有者も喜ぶことになる。このように、アパート建築では、準顧客である入居者に、いかに喜んでもらえるのかが重要となる。
 顧客の周りにいる準顧客に、いかに価値・感動を提供していくかは、とても大切なテーマである。直接の顧客以上にその周りの間接的な人々に、価値・感動を提供していく努力を惜しんではならない。
 第3は企業の活動基盤たる地域社会に対するTSである。企業活動が直接的であれ、間接的であれ、地域社会に貢献するものでなければならない。そのためにも、企業活動の目的であるビジョンと、企業活動の基本行動原則であるポリシーを明確にして企業活動を行うことが求められる。
 さらに積極的に企業の利益の一部を地域社会に還元し、企業活動の1つとして、地域のボランティア活動を社員・スタッフで行うと言ったことも検討すべきである。安全、平和などに企業活動が貢献しても良いだろう。企業活動の拠点である地域から尊敬されるような会社であってこそ、一流本物の企業である。
 第4に、日本、世界、地球、人類にとって、企業活動が価値あるものでなければならない。消費する社会から、活用、循環する社会へと企業の社会への関わり方は、大きく変化してきている。地球環境に僅かでも有害なものを排出する可能性のあるものは極力生産しないようにするべきである。やむを得ず生産する場合には、その回収を100%できるシステムを作り上げてから生産しなければならない。つまり、ゴミにするのではなく資源として再利用する。
 また、時間とともに価値を増すモノをつくる。企業活動が単に生活を維持するためのも のではなく、人類の文化を継承、創造していくことができれば素晴らしいことである。
 この第4の対象は、人類がこれから最も知恵を出していかなければならない重要な対象である。



TSとは、一言でいえば、他のすべての存在に対して貢献することである。すべての人々を幸せにすることができれば、企業社会は健全に発展していくはずであり、そうではなく自 社の利益だけを追求するのであるならば、企業社会は崩壊していかざるを得ないからだ。


おわりに 「夢しか実現しない」
 ―組織の変革は自分自身の意識改革である―


【1】すべては1人に始まるー自分が変わると世界が変わる

 「とは言っても、自分だけやる気になって頑張った所で、うちの会社には1万人もの社員がいるんだから、みんながやる気にならなければ何も変わらないじゃないですか」
 「では、どうすればみんながやる気になるんでしょうか?」
 「うちの会社の場合は、まずトップの意識を変えることだろうね。トップが変わらなければ何も変わらないよ」
 「実は先日、社長にお会いしたんです。こうおっしゃっていました。社員が1万人いても、100万人いても、まずは自分から始めなければ何も始まらない。この事は、自分が社長ではなく新入社員であっても同じことだね、と」
 「そうですか・・・。社長も少しはわかってきたのかな?」
 「わかっていないのは一体誰なんでしょうか?」


 理想の企業を創るためには、まずは自分から決意をして、見本となって行動することである。
 自分の意識を変えると自分の行動が変わり、行動が変わると成果が変わる。さらに他人に伝播して、他人の意識と行動を変えることになる。その結果、組織は変わり、世界も変わる。他人が変わらなければどうしようもないと言う人が多い。しかし、他人の意識を変えるためには、まず自分を変えることである。まずは、自分がビジョンを明確に持って見本となって行動することだ。
 1万人の企業であったとしても、1億人の国家であったとしても、変革はすべて1人か ら始まる。つまり組織の変革とは自分を変革することに他ならないのである。
 "誰もやらないからこそ、まずは私がやる!”
 "みんながやるかどうかは、まず私がどれほど見本になれるかどうかにかかっている”
 すべては自分が決めているのだ。未来はできるかできないかではなく、自分がどうした いのかで決まるものなのだから。



【2】すべては僅かな差であるー僅かな意識の差が大きな数字の差になる

 ゴルフをやったことのある人ならば分かっていただけると思うが、スコアは意識を少し 変えるだけで10以上も違ってしまうことがある。そしてこの差は、プロゴルフの世界で は賞金に換算すると10倍以上の差になる。プロゴルフの選手は、4日間で300回近く球を打ち、トップと2位とでは1打の差であっても、その賞金額は2位の選手は、1位の選手の半分以下である。国際的な大きな試合ともなれば、僅か1打で1000万円以上も違うことだってある。
 実はどのような業界においても、1位と2位の差異はほとんどないものだ。それにも関わらず、その評価や成果・報酬は全く違ったものになってしまう。
 他社よりも1日早く商品の発表をしただけで、マーケットリーダーになることができる。 商品でもデザインや色、機能などの僅かな差によって、売上に大きな差が出る。営業の世界でも売上ナンバーワンの営業マンと、全く売れない営業マンとの差は、1日の電話本数 では1本しか違わないと言われる。対応が良いと言われる会社と、一般の会社の顧客対応のスピードの差は、1件に付き僅か5秒に過ぎないとさえ言われる。
 世の中には、僅かな差が大きな数字の差となるという法則がある。
 とすれば、会社を変える、世の中を変えるというのはそんなに難しいことではないこと になる。すべてが僅かな差から始まる以上、自分の意識を少し変えるだけでいいのだ。それだけで、その結果は計り知れないものとなる。
 「難しい」「できそうにない」と感じるのは、過去にやったことが無いだけのことである。私たちにとって、できるかできないかの可能性の判断基準となるのが、自分自身の体験だからだ。しかし、体験は積み上げることができる。
新たな体験を積み上げることによって、私たちは自分の可能性を無限に広げることだってできるのだ。
 「とにかくやってみよう」と、『少し』思うだけで良い。1日1回思うだけで良い。それだけで、すべてが大きく変わることに後で気付くだろう。
 会社が変わらないのは、自分の意識が変わっていないからである。それ以外の理由は言い訳である。



【3】今日一日を精一杯生きるー最高の人生とは充実した1日を送ること

 人生とは今日1日をどう生きるのかで決まる。素晴らしい人生を送るためには、今日と いう1日が素晴らしいものでなければならない。1日1日、一瞬一瞬をどう生きるかで自 分の人生は大きく変わっていく。
 今この時に人生最高の笑顔でお客様を迎える。お辞儀は、自分の子供の命を救ってくれた人に対してするように。出会いは、自分の人生を変えてくれる人と、やっと出会えた時のように。電話は、20年ぶりに連絡をした昔の親友にするように。手紙は、初めて書くラブレターのように。
 私たちは、誰でも生きがいのある人生を送りたいと思っている。そして、生きがいのある人生とは、今日1日を充実感のある1日にすることである。さらに、最高の人生とは充実した1日を29200回(人生80年として)送ることだ。
 生きがいや充実感は、一生懸命に何かやることによってしか得ることはできない。明確な目的を持って、今できることから全力を尽くすのである。そして、全力を尽くすためには、僅かなことにも手を抜かない。いや、それ以上に僅かなことにこだわり徹底することである。
 さらに、最も大きな感動は、自分が努力をしたことで、他人を感動させることによって得ることができる。つまり、他人や社会に貢献し、尽くすことは、単にビジネスを成功させる以上に、自分の人生を有意義なものにすることができるのだ。


【4】顧客に感動を与える最高の商品ー自分の生き方で感動させる

 私が、起業家大学を始めようとしていた時、どうしたら本当に起業家を育成することができるのか悩んでいた。単に知識やノウハウを提供したとして、本当に起業家が育成できるのだろうか。頭の良い人が事業を成功させられるとも限らないし、お金がある人が事業を成功させられるとも限らない。そんな時、ある飲食店を経営している女将さんと出会った。その女将さんは、初対面であったにも関わらず、私にこう言った。
 「あなたには起業家を育成することなんてできないわよ!」
 私は、自分が悩んでいることを鋭く突かれたような気がして動転した。
 「どうしてですか?」
 「だって、あなたは人に教えようとしているもの。自分のことを何様だと思っているの!」 その時、私は根本的な解答を、この人は知っているのではないかと直感した。
 「本気でそんなことやろうとしているの?本気なら私の目を見てそう言いなさい!」
 もうその時は、後に引き下がれないような気がしたので、女将さんの目を睨み返すようにして言った。
 「本気です。すべてを捨てる覚悟くらい、できています」
 「ほほほ、そこまでムキにならなくてもいいわよ。今から、私が言うことをよく考えてみなさいね」
 「はい!」
 女将さんは、他の誰にも聞こえないような小さな声で言った。
 「教えるのではなく、見せるのよ」
 この一言を聞いたとたん、それまでの私のすべての迷いは消し飛んでいった。そうだ!教えることはできないけれども、自分がどのように生きようとしているのかを見せることはできる。自分自身が、夢を持ってチャレンジしている姿を見せることが、最高の教育なんだ。
 起業家大学は、自分の生き方を見せる場としてスタートすることにした。



 企業が、顧客に与えることができる最高の商品とは「働く人々の姿」である。
一流のプロスポーツ選手は、その強さで観客を感動させるが、超一流の選手は、その生き方で世界中の人々を感動させる。
 どんなに設備が整っていたとしても、どんなに良い商品であったとしても、働く人々が どういう気持ちで働いているかによって、顧客の評価は全く違ったものになる。
 私の知人のある起業家が「会社が成長するにつれてクレームが無くなっていった」と言 う。トラブルが起こると、お客様が謝ってくださると言うのだ。納品した商品が間違っていたというような場合でも、お客様が「きちんと伝えなかったこっちが悪いんだよ。気にしなくてもいいよ」と言ってくださる。顧客に尽くすことをポリシーとしているこの会社では、他社の最低5倍はお客様に尽くす。
 あるお客様からこう言われたという。
 「毎日でも納品に来てほしいんだ。働いている姿をうちの社員に見せたいから」
一流とは、最先端の設備でも立派な建物でもない。それは、働く人々の姿勢のことである。


【5】夢の10か条ー夢しか実現しない

 「夢はありますか?」
と聞くと、多くの社会人が困惑する。もちろん、「あります」と答える人もいる。
 「その夢を実現するためにすべてを捨てられますか?」
と聞くと、夢があると言ったほとんどの人から
 「それはできません」
と答えが返ってくる。そこで、
 「それでは夢は実現しませんよ」
と言うと、「だって夢ですから」という答えが返ってくる。

 夢は実現させるためのものである。
 いや正確に言えば、夢の実現に向けて全力を尽くして努力することを自己実現というのだ。夢が無ければ、すべてが場当たり的で、人生はただ流されるだけの虚しいものになってしまう。夢のない企業は、常に時代の流れに翻弄されて、次々と起こる事態に対処するだけで精一杯になる。一方、夢のある企業は、自ら道を切り拓くことによって、新たな時代の流れを作り出す。
 夢は、私たちに生きていることの価値、素晴らしさを教えてくれる。
 以下、夢の条件についてまとめてみよう。

【第一条】  夢は、自分がどのような状況にあっても自由に描くことができる
【第二条】  すごいことだけが夢ではない。
       身近で些細なことでも素晴らしい夢がたくさんある
【第三条】  夢を描く時は、できるかできないかを考えないこと
【第四条】  夢は、雰囲気を感じるほどまで、明確にすること
【第五条】  まわりの人や社会に役立つ夢を持つ
【第六条】  夢は、同時にいくつでも持つことができる
【第七条】  常に、今目指している夢を、一つ以上は持っていること
【第八条】  その夢を考えると、ワクワクすること 
【第九条】  夢とは、どんな困難を乗り越えても、達成したいものであること
【第十条】  行動してこそ夢。行動の伴わないものは、幻である


                    「夢しか実現しない」 福島正伸




[不定期に開催を予定しています]

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プロフィール


福島正伸
fukushima masanobu

1958年東京都墨田区生まれ。早稲田大学法学部卒業後、様々な事業に挑戦し、1988年株式会社就職予備校(現・アントレプレナーセンター)設立、代表取締役に就任。通産省産業構造審議会委員を始め、数々の委員を歴任。自立創造型相互支援社会を目指し、自立型人材の育成、組織活性化や新規事業立ち上げ、地域活性化支援の専門家として、これまで30年以上に渡り、日本を代表するいくつもの大手企業、大前研一のアタッカーズ・ビジネススクールや全国の地方自治体などで約7,500回、述べにして30万人以上に研修、講演を行う。受講生からの「人生が変わった」という声が後をたたない。「他人の成功を応援すること」を生きがいとしており、企業経営者、ビジネス書のベストセラー作家など、多くの人から「メンター」と慕われている。4人の経営者を応援するために、毎朝ハガキを出すことをもう20年以上続けている。その言葉をメルマガ「夢を実現する今日の一言」にて配信中。主な著書に「メンタリング・マネジメント」「リーダーになる人のたった1つの習慣」「仕事が夢と感動であふれる5つの物語」「僕の人生を変えた29通の手紙」「僕はがんを治した」最近では「真経営学読本」等がある。(補足として、プロフィール画像の写真は、熊が好きなため掲載、本人ではありません。)
【実績・プロフィールはこちら】
https://www.entre.co.jp/profile/