メンター
(自立型人材を育て最強のチームを創るリーダー)
【 管理型マネジメントとメンタリング・マネジメントについての解説 】
人は生まれながらにして、依存型人材もいなければ、自立型人材もいません。そのどちらかに育てられているだけなのです。 そして、依存型人材を育てるのが管理者(コントローラー)であり、 自立型人材を育てるのがメンターです。
ここでいう「管理」とは、管理職という役職のことではなく また、マネジメントで使われる管理ツールのことでもありません。 そうではなく、他人を自分の思い通りにしようとする「考え方」のことを言っています。 これは、「コントロール」と表現することもできます。
そして、人は管理されることで依存型人材となり、支援されることで自立型人材となっていきます。依存型人材を管理(コントロール)することによって経営することを、 「管理型マネジメント」と言い、また、自立型人材を育成し、 スタッフ全員の能力を最大限に活かした経営手法を 「メンタリング・マネジメント」と言います。
私たちは、知らず知らずのうちに、相手を管理し、意に反して依存型人材を育成してしまうことがあります。 人を育てようと思いながら、なかなか人が育たない原因は、 自分が今やっていることが、管理型なのか、メンタリングなのか、 そのどちらかなのかという、マネジメントスタイルの明確な区分けができていないためなのです。
なぜ、人は管理されることで、依存型人材となってしまうのか、そして、管理とメンタリングの違いとは何か、について、本講座で詳しくお伝えいたします。
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書籍特集記事
人はメンターとの出会いによって、その無限の可能性に気づき、それを発揮することができるようになります。
人間は誰でも、自分のまわりの他人から最も強い影響を受けています。他人が自分にどう接するかで、自分の気持ちが変わり、行動が変わるのです。私たちは一生の中で出会った、たくさんの人々から様々な影響を受けながら成長しています。その中でも、自分の人生を大きく変えてしまう出会いがいくつかあると思います。
「あの人に会ったことが、自分の人生を前向きに変えるきっかけになった」
「あの出会いによって、私の新しい人生がはじまった」
まさに、そんな存在こそがメンターなのです。
そしてメンターによって、社員一人一人の無限の可能性を発揮させることで、企業の生産性を最大限に高めようとする経営を、「メンタリング・マネジメント」と言います。企業の中で最も重要な経営資源といえば、それは間違いなく「人材」でしょう。
企業は、そのビジョンを達成する過程において、様々な困難に直面します。そしてそれらを乗り越え、目的を達成するためには、強い意志と行動力を持った人材が、チームとして結束していくことが求められます。
メンターは、そのような人材を育成し、最強の組織をつくることができます。
大企業のみならず中小・ベンチャー企業にとっても、企業の生産性向上のためには、人材育成は不可欠なテーマであり、近年、このメンタリング・マネジメントに強い関心が寄せられるようになってきました。
本書は、このメンターおよびメンタリング・マネジメントについて、根本的かつ具体的に解説し、どのような環境の中でも、誰にでも実践できるようにまとめたものです。ぜひ、ご一読いただけたらと思います。
福島正伸
「確認すること」で相手の頭が整理される
相手の頭の中の整理を促すために、聞いた話を整理して、相手に確認してもいいでしょう。
自分の頭の中を整理するためと言いながら、聞いた話を自分なりの言葉にまとめて伝えることで、相手もよりしっかりと問題を整理することができるようになります。
そしてその結果、相手が自分の力で見いだした解決策こそ、相手にとっての真実であり、それは自発的な行動につながっていきます。 しかし一方で、どれだけ優れた解決策であったとしても、こちらから押しつけたものは、相手の考えだした解決策ではありませんから、なかなか自発的な行動にはつながりません。
相手にとって、たとえ解決策を見いだすことができなかったとしても、自分の話を真剣に聞いてくれる人がいることは、それだけで大変うれしいものです。
それによって、それまでよりも勇気を持って、問題に立ち向かうことができるようになるはずです。
▶自分にとっても学びとなる
「聞くこと」は、メンターにとっても重要な意味があります。それは、相手から何かを学び取ることができるということです。
それは、メンター自身の成長につながります。学ぶ気になれば、どのような相手からの、どのような話からでも学ぶことができるものです。
そしてまた、自分が相手から学び取るからこそ、「ミラー効果」によって相手も自分から学び取るようになるのです。
聞くことは、その気になればいつでも誰でも簡単にできます。そして、この簡単なことが、最も重要な支援の基本手法なのです。
それでは、「聞く」ことのポイントを、まとめておきましょう。
①相手の話のすべてを受け入れること、否定しないこと
相手の話を否定することは、相手の人格を否定することになってしまうことがあります。
②相手に関心を持って真剣に聞くこと、相手と同じ気持ちになって聞くこと
あらかじめ先入観を持ったり、何かを意図して聞かないようにしましょう。
③話を促すこと
基本的に求められない限りアドバイスはしません。ただし、相手が話に行き詰まった時などに、促すようなアドバイスはしてもかまわないでしょう。その際、相手にこちらの判断を押しつけないように注意しましょう。
④相手の話を自分なりに整理し、それを伝えて確認すること
これは相手の頭の中を、整理するお手伝いをするということです。
⑤相手の話から、自分の成長につながる何かを学び取り、話をしてくれたことに感謝すること
これによって、相手は自分に自信を持つことができるようになります。
「聞く」ときのフレーズ例
・「それで」「それから」
・「その先の話を、聞かせてください」
・「背景に、どのような思いがあったのかを教えてください」
・「つまり、私はこのように解釈しましたが、これでよろしいでしょうか」
・「あなたの話を聞くだけで、学ぶことがたくさんあります。ありがとうございました」
▶「自分の意見を押しつけない」ように注意する
「相談に乗りますよ」と言いながら、こちらの考えを相手に押しつけてしまうことがあります。
自分では気がつかないうちに、そうなってしまうことがありますから、注意するようにしましょう。
「相談に乗る」ということは、「一緒に考える」ということであり、相手が自分で解答を見つけ出すお手伝いをすることです。
相手が主役ですから、こちらは脇役に徹して、相手のために尽くす気持ちを忘れてはいけません。
共にアイデアを出し合ったり、話し合ったり、相手と一緒になって考えることを楽しみましょう。
そしてこの時大切なことは、問題の本質は何かを見誤らないようにすることです。そのためには「何のために」「なぜ」という本来の目的を意識して、話し合うようにしましょう。
「なぜ」を繰り返すような、あえて突っ込んだ質問を続け、それらに答えてもらう中で、根本的な問題解決を図ることは一つの方法です。
相手はこちらの質問に答えるために、頭の中を整理しなければならず、そして整理することによって根本的な問題がわかり、解決策を見いだすことができるようになります。
この場合、相手も集中できるように時間を決めて、思いやりのある突っ込みをすることが大切です。
「相談に乗る」「一緒に考える」時のフレーズ例
・「何のためにはじめたのか、初心に戻ってもう一度考えてみましょう」
・「いろいろな問題がある中で、もう一度夢を確認して、最も根本的な問題は何なのかを、一緒に考えましょう」
・「それでは今から、夢の実現に向けて、誰も思いつかないような方法をテーマとして、自由にアイデアを出すことを一緒にやりませんか」
・「私が今から、三十分間続けて質問を投げかけますので、それに答えるようにしてください。答えを出すために、多少時間がかかってもかまいません。待っていますから、真剣に考えてください。一緒に、必ずこの問題を解決しましょうね」
▶「私ならば」が有効な伝え方
自分の意見を伝える時は、自分がもし相手と同じような立場になったらどうするかを伝えます。
この時大切なことは、必ず相手に選択権を与えるような伝え方をすることです。
その伝え方として、話す内容の前に「私ならば」という表現を用いる方法が有効です。
「自分の意見を伝える」時のフレーズ例
・「私ならば、こう考えます」
・「私ならば、こうします」
・「私ならば、そういう時は損か得かよりも、自分の信念に基づいて判断します。なぜなら、今の損得よりも、人生の中で損得を判断したいからです」
・「二つの道があるとすれば、私ならば、あえて厳しい道を選択します。そのほうが、人間として成長できますから。それに、そもそもどちらの道を選択したとしても、夢を忘れなければ、必ずいつか夢にたどり着くことができるはずです」
・「あきらめない限り、人生に失敗はないと考えています。私ならば、やり続けます。私はあきらめることをやめましたから」
・「私ならば、挑みます。あなたはどうしますか」
▶「指示」をするか、「提案」をするか
助言、提案で大切なことは、相手のために貢献する気持ちを強く持つことです。前向き、好意的な表現で、一つでも多くの解決策やアイデアを提供して、相手のために尽くします。この時も、決して判断を急がせたり、押しつけたりすることのないように注意しなければいけません。
メンターは、「どうすべきか」という手法を細かく指示することはしません。細かく行動を指示すればするほど、相手はこちらに依存してくるようになってしまうからです。メンターが相手に対して行うのは、指示ではなく提案です。そして、たとえ細かなことまで提案することがあったとしても、最後はすべて相手に決めさせます。
それは、相手が自分で決めて行動することを、メンターは何よりも重視するからです。
指示とは「こちらが決めたことを相手に行動させること」であり、提案とは「行動するかどうかを相手に決めさせること」です。もちろん、相手から尊敬されるようになれば、どのような提案をしたとしても、相手は全力で提案されたことを行動するようになります。
「助言・提案をする」時のフレーズ例
・「このような考え方もあります」
・「このような行動を取った人がいます」
・「こうしてみたらどうでしょうか」
・「反対に、こんなこともできると思います」
・「それならば、こうすることもできますね」
・「うまくいかない時は、あえて極端に考えてみてはどうでしょうか」
・「新しいアイデアの多くは、厳しい条件の中で生まれています。厳しい条件は、今までにない画期的なアイデアを生むためには、必要な条件だと考えることもできると思います」
・「失敗することで、何かわかることがあると思います。ある経営者から、失敗するほどいろいろなことがわかり、それがノウハウとして蓄積して、成功した時には誰も真似のできないものになっている、という話を聞いたことがあります」
▶「相手がわかる言葉」で伝える
教える、または指導するということは、必要とされる知識や情報、技術などを相手に伝えることです。その際、注意することは相手のレベルに合わせて、「わかる言葉でわかるように伝える」ことです。特に、専門用語には気をつける必要があります。難しい言葉には、解説も加えるようにしましょう。相手にとって、わからない言葉が一つあるだけで、こちらが何を言っているのかわからなくなってしまうことがあるからです。
また、わかりにくいことを伝える場合は、身近な物事に例えて伝えると良いでしょう。相手がわからなければ、教えたことにはなりません。相手の状況に合わせた、思いやりのある伝え方をすることが大切です。
「教える・指導する」時のフレーズ例
・「こうすると、こうなります」
・「このような時には、このようにします」
・「例えれば、このようなものです」
・「アントレプレナーとは、夢に向かってチャレンジし続ける人のことで、職業を指している言葉ではありません。ですから、経営者であってもアントレプレナーではない人もいれば、サラリーマンや公務員でもアントレプレナーがいます」
・「自動車は、四つのタイヤがあることで、どんなに遠くの場所でも私たちを連れていってくれます。同じように、夢を持つ時に大切なポイントも四つあります。これらが揃えば、どんなに遠い夢でも、必ずそこにたどり着くことができます。それらは、明確にすること、期限を決めること、具体的なスケジュールをつくること、決意することの四つです」
▶励ます――「相手がやる気になる言葉」で伝える
「励ます」時には、心の底からそう思って伝えることが、何よりも大切なことです。気持ちが伴わなければ、どんな励ましの言葉も空虚なものに響いてしまいます。そしてその上で、励ましの言葉をたくさん用意して、相手に合わせて使い分けるようにしましょう。自分がやる気になる言葉が、必ずしも相手にとってやる気になる言葉であるかどうかはわかりません。
例えば、「がんばれ」という言葉が、必ずしも相手をやる気にさせるとは限らないことは、多くの方が経験上知っていると思います。言葉の意味は、辞書で調べれば正確に定義されています。しかし、それとは別に、私たちは一つ一つの言葉に対して、自分なりの特別な意味をつけているものです。
好きな言葉、嫌いな言葉、やる気になる言葉、やる気にならない言葉など、いわば自分だけのオリジナル辞書を持っていると言ってもいいでしょう。つまり、相手にとってやる気になる言葉があるのです。それは、他人には簡単にわかるものではありません。ですから、支援する際には相手の辞書にある言葉をいろいろ試しながら探し出して、励ますようにする必要があるわけです。
・「励ます」時のフレーズ例
「あなたならば、必ずやり遂げることができます」
「応援していますよ」
「私は、あなたがどのような状況になったとしても応援し続けます」
「みんながあなたを待っています」
「夢しか実現しない、という言葉があります」
「チャンスに変えることができない出来事はありません」
「どんな出来事に対しても、感謝することだってできると思います」
「常に勝者になることはできなくても、常に勇者でいることはできます」
「日が沈むから、日の出が見られるんです」
▶誉める――心の底から、誉める
「誉める」ということは、自分が喜ぶことです。反対に、口先だけの誉め言葉は、相手に不信感さえ与えてしまいかねません。また、誉めるためには、誉めるところを見つけ出す力が必要です。そのためには、小さな実績を見つけ出して、前向きに評価します。実績がない場合には、物事に取り組む姿勢を評価してもいいでしょう。
さらに、相手の個性的な部分を長所として受け止めるようにします。特に個性は、短所にもなれば、長所にもなります。相手自身が、気がつかないような長所を見つけ出し、誉めることで、やる気にさせることができるようになります。
・「誉める」時のフレーズ例
「すばらしい!」
「まさか、ここまでできるとは思いませんでした」
「これはなかなか他の人にはできないことだと思います。やはり、あなたには特別な才能があったのですね」
「私はあの時、あなたはあきらめると思っていました。しかし、あなたは最後まであきらめなかった。うまくいったかどうかよりも、あきらめずに取り組み続けたことがすばらしいことだと思います」
「今日は、確かに売上が予定額に達しませんでした。お客様も二人しかお見えにならず、一日中暇でしたね。でも、その二人のお客様に対して、あなたが誠心誠意接したことはとてもすばらしいことです。なぜなら、あの二人のお客様は必ず百万人のお客様を連れてきてくださいますから」
▶どんな言葉で「促す」のがいいか?
「促す」というのは、相手が今一歩踏み出せないでいる時に、後押しすることです。ところが、相手がそもそもやる気がない時には、無理に促したとしても、それは相手にとって負担にしかなりません。無理にやらせようとするのではなく、やりたくさせるようにするのがメンタリングです。促す際の技術として、相手の話に便乗する方法があります。それは、相手が過去に発言した内容を持ち出して、相手に行動を促すことです。
人は思いが揺れ動いて、行動することができない時があります。そんな時に、相手の過去の話から前向きな発言を見つけ出して、相手の行動を促すのです。相手にとっては、自分の発言ですから、それを思い起こすことによって、再認識して意志を強くするきっかけになります。また、相手がやる気になる言葉を探して、促すようにしてみてもいいでしょう。
・「促す」時のフレーズ例
「さぁ、はじめましょう」
「できることから、はじめればいいと思います」
「やらずに後悔するよりも、やってみましょう」
「先ほどあなたは、両親のためにがんばりたいと言いましたが、ここであきらめることが、本当にご両親のためになるのでしょうか」
「昨年、あなたが『夢しか実現しない』とおっしゃったことに感動しました。もう一度、夢にチャレンジしませんか」
「あなたの好きな言葉に、武田信玄の『なせば成る 為さねば成らぬ 成る業(わざ)を 成らぬと捨つる 人のはかなさ』がありましたよね」
「『背中に大きな荷物を背負っているからできない』とおっしゃいましたよね。よく見てください。それは大きな翼ですよ」
▶どう「導く」のがいいか?
「導く」際には、自分がまず先頭に立ち、相手に後からついてきてもらうことで、やればできるという体験を積ませていきます。必要に応じて、基本的な知識やノウハウを与えたり、うまくいかなかった時のプラス受信の仕方や、楽しむコツを教えたりしてもいいでしょう。その時に大切なことは、その行動や仕事を通して、自分が楽しんでいる姿、輝いている姿、そして感動している姿を見せることです。その上で、相手のレベルに合わせて、できることからやらせるようにします。
感動は自分自身が味わうことでしか、そのすばらしさはわかりません。相手も感動の体験ができるように、メンターは自らが先頭に立って困難に挑んでいきます。その中で生き方を見せ、共に感動を味わうのです。
そして、何度かそのような感動を味わってしまうと、ただ生きるために働くことが、とても無意味に感じるようになり、より大きな困難に自分から率先して挑んでいくようになるはずです。
・「導く」時のフレーズ例
「まずは私がやってみますから、続いてやってみてください」
「私がここまでやります。その後で、あなたはここまでやってみてください」
▶管理型マネジメントとメンタリング・マネジメント
人は生まれながらにして、「依存型人材」もいなければ、「自立型人材」もいません。そのどちらかに育てられているだけなのです。そして、依存型人材を育てるのが「管理者(コントローラー)」であり、自立型人材を育てるのが「メンター」です。ここでいう管理とは、管理職という役職のことではなく、またマネジメントで使われる管理ツールのことでもありません。そうではなく、他人を自分の思い通りにしようとする考え方のことを言っています。これは、「コントロール」と表現することもできます。そして、人は管理されることで依存型人材となり、支援されることで自立型人材となっていきます。
依存型人材を管理(コントロール)することによって経営することを、「管理型マネジメント」と言い、また自立型人材を育成し、スタッフ全員の能力を最大限に活かした経営をすることを「メンタリング・マネジメント」と言います。私たちは知らず知らずのうちに、相手を管理し、意に反して依存型人材を育成してしまうことがあります。
人を育てようと思いながら、なかなか人が育たない原因は、自分が今やっていることが、管理型なのか、メンタリングなのか、そのどちらなのかという、マネジメントスタイルの明確な区分けができていないためなのです。
▶こうして依存型人材が育成される
時間がないからと、具体的な行動を指示して、こちらの言った通りに行動させようとするほど、相手は依存型人材になってしまいます。つまり、自分で考え、自分で判断することができなくなってしまうのです。次第に、自分から意見を言わなくなり、いつも指示が出るのを待っているだけになってしまうでしょう。「うちの会社のスタッフは、指示待ち人間ばかりだ」というのは、一所懸命に指示待ちの依存型人材を育成してきたからです。
管理しようとすれば、その発言と行動によって、必然的に依存型人材を育成してしまうことになります。例えば、次のような発言をすれば、依存型人材を育成することになってしまいます。
①相手に納得させることなく、無理やりやらせる
・「仕方ないだろう、仕事なんだから」
──仕事は辛いもの、できればやりたくないものと、思わせてしまう
・「私にも理由はわからない。しかし、会社の指示なんだから、君も言われたことをやっていればいいんだ」
──何のために行動するのかその意義がわからず、納得しないまま、ただ言われたことをやることで、自発性を失っていく
②相手の安楽に訴える
・「言われたようにやらないと、将来の出世に響くぞ」
・「私のために言っているんじゃない。君のために言っているんだ」
──自分の利益を守ることだけが、働く動機になってしまう
③自分があきらめている
・「そんなこと、うちの会社でできるはずがないだろう」
・「君がいくらがんばったところで無理だよ。社会のシステムの問題なんだから」
──世の中や会社には、無理なこと、できないことがたくさんあると思い込み、何事もあきらめてしまうようになる
④危機感を伝える
・「もうミスは許されない。またミスしたら終わりだよ」
・「このままでは会社が潰れるかもしれない」
──危機感で仕方なく働くが、健康まで害することがある
⑤自分が楽をする
・「それは私の仕事ではない。君の仕事じゃないか」
・「私には関係ないことだよ」
──他人の仕事に関心を持つ必要はない、と相手も思ってしまう
⑥相手のせいにする
・「自己責任で考えなさい」
・「君のせいだぞ!」
──責任を押しつけられるほど、責任を取りたくなくなる
⑦相手の話を聞かない
・「今忙しいから後にしてくれ」
──信頼関係がなくなり、上司が困っていても知らんぷりをするようになる
⑧相手に関心を示さない
・「何度も同じことを言わせるな!」
──どうしたら良いのかわからなくなる。さらに、今後わからないことがあっても相談しなくなる
これらのように管理的、一方的な発言をすれば、相手は依存型人材になってしまいます。いわば、管理とは依存型人材を育成するためのノウハウなのです。もうおわかりだと思いますが、依存型人材の育成はとても簡単です。つまり、管理者自身が依存型人材になればいいのです。相手が依存型人材になってしまうという問題の本質は、管理者自身が依存型人材であるということです。
依存型人材を育成できるのは依存型人材だけであり、依存型の上司が自立型の部下を育成することは、そもそも不可能なことなのです。
▶管理型マネジメントでは「依存型人材」に育つ
言われなければ行動できない依存型人材を育成してしまうことは、経営効率を悪化させる大きな要因になってしまいます。依存型人材は、目の前のことについて、指示した通りには行動しても、指示のない時や指示のないことについては、自分で判断して行動することはありません。
それによって、業務のあちこちで無駄な仕事や、無駄な時間が費やされることになります。
ルーティンで決まった仕事をこなすだけという場合には、さほど大きな問題ではないのですが、現代のような変化に富んだ不確実な経営環境の中では、管理者がすべての指示を一つひとつすることは実質的に不可能です。
それでも細かく指示をしようとすれば、管理者の負担は増えるばかりとなり、管理者の限界が仕事の限界になってしまうのです。そうなるとスタッフが増えるほど、仕事はバラバラになっていくことになります。
また、依存型人材は相互に経営資源を共有しようとはしませんから、同じような仕事を、あちこちの部門で繰り返すといった無駄がなくなりません。
そもそも経営資源の共有化とは、システムの問題ではなく、意識の問題なのです。
自分が相手のために、自分の経営資源を提供しようとしなければ、共有化はできません。
▶新しいものに関心を示さない
さらに、依存型人材は、会社の新しいシステムや制度に対しては、まったく関心を示しません。
例えば、社員のやる気を活かそうと新規事業提案制度を創設しても、それを使って提案することはないでしょう。あらかじめうまくいくことがわかっていないことや、成果が約束されていないことに対しては、リスクを感じるだけなのです。依存型人材にとっては、新たに何かをはじめることよりも、今まで通り、過去に決められた通りであることが、行動の基準として重要なことなのです。
また、会社がどれほど活性化のために組織変革をしたとしても、効果はすぐになくなってしまいます。新たな組織や制度の中で、指示を待っているだけになるからです。それによって、せっかくの組織変革の効果も、時間とともになくなっていきます。依存型人材は、そもそも組織の活性化には関心がないのです。変化そのものが負担であり、面倒なことの一つでしかありません。
▶エネルギーを使うのは自分の利益を守る時だけ
会議などでも、自分から意見を言うことはありません。言われたことをやるのは得意ですが、自分で考えて自分から発言することは苦手なのです。たとえ発言したとしても、自分が責任を取ることがないようにしか発言しませんから、会議の時間はひたすら長く、雰囲気は重苦しくなっていくだけになります。
しかし、自分にとって少しでも不利益になりそうなことに関しては、極端な拒否反応を示します。エネルギーを使うのは、目先の自分の利益を守る時だけなのです。
▶不満は言うが、改善する気はない
会社に対して不満を言いますが、本気でより良くしようとも思わないのでしょう。不満を言って終わりですから、いつまでたっても会社は変わらず、毎日不満を言い続けなければならなくなります。
不満を言っている時間もコストです。そして、不満ばかりを口にする人がいることで、職場の雰囲気も暗くなっていきます。それによって、会社全体の生産性は次第に低下していきます。
さらに、依存型人材は、目の前の仕事で手一杯で、全体的に物事を見ることができません。注意を受けても、自分の待遇条件に影響がなければ、すぐに意識から消え去ってしまいます。
そうなると、「どうしてこんなことが起こるのか」と思うような問題が、次々と会社の中に起こってきます。
しかし、それらの問題も、依存型人材にとっては関心のないことなのです。それなりに精一杯なのですから。
このように、依存型人材を育ててしまう管理型マネジメントは、その場限りの成果を求めてしまうので、結果的にはとても無駄の多いマネジメントとなり、企業を内から衰退させてしまうことになります。だからこそ、「自立型人材」を育てる「メンタリング・マネジメント」が必要になってくるのです。
▶出番をつくる──自らの行動で相手をやる気にさせる
「出番をつくる」ということは、相手のために自らができることを探し出して、行動し続けるということです。
その目的は、相手を成功させることではなく、感動させ、本気にさせることであり、それによって相手が自分の力で問題を解決することができるようになることです。
自分の出番をつくる、といっても、それは相手の目の前にある障害を取り除くことではありません。
そうではなく、相手が本気になってその障害を乗り越えていくことができるように、こちらの本気を示すことです。
本気は伝播します。相手よりも本気になるからこそ、相手も本気になることができるのです。
「出番をつくる」ときのフレーズ例
・「私は、あなたのために○○をします」
・「昨日徹夜でここまでのことを、あなたのためにやってみました。よかったら活用してください」
・「私は今日から、あなたが成功するまで、毎日励ましの手紙を送り続けます」
・「千人の社員全員から、あなたのためにできることを書いてもらいました。この千人のファイルを見てください」
▶提供する──やる気になる・前向きになる情報や人を紹介する
提供とは、やる気にさせてから与えるものです。
やる気にさせずに提供することは、逆効果になってしまう危険性があります。また、相手が困っていることを解決するために提供することは、相手をより依存させてしまうことになりかねません。気をつけなければならないことは、提供することによって相手を楽にしたり、動機づけをしたりしないようにすることです。その意味では、相手をやる気にさせてから提供することが大切です。
提供することで、やる気のない人をやる気にさせるのではなく、「提供」することで、やる気のある人をよりやる気にさせるようにするのです。提供とは、目の前の壁にぶつかって進むことができない状況にある相手に、何かを提供することで乗り越えさせ、自信をつけさせて、より大きな壁に挑んでいくことができるようにすることです。
ですから相手にとって、その場を乗り切るために必要最小限のものを提供するようにしなければなりません。壁を乗り越えていく「きっかけ」を与えることが提供なのです。もちろん励ましなどの精神的なものは、いくら提供してもかまいません。何より提供しなければならないのは、困難に挑んでいく勇気なのですから。
「提供する」ときのフレーズ例
・「どうぞこれを使ってください」
・「必要なものがあれば言ってください」(この場合、もちろん提供するものは最小限にとどめる)
・「行き詰まっているのは気持ちだけだと思います。方法はどんな時でも百万通りあるのですから」
▶説得しようとするほど、相手は頑固になる
「私の部下には、頑固な者が多くて困っています」
どうしてその人のまわりには、頑固な人が集まってしまうのでしょうか?それは偶然なのでしょうか、それとも呼び寄せているのでしょうか。実はそのどちらでもなく、頑固な部下を育成しているのです。その人と接することで、普段は何でもない人まで頑固になってしまうだけなのです。もちろん、もともと頑固な性格の人もいるかもしれません。しかし、それをさらに頑固な性格に増長させてしまうのです。逆に言えば、その人とは頑固にならなければ、つきあっていくことができないということです。それは、その人が相手を説得しようとするからです。
▶説得されると否定されたような気になる
相手を説得しようとするほど、相手は説得されまいとして頑固になっていきます。そうなると、相手は自分の考え方に固執して、何が正しいかが判断できなくなります。何が正しいかよりも、自分の考えを優先しようとするからです。説得されるということは、自己の存在価値を否定されるような気になってしまうのです。そうなると、お互いが自分の考えを主張することにエネルギーを費やし、本当に意義のある議論ができなくなってしまいます。そして何よりも、そこで使われる時間とエネルギーは膨大なコストです。それでも無理やり、なかば強制的に説得すれば、相手は嫌々仕方なく行動するようになるかもしれません。しかし、それでは生産性の高い仕事はできません。さらにそれを繰り返せば、相手は次第に疲弊し、精神的にも行き詰まってしまうことになるでしょう。そのような相手の意識は、将来必ず数字となって職場や会社に返ってきます。相手が本気になって行動するためには、相手を説得するのではなく、共感させることが必要なのです。
▶指導と育成──育成なくして指導なし
「言わなければ、彼はわからないよ。彼の成長のためには、はっきりと言ってあげたほうがいい」
「君の成長のために、任せたんじゃないか。厳しいかもしれないが、がんばってくれよ」
このように接することで、人は本当に育つのでしょうか?意思に反して次のように、相手に受け取られることはないでしょうか。
「あの人からは、言われたくないよ。あの人はいつも自分の考えを人に押しつけるんだ」
「上司が楽をするために、自分がやりたくない仕事を、私に任せようとしているだけさ。まったく、とんでもない話だよ」
このようにならないために、もう一度、人を育てるためにやっていることを問い直してみましょう。
・人を育てる、と言いながらやっていることは、はたして本当に人が育つことなのか? それが、必要とされる根拠は?
・相手を成長させることよりも、その時の自分の気持ちが優先した発言や行動をしていることはないか?
・相手のためと言いながら、自分のためにやっていることはないか?
これまで自分が当たり前のように思ってやってきたことを、冷静に考え直してみると、根本的な問題点を発見できることがあります。もしかすると、相手はこちらの本心を知っているのかもしれません。人を育てる際、私たちはいかにして正しいことを相手に伝えるかを考えることがあります。
しかし、正しいことを教えれば、人は育つのでしょうか。残念ながら、いくら正しいことを教えても、人は育つことはありません。極端な話かもしれませんが、もし教えることで人が育つのであれば、「立派な人間になれ」と言えばいいだけになります。そうすれば、立派な人間に育つはずですから。実は、教えても人が育たない場合もあれば、教えなくとも人が育つ場合があるのです。このことについて少し考えてみたいと思います。人を育てるために、認識しておかなければならないことがあります。それは、「指導」と「育成」です。自分が今、指導をすべきなのか、それとも育成をすべきなのかを正しく判断することが、人材の育成にあたって、まずはじめに求められる重要なポイントになります。
▶指導とは「教える」こと
指導とは、問題解決のため、あるいは生産性向上のために、必要とされる問題解決法などの手法や知識、技術、情報などを、相手に伝えることです。つまり、それは相手に「教える」ことです。指導には、一つ注意しなければならない点があります。それは何事にも万能な手法や知識があるわけではなく、なおかつ手法や知識は無限にあるということです。
次のような話があります。一人のプロゴルファーがスランプに陥って悩んでいました。たまたまそんな時、あるゴルフ雑誌の企画で、五人の一流のプロゴルファーがそれぞれ個別にアドバイスすることになりました。ところが、なんとその五人のプロゴルファーのアドバイスは、一つの問題を解決するためのものであるにもかかわらず、すべて違う内容の解決策だったのです。さて、このような時はどのように考えればいいのでしょうか。その解決策の選択基準は自分自身にあります。つまり、自分が最も納得がいく方法を選択すればいいのです。
しかし自分だけでは、はっきりと選ぶことができない時もあるかもしれません。その時は、まず五人のアドバイスを、すべて受け入れてみてもいいでしょう。一つ一つやってみて、その中で自分にとってやりやすく、成果が出た方法が、その時の正しいアドバイスなのです。他人が成功した方法だからといって、自分がやってみると成果が出ないことがあります。それぞれのアドバイスは、すべてがそれなりに意味のあるアドバイスなのですが、どのアドバイスがその時の自分にとって、ぴったりと合うかはわかりません。自分でも納得できるアドバイスがあればいいのですが、どれが自分に合うかわからない時には、実際にやってみて、成果を出すことができたアドバイスが正しい方法であり、その時の成功手法なのです。
このように、指導で大切なことは、相手に選択させることです。「教える」ということは、教えた通りのことを相手にやらせることではありません。そもそも、教えたことを相手がやるかどうかは、相手が決めることなのです。何よりも重要なことは、教えたことを相手がやる気になってやる、ということです。そして、そのために必要なのが育成です。
▶育成とは「やる気にさせること」
育成を一言で表現すれば、「やる気にさせること」です。それは、どんな困難に対しても、勇気を持ってチャレンジしていく自立型姿勢を身につけさせることに他なりません。そのためには、まずこちらが相手の見本となって、自立型姿勢を見せることが必要となります。つまり、指導とは「教える」ことですが、育成とは「見せる」ことです。人はやる気になってはじめてこちらの話を聞き、教えられたことを行動に移すようになります。つまり、育成ができていなければ、指導したことが活かされず、無駄になってしまうのです。
▶感謝する、感動する──共に喜びを分かち合う
相手に感謝し、「ありがとうございます。感動しました!」と伝えることで、相手は自分の存在価値を認識し、自信を持って生きることができるようになります。
しかし、他人のことに関して感謝したり、感動したりすることは、普段の生活の中では、なかなかできないかもしれません。ところが、メンターは相手の何気ない発言やちょっとした行動から、感謝したり、感動したりすることができます。自分にとってありがたいと思えることを、相手から得ることができたと思った時に感謝することができます。もちろんそれは、精神的なものであってもかまいません。
また、感動するとは、相手の生き方に共感することです。つまり、相手の生き方に、自分の生き方を共鳴させることと言ってもいいでしょう。ですから、結果がどうであるかよりも、むしろその過程を共有することで、感動することができるようになります。
そのためには、「どれだけのことができたか」よりも、「どれだけ、できなかったことが、できるようになったか」「どのような姿勢で取り組んできたか」「何を大切にして生きているか」を把握しなければなりません。どれだけ当たり前のことに感謝することができるか、どれだけわずかなことに感動することができるか、そこではメンターの感性が問われます。
・「感謝・感動する」ときのフレーズ例
「私もやる気になりました! ありがとうございます」
「夢をありがとう!」
「確かに、あなたにとっては失敗だったかもしれません。しかし、あなたの行動は、私に大いなる勇気を与えてくださいました。本当にありがとう」
「あなたの姿を見ているだけで、気づくことがたくさんあります。自分自身の足りないところが、よくわかりました。本当に感謝いたします」
「あなたが徹夜までして、つくっていたことは知りませんでした。その姿勢にはとても感動しました」
「あの時の、『パッケージとは商品を包むものではなく、夢を包むものだと思います』と言った、あなたの言葉には、ぞくっとするほど感動しました」
▶委任する──相手の判断で自由にやらせる
目標と期限を明確にして、その上ですべてを相手に任せることを、委任と言います。そして任せるということは、たとえうまくいかなかったとしても、そのことを相手のせいにせずに受け入れることです。「任せる以上は、うまくいくことを保証せよ」というものではありません。失敗してはいけないから、できるようになるまで任せない、というのではなく、メンターはどんどん相手に任せていきます。この場合、はじめは小さなことから任せ、次第に大きなことを任せるようにしていくようにしましょう。やらせてみせて、自分で体験を積み重ねさせるのです。失敗してもかまいません。大切なことは、失敗した時に、それをどのように受け止め、次にそれをどのように活かしていけばいいのかを、まず自分が見せて、そして教えていくことです。そうすることで、相手はどんな失敗があったとしても、それを糧にして成長し続けていく「自立型の人材」になっていくことができます。もちろんこの時、失敗は何でも容認するわけではありません。お客様に迷惑がかかるような失敗や、多大な損失が出るような失敗は避けるように、最大限の対策をした上で任せるようにしましょう。
・「感謝・感動する」ときのフレーズ例
「自分を信じて、迷わず取り組んでください」
「あなたの判断で、とことんやってください」
「まずはこれからはじめてみましょう。失敗してもかまいません。失敗から学ぶことがたくさんあります。それを学んでいけばいいだけですから」
「もしうまくいかなければ、その責任はすべて私が取りますから、心配せずにやってみてください」
「この件に関しては、あなたにお任せいたします。自分の判断で、正しいと思ったことに積極的に取り組んでください。そして、どうしていいかわからない時は、いつでも連絡してください。一緒に解決していきましょう。それでは私も、あの難題に挑んでいきます」
▶メンターとは?
メンターを一言で定義すれば、「相手が自発的に自らの能力と可能性を最大限に発揮する自立型人材に育成することができる人」と言うことができます。さらにわかりやすく、「相手をやる気にさせる人」と言ってもかまいません。メンターという言葉は、ギリシャ神話に出てくる老賢人「メントール」がその語源であると言われています。一九八〇年代に不況のアメリカで、成長した起業家が自分を精神的にも支援してくれた方々を、敬意を込めてメンター(Mentor)と呼ぶようになったことが、メンターという言葉が広まるきっかけになりました。その後、個人の能力を最大限に発揮させるために、精神面も含めた支援の重要性が強く認識されるようになり、近年では、企業の中においても「上司はメンターであれ」と言われるようにまでなってきたのです。
▶説得も強制もせず、自発性を引き出す
メンターは、相手が本来持っている潜在的な可能性を最大限に引き出します。すべての人が、生まれながらにして無限の可能性を持っているにもかかわらず、それを出し切っていないだけなのです。ただ、ここで「引き出す」と表現すると、こちらが何らかの方法を使うことで、無理にでも引っ張り出すというイメージがあるかもしれません。そうではなく、「引き出す」というのは、自発的に潜在的な可能性を発揮したくなるように導くということです。人は自発的にならない限り、自分の能力と可能性を最大限に発揮することはないからです。『イソップ物語』の「北風と太陽」をご存じの方も多いと思います。たまたま通りかかった旅人のマントを、どちらが先に脱がすことができるかを、北風と太陽が競い合うという話です。はじめに北風がチャレンジします。ビュービューと吹き荒れる風の中で、旅人は絶対にマントを脱ぐまいと力の限り抱え込みます。次に太陽がポカポカと旅人を照らします。旅人はその暖かさに、自分からマントを簡単に脱いでしまうのです。メンターはまさに、この話の中に出てくる太陽の役割を果たします。説得することもなく、強制することもなく、相手の自発性を引き出すのです。
その結果、相手は指示がなくとも、自分の意志で考えて、行動することができるようになります。つまり、メンターは自立型人材を育成することができるのです。
▶「メンターであるかどうか」は相手が決めるもの
一方、メンターに対機する人々を、プロテギーあるいはメンティーと呼びます。最近は、メンティーと呼ばれることが多いようです。ただし、ここで、注意しなければならないことがあります。それは、メンターとは、役職や資格、職業とかではなく、相手から与えられるいわば称号であるということです。自分がメンターであるかどうかは、相手が決めるものなのです。人と人との関係においては、相手から認められない限り、どのような資格を持っていたとしても、それはまったく無意味なものにすぎません。ということは、自分でメンターを名乗っている人に、残念ながら本物のメンターはいないということになります。
そもそもメンターとは、究極のリーダーのあり方ですから、それは目指すものなのです。メンターと言われる人々は、メンターを目指してはいるものの、まだまだ自分はメンターではないと思っています。つまり、自分はひたすらメンターになることを目指すことで、その人は相手から見てメンターになることができるのです。
▶部下を見れば上司がわかる――ミラー効果
以前、有線放送の経営番組の司会を、一年半にわたって務めさせていただいたことがあります。毎回、注目されるベンチャー企業の社長に登場していただき、私と対談するという一時間の番組でした。あるベンチャー企業の社長との収録の際、数名の若手社員が同行してきました。そして、番組が終わった後の、控え室でのことです。初老の社長の話を、二十代と思しき若者たちが一所懸命に聞いているのです。社長が中座している時に、それとなく聞きました。
「みなさんから見て、社長はどんな方ですか?」
「社長からは、学ぶことばかりなんです。今日も何かを学びたいと思って、同行させていただきました」
社長が戻った時、さっそく若手社員に対する人材育成のノウハウについて聞いてみました。
「社員から学ぶこと。それだけだよ。最近の若者は、私の知らないことをたくさん知っているんだ」
上司から見れば、部下は未熟に見えます。しかし、未熟な人間とは、自分に比べて知識や経験がないだけのことです。ところが、もしかするとその生き方は未熟どころか、学ぶことばかりかもしれません。何事にも興味を示し、理想で物事を考え、とにかく行動してみようとする。いつの間にか、上司が忘れていたものを、彼らはその生き方で教えてくれていると言ってもいいでしょう。そして上司が部下から学ぼうとするほど、部下も上司から学ぼうとするようになるのです。
▶親が子から学ばなければ、子は親から学べない
上司に部下の様子を聞けば、上司のことがよくわかります。よく上司が部下について話をする時、私はその人自身のことを言っていると思って話を聞くことがあります。
「うちの職場はどうも暗い」
(この上司が職場に行くと、みんなも暗くなるんだな)
「最近の若者は、自分のことしか考えていない。夢がない」
(この上司に夢がなく、みんなに夢を語っていないんだな)
「私の部下は、どうもやる気がない」
(この上司にやる気がないんだな。仕事は辛くて大変なもの、と思っているのかもしれない)
つまり、職場が暗いと言う明るい上司もいなければ、反対に職場が明るいと言う暗い上司もいません。職場が暗いと言うのは暗い上司で、職場が明るいと言うのは明るい上司です。自分のまわりの他人を見れば、自分がこれまで他人に何をしてきたのかがまるで鏡のようによくわかります。
・まわりの人にやる気がないのは、自分にやる気がないから。
・まわりが助けてくれないのは、今までまわりのことを助けてこなかったから。
・まわりを笑顔にするためには、まず自分が笑顔になればいい。
・部下が話を聞かないと言う前に、部下の話をよく聞くようにする。
自分が相手に求めていることは、まず自分から相手に与えることです。他人は鏡なのです。自分がやったことが自分に返ってくるだけなのですから。このことを鏡になぞらえて、「ミラー効果」と言います。
「どうしてこの人は、こんな行動をするのだろう?」
「どうしてあの人は、あんな発言をするのだろう?」
これらのように、相手のことばかり見ているようでは、根本的に問題を解決することはできません。相手は自分のことを教えてくれているのです。上司と部下の関係においてもまったく同じです。大切なことは、部下に教えるよりも、部下から学ぶことです。それができてこそ、部下も上司から学ぶことができるようになるのです。
▶尊敬によって人を動かす
以前、私は学校の関係者約三百人の集まる会合で、講演をさせていただいたことがあります。参加されたみなさんは、子どもたちの生活指導に大変ご苦労をされていました。
「どうして、子どもたちは先生の言うことを聞かないのか」
そのことについて、私は次のような話をさせていただきました。
「子どもたちが、先生の言うことを聞かない理由は一つです。それは、先生の言うことを聞きたくないからです。そのような時、先生が正しいことを言えば言うほど、子どもたちは正しいことをしなくなってしまいます。
例えば、『勉強をしよう』と言えば、勉強しない子どもが増え、『思いやりを持とう』と言えば、思いやりのない子どもが育ってしまうのです。
それでは、どうして先生の言うことを聞きたくないのでしょうか?
子どもたちにその理由を聞けば、すぐにわかると思います。『なぜ、先生の言うことを聞かないの?』と聞けば、きっと次のような返事をするでしょう。
『だって、先生の言うことを聞いたら、先生みたいになっちゃうもの』
つまり、子どもたちは先生の話を聞くかどうかを、あらかじめ決めてあるのです。先生の普段の発言や行動を見て、この先生の言うことは聞こう、あの先生の言うことは聞かない、と子どもながらに判断をしているのです。それは、子どもたちに問題があるからではありません。いつの時代でも、どこの地域でも、子どもは大人の鏡なのです。子どもたちから、自分たちのあり方を学ぶことが大切なのではないでしょうか。相手に何かを伝えようとする時、何を話すかという内容よりも、相手からどう思われているかのほうが問題なのです。正しいことが、伝わるとは限りません。誰が伝えるかで、伝わるかどうかが決まるものなのです。
一方で、次のような体験をしたことがあります。
ある大学で学生対象に、夢と起業家精神をテーマに講演をしました。その際、私を招いてくださったのがY教授です。講演会の前、Y教授と学生食堂で昼食を共にさせていただくことになりました。学生食堂までの廊下には、学生主催の様々なイベントの告知ポスターが貼ってあります。その中の一つに、Y教授の大きな写真入りのコンサートのポスターがありました。Y教授は、尺八の名人でもあり、そのコンサートを学生たちが主催していたのです。
私たちが席に着いて、食事をはじめようとした時、まわりの学生がこちらを注目しているのがわかりました。そして、数人の学生が私たちのところにやってきて、次のように言いました。
「Y先生、僕たちも一緒に食事させていただいてもいいですか?」
すぐまた、別の学生がやってきました。
「私たちも一緒に食事させてください」
そうしてY教授と私は、あっという間に、たくさんの学生たちに取り囲まれてしまったのです。さらに驚いたことに、学生たちはY教授と私の話を真剣に聞いているだけなのです。中にはメモを取っている学生もいます。学生たちは、何かを学び取ろうと必死になっているようでした。彼らがY教授をどれほど尊敬しているかは、その表情と行動で手に取るようにわかりました。学生たちは、Y教授の一挙一動から学んでいるのです。私は教授と学生たちとの信頼関係の強さに、圧倒され、感動すら覚えました。
先生と生徒との関係でいえば、先生が生徒からどのように思われているかによって、生徒がどのような行動を取るかが変わります。生徒は先生の話を聞く前に、先生の話を聞くかどうかを決めているのです。その際、どれだけ先生に知識や経験があるか、どれだけの資格を持ち、どのような地位にあるかはまったく関係ありません。相手がどの程度こちらの話を聞くかは、自分が相手からどの程度尊敬されているかによって、すでに決まっているのです。管理の基本概念は、「恐怖」によって人を動かすことでした。それに対して、メンターの場合は「尊敬」によって人を動かすこと、と言うことができます。人は自分が尊敬する人の話を、とても真剣に聞きます。そして言われたことを素直に受け止めて、一所懸命に努力するのです。
▶メンターに特別な能力は必要ない
そもそも、尊敬されるためには、どうして良いのかわからないという人もいると思います。実は、尊敬されるために最も必要なことは、自分自身が一日一日の人生を大切にして、一所懸命に生きることです。自分の人生を精一杯生きていくこと、それ自体がメンターになることなのです。ですから、メンターになれるかどうかは能力や経験とはまったく関係ありません。自分が夢を持ち、本気になって自立した生き方を実践することで、メンターになることができます。それは、相手がどうかという問題ではなく、自分自身の生きる姿勢の問題なのです。
つまり、自分の生き方によってたとえ相手が部下であっても、上司であっても、そして家族や友人であっても、どのような相手に対しても、自分がメンターになることができるのです。ある電力会社に、Sさんという人がいます。ある時、Sさんが関連会社に出向となり、私もSさんの地域支援活動の協力のために、講師としてその出向先の会社に伺いました。講演後、Sさんとその上司である部長の二人が、私を空港まで送ってくださいました。その時のことです。Sさんと私が話をしていると、部長はメモを取り出して、何かを書いています。時々、Sさんの顔を覗くようにしては、またメモを取ることを繰り返しています。私は思わず、部長に聞きました。
「いったい、何をメモしているのですか?」
「とにかく彼の話を聞いていると、参考になることがたくさんあるんですよ。仕事面でも地域の方々から絶大な信頼を得ています。何もかもが参考になります。だから、なるべく一緒にいて、彼の話の内容をメモに取るようにしているんですよ。忘れっぽいものですから……」
部下は上司のメンターになることもできます。部下の生き方が、上司にとって最高の教科書になるのです。また、外食フランチャイズ・チェーンで、大きな成功をおさめた会社があります。その会社には、全国に広がる店舗を支援するために、スーパーバイザーという仕事があります。スーパーバイザーは、二十代から三十代の若手中心で構成されています。その仕事は、加盟店のために、様々な支援を行うことです。スーパーバイザーと加盟店の信頼関係が、フランチャイズ・チェーンのネットワークを支えているのです。
もし、スーパーバイザーが信頼関係のないまま、「年末年始は休まず営業してください」等の話を、加盟店に持っていったとします。すると、次のような言葉が返ってくることでしょう。「いい加減にしてくれ! 朝早くから深夜まで働いて、こっちは疲れ果てているんだ。年末年始ぐらいは休ませてくれ!」このようにならないように、この会社では信頼関係をつくるノウハウを持っています。そのノウハウとは、「本気」です。相手が成功したいと思っている気持ちよりも強い気持ちを持って、相手を成功させるべく行動することです。つまり、相手よりも本気になるということです。
「若いのに本当によくやってくれる。私のお店のことを、いつでも真剣に考えてくれる。本当に感謝しているよ」
このように相手から言われるようになれば、フランチャイズ・チェーンを成功させることができるようになります。知識や経験では及ばなくとも、気持ちであれば相手よりも強く持つことは可能です。自分のやる気以上に、他人をやる気にさせることはできません。そしてこれこそがフランチャイズ・チェーンを成功させる真のノウハウなのです。
▶相手がどうかの前に、自分がどうしているか
ある時、「難しい仕事は、絶対に部下にはやらせない」と言う社長にお会いしました。
「仕事は難しいほど、うまくいった時に、涙が出るくらいの感動がある。だから、もったいなくて、難しい仕事を部下にはやらせたくないよ」
もちろん一方で、社員はみな、社長の仕事をやってみたいと思っています。相手がどうかの前に、はたして自分が相手の見本となるような行動をしているか考えてみてください。上司が仕事を楽しまない限り、社員が仕事を楽しむことはできません。上司が困難を感動に変えない限り、部下は困難を避けるようになってしまいます。上司がビジョンとポリシーを貫かない限り、部下は自分の目先の安楽だけで、行動してしまいます。
歴史上でも、優れたリーダーは、このことを治世にも活かしてきました。
中国の古典『十八史略』の中に、唐の太宗が行った理想の政治の時代と言われる「貞観之治」について書かれたものがあります。太宗は儒教思想に基づき、誠意を尽くすことによって国を治めることに成功した人物です。ある時、次のような提案書を持ってきた者がいました。
「臣下を試すために、わざと怒ってください。その時、たとえ怒られたとしても、信念に基づいて筋を通そうとする者は、正直な臣下です。陛下の威厳に恐れをなして言われた通りのことをする者は、信用できない臣下です」
すると、その提案書を見た太宗は、次のように答えました。
「私自身が間違った発言をすることもあるだろうに、どうして臣下ばかりに正直さを求めることができようか。その前に自分自身が正直であることを心掛け、臣下に対しても誠意を尽くすことによって、天下を治めたいのだ」
また、窃盗をなくすために、法律を重くして厳しく罰するようにと提案してきた者がいました。その提案を聞いた太宗は、次のように答えました。
「それよりも、私たちが無駄な金を使わず、労役や税金を軽くし、まじめな者を選んで仕事を任せるべきではないか。人民にとって衣食があり余るほどであれば、誰も盗みはしなくなるはずだ。それなのに、どうして法律を重くする必要があろうか」
数年後、窃盗はいなくなり、旅人は安心して野宿することができるようになりました。理想の時代を築き上げたリーダーは、武力だけで国が安定し、繁栄することはないことを知っていました。そして、国を治めるために必要とされる最も強い力とは、自らの生き方であることにも気づいていたのです。
▶相手をそのまま受け入れる
こちらがどこまで相手を受け入れるかによって、相手もどこまでこちらを受け入れてくれるかが決まります。「困った人だなぁ」と思った時から、相手は自分にとって困った人というレッテルを貼ったことになります。そうなると、そのレッテルを見ながら、すべてその後の対応を考えることになってしまいます。
つまり、そのレッテルがある以上、適正な対応をすることが難しくなってしまうのです。
そもそも困った人というのは、こちらの思い込みにすぎません。自分の期待していたことと違う発言や行動をした人を、困った人にしてしまっただけなのです。私たちは相手のことを何も知らないまま、その表面的な発言や行動だけを見て批判してしまうことがあります。しかし、相手がそのような発言や行動をする理由が、その人の置かれている状況やそれまでの人生の中に必ずあるはずです。それはこちらが勝手に、表面的に分析しても、はかり知れないものなのです。
相手の短い一つの発言であっても、これまでの人生のすべての蓄積の上での、とても意味深く重い一言なのです。ある意味、すべての人間は自分勝手で未熟です。こちらの思い通りになる人間もいなければ、完成された人間もいません。しかし、私たちは自分のことはさておき、相手に対しては「こうしてほしい、ああしてほしい」と、様々なことを要求してしまいます。そしてそれらの要求が多いほど、期待外れになることも多くなり、信頼関係はなくなっていくことになります。
他人に期待することは、信頼関係を失うきっかけをつくることなのです。
信頼とは、相手がこちらの思い通りにならなくとも、そのまま受け入れることです。いわば、「信頼できない人を信頼すること」が信頼なのです。つまりこちらが信頼することで、相手からも信頼されるようになります。相手がこちらを受け入れた時、はじめてこちらの話を聞くようになるのです。
どれだけ正しいことを伝えても、伝わるかどうかはわかりません。相手がこちらの話を聞きたいと思わない限り、何を言っても無駄になってしまいます。つまり話している内容が伝わるかどうかは、相手から信頼されているかどうかによって決まるのです。
いわば信頼とは、相手がこちらの話を聞きたくなるような気持ちになることです。
▶話し合っても、わからない
「話し合えば、わかる」ということがよく言われますが、本当にそうでしょうか。もしそうならば、会議の時間が長い会社ほど、あるいは飲み会の回数が多い会社ほど、企業内のコミュニケーションはよく取れていることになります。そして、話し合う時間をつくりさえすれば、誰とでも信頼関係がつくれることになります。
しかし現実には、会議の時間が長く、飲み会の回数が多くなるほど、企業の業績が悪くなる徴候であると言われたり、また、話し合った結果、お互いの溝が深くなったりしてしまうこともあります。
いったいなぜ、このようなことになってしまうのでしょうか?
問題は、お互いの意識にあります。つまり、相手とわかり合いたいと思うか、相手とわかり合いたくないと思うか、ということです。
「あの人とは、何度話し合ってもらちがあかない。どうしてもわかってくれない」
「話し合おうとすると、喧嘩になってしまって、話し合いにならない」
これらは、はじめからわかり合おうと思っていないことに、本当の原因があるのです。つまり、多くの「話し合い」という機会は、自分の意見を相手に押し通すことを目的にしているからです。話し合えばわかり合える、というのは、お互いが相手のことを理解しようという気持ちが根底にあり、単に情報が共有化されていない時だけなのです。
そもそも話し合うのは、誰のためなのでしょうか。
自分の意見を押しつけようとして話し合うほど、話し合いはうまくいかなくなり、相手の意見を活かそうとして話し合うほど、話し合いはうまくいきます。自分の意見を優先して、相手の意見を否定しようとすれば、相手を説得することになります。もちろん、相手も自分の意見を否定されないように反論してきます。
しかし、相手の意見を聞くほど、相手もこちらの意見を聞いてくれるようになります。
自分の意見を押し通すためではなく、相手の意見を取り入れるために話し合えば、それによって、自分一人では到底できないようなすばらしいプランができます。相手を説得するためではなく、相手に共感してもらうために話し合えば、たくさんの仲間を集めることができます。
話し合うのは、相手のため、社会のため、日本のため、そして人類のためなのですから。
▶無理にやらせても自信はつかない
これまでの人材育成の考え方の一つに、次のようなものがありました。「はじめは厳しく管理して、やればできることを教えてから、少しずつ任せるようにして、できるようになってから最後は信頼して全面的に委任する」
さて、厳しく管理して人が成長したでしょうか。実際には、なかなか成長せずに、いつまでも厳しく管理し続けなければならなくなってしまったのではないでしょうか。
メンタリングでは、はじめから信頼します。自分が見本となり、夢を共有し、相手に尽くします。
そして信頼関係ができてきたら、だんだんと厳しく接していくこともあります。
さらに、強い信頼関係ができたら、叱ったり、怒ったり、厳しく管理をしても、相手はどんどん成長していきます。
よく、「はじめは言ったことをやらせるようにして、少しずつ自信を持たせたほうがいいのでは?」「はじめは、依存型でもいいのではないでしょうか?」というような、質問を受けることがあります。確かに、そういうステップで接したくなる気持ちはわかります。今までの人材育成の基本が、このように考えられてきたからです。しかし、メンターはこのような考え方とは一線を引いています。
なぜならば、一度でも、依存させてしまうと、自立させるためにより多くの時間と労力がかかるようになってしまうからです。
相手が言われないとやらないのは、今まで言ってやらせてきたからです。
そして、とても残念なことなのですが、言ってやらせたとしても自信はつきません。
それは言われたことを、仕方なくやっているからです。できて当然であり、できなければ、「無理なことをやらせる」と言って、こちらのせいにされてしまうかもしれません。また、失敗するといけないから、できるようになるまで任せることはできない、というのは、同じことを繰り返すような仕事の場合には有効でも、変化する社会の中で常に新たな状況対応を求められ続けるような仕事の場合には、まったく効果はありません。そうではなく、たとえうまくいかないことがあったとしても、それを糧にして、成長し続けていく姿勢を身につけさせることが必要なのです。
つまり、できるようになってから任せるのではなく、はじめから任せて、失敗を糧にすることができるような姿勢を身につけさせるということです。もちろん小さなことから任せて、だんだんと大きなことを任せていくようにします。そのためには、育成する上司が、相手の前で見本となって、失敗を怖がらず、失敗を糧にして成長することを楽しんでいなければなりません。
大切なのは、相手が自分の意志で、自分の判断でやっているという感覚を持ちながら行動することです。
言われたことを仕方なくやるのではなく、言われたことを喜んでやる。依存するのではなく、自発的に行動する、ということです。
その上で成果を出すことができれば、その時、真の自信が生まれるのです。
メンターにとって重要なことは、相手が行動したかどうかではなく、自立型の姿勢で行動したかどうかです。自立型の姿勢を支援するのがメンターなのです。
▶相手の気持ちになって考えてみる
相手をそのまま受け入れることから、さらに相手と同じ視点に立って考えてみることができれば、より深い信頼関係をつくることができるようになります。
そして、相手と同じ視点に立って考えるためには、まず相手と同じ気持ちにならなければなりません。
「相手と同じ気持ちになる」
言葉で表現すればとても簡単なことですが、実際には極めて難しいことです。相手と同じ気持ちになろうとしても、自分の思いが優先してしまって、なかなかできるものではないでしょう。
私たちは、他人との関係において、すでに第一印象で思い込んでしまっていることがあります。さらに、長くつきあっていれば、それまでの経緯から、相手の性格まで決めつけてしまっていることもあるかもしれません。
しかし、この自分の思い込みが、相手と同じ気持ちになる時に、最大の障害となってしまうのです。
ですから、相手と同じ気持ちになるためには、あらかじめ自分が相手に対してどのような思いを持っていたとしても、それを一時忘れて考えてみることが必要です。
上司対部下の関係や、これまでの行動に対する評価、好き嫌いなど、自分の思い込みを一時忘れて、相手を一人の人間として、その思いや感情をありのまま受け止めてみるのです。
これは完璧にできなくともかまいません。いや、そもそも完璧に相手と同じ気持ちになることなどできないことなのです。
それよりも、人間関係においては、どのような姿勢でいるかが問題です。なぜなら、こちらが同じ気持ちになって考えようとしていることが相手に伝われば、それによって信頼関係ができるようになるからです。
また、相手の気持ちに少しでも近づくことで、相手に対して、どのような支援をすべきかも、適切に判断することができるようになります。
支援の手法は多岐にわたります。その中で、どのような支援が望ましいかは、相手の状況、特に相手の気持ちによってまったく変わってしまうのです。
つまり、相手の気持ちに近づくことができれば、相手の視点から物事を判断することができるようになります。
反対に、自分と相手の考える視点が違えば、相手に対する接し方を誤ってしまいます。それこそ、どんなに支援をしても、相手の気持ちは、「そうじゃないんだ」「ありがた迷惑だ」ということになってしまいかねません。
適切な支援をするためにも、相手の気持ちになって、相手の視点から考えることが必要なのです。
▶自己責任と信頼関係
大手メーカーX社の営業担当Eさんから、そのお客様であるY社の方々と一緒に食事でもいかがでしょうかと、お誘いを受けたことがありました。
お話をしているうちに、なんとなく不思議な雰囲気であることに気づきました。Eさんの話を、お客様であるY社の方々が一所懸命に聞いているのです。本来は、お客様であるY社の方々の話を、営業担当のEさんが一所懸命に聞くはずです。
私は不思議に思って、Y社の方に聞いてみました。
「どうして、そんなに一所懸命に話を聞いていらっしゃるんですか?」
すると、Y社の副工場長は、次のような話をしてくれたのです。
「私はX社のEさんのことを、誰よりも信用しているんです。実は、何年も前のことなんですが、X社が納品した機械が壊れて、大きなトラブルになったことがあったんですよ。それは社会問題になりかねないほどの大きなトラブルで、その時、私たちとX社の方々と話し合いをすることになったんです。
ところが、X社の方々は、一方的に、自分たちには責任はない、と言い張るんです。私もはじめは黙って聞いていたのですが、だんだんと腹が立ってきましてね。もうこれ以上我慢ならん! と思って怒鳴り返そうと思った瞬間、Eさんが大声で怒鳴ったんです。いい加減にしろ! すべて私たちに責任があるんじゃないか! なんで相手のせいにするんだ……とね。その時、Y社にもすごい人間がいると、私は本当に驚きました。Eさんは一人で、すべての責任を負うことも覚悟している。彼は信用できる、彼とならばこの問題は解決できるって、その時確信できたんです。
そして、一緒に協力し合って、なんとか解決することができました。その後、社内でこの話をしたんです。
そうしたら、みんな彼のファンになってしまいました。うちの会社では、みんなEさんと仕事をしたがっていますよ」
自己責任の姿勢がなければ、信頼関係をつくることはできません。自分の目先の損得を判断基準にしたのでは、信頼関係をつくることは難しくなります。
とはいえ、目先の損得をなかなか無視することはできないかもしれません。そんな時は、将来のはるかに大きな損得で考えてみるようにしてみましょう。
長期的な視点や、全体的な視点で考えてみれば、決して損ばかりではないことに気づくことができると思います。
ビジネスは信頼関係によって成り立っています。信頼関係がなければ、仕事をすることはできなくなってしまいます。信頼を失うことは簡単ですが、信頼を得ることは、とても難しいものです。
今、損をすることは、より強い信頼関係を築き、将来にわたって大きな利益を得るチャンスかもしれません。
いつも目先の損得だけで考えている人が、相手から信頼されることはありません。
そして、信頼されるためには、自分の目先の損得よりも、相手や社会の損得で考えることが必要です。
いわばそれは善悪で考えることです。善悪の判断がつかなくなり、損得だけを基準に活動する企業は、どれほど一時的に大きな利益を上げたとしても、いずれ必ず社会からの信頼を失ってしまいます。
【日時】 | 2025年 6月3日(火) 13:00~18:00(開場12:40予定) |
【座席のお願い】 |
★受付順に自由席となりますが、ご自身のお席のみの確保をお願いいたします★ |
【講師】 |
株式会社アントレプレナーセンター |
【参加費】 |
・お1人様 ¥33,000(税込) < 参加費用に含むもの > ◆「メンタリング・マネジメント」公開講座テキスト ◆「アントレプレナーセンター」ロゴ入りバインダー |
【お支払い方法】 |
・銀行振込 申込み完了と同時に、振込口座を詳細メールにてご連絡いたします。 大変恐れ入りますが、振込手数料はお客様のご負担となります。 メールが届かない場合は、担当までご連絡をお願い致します。 ※弊社発行の『請求書』が必要な方は、別途事前にご連絡をお願いいたします。 ※弊社発行の『領収書』が必要な方は、別途事前にご連絡をお願いいたします。 ※『領収書』が必要な方は、別途事前にご連絡をお願いいたします。講座当日の受付時にお渡しいたします。 |
【キャンセル規定】 | ・14日前までのキャンセルは、振込手数料を差し引き、ご返金いたします。それ以降のキャンセルは、全額お客様のご負担とさせて頂きます。 |
【定員】 | ・50席 ※残席:50 |
【会場・参加規約】 |
・スクエア荏原 イベントホール 住所: 〒142-0063 東京都品川区荏原4-5-28 TEL: 03-5788-5321 【地図】 https://www.shinagawa-culture.or.jp/square/access.html |
【その他(受付方法について)】 |
・受講票は発行しておりません。直接会場にてお名前を確認いたします。 ・確認方法として「お名刺」を1枚受付にご提出をお願いします。 ・お名刺が無い方は、その旨を受付にお申し出ください。 |
【講座全体に関する録音・録画・撮影について】 |
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この度は弊社主催講座をご検討いただき、ありがとうございます。この講座を通じて、少しでもお役立ていただければ幸いです。内容をご確認の上、必要事項をご入力いただいた後、お手続きの詳細(お振込み先情報等)を記載した自動返信メールがお手元に届きます。それでは、以下順にご入力をお願いいたします。
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▶お申込み完了と同時にお送りする自動返信メールに「お手続きのご案内・お振込み先情報」を記載しております。
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